第四次産業革命

インテリジェント時代のデジタルトラストとは

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急速な技術革新の中で、デジタルの信頼性はかつてないほど重要になっています。 Image: Getty Images/iStockphoto

Daniel Dobrygowski
Head, Governance and Trust, World Economic Forum
Bart Valkhof
Head, Information and Communication Technology Industry, World Economic Forum
  • 急速な技術革新の時代において、デジタルに対する信頼はかつてないほど重要になっています。
  • 信頼を得るためには、すべてのステークホルダーの安全性と透明性を確保するための総合的なアプローチが必要です。
  • 責任あるテクノロジーの開発と展開において、ハイテク部門がどのような役割を果たせるかを検証します。

インテリジェント時代において、普及率、データへのアクセス、相互接続性は、あらゆる成功企業の原動力となっています。このことは、次世代のデジタル技術を開発・展開する企業にとって特に重要です。

信頼は自動化できません。信頼は、構築された環境から生まれるものでも、新しいコードの行から見つかるものでも、新しい大規模言語モデル(LLM)によってトレーニングされるものでもありません。信頼は、テクノロジーの背後にいる人間が獲得することを選択し、そしてその仕事を通じて実現すると決定しなければならないものです。ICT企業にとって信頼とは、技術開発サイクルにおける他のあらゆる意思決定に組み込まれなければならない選択なのです。

「デジタルトラスト」とは

2022年発行の世界経済フォーラムによるレポート「Earning Digital Trust: Decision-Making for Trustworthy Technologies(デジタルトラストの獲得:信頼に足るテクノロジーのための意思決定)」では、デジタルトラストを「デジタル技術、サービス、そしてそれらを提供する組織が、すべてのステークホルダーの利益を守り、社会の期待や価値を維持する」約束であると定義しています。技術開発のリーダーたちは、セキュリティと信頼性、説明責任と創作物に対する監視、包摂性、倫理性、責任感の促進について野心的な目標を設定することで信頼を獲得します。また、次のようなデジタルトラストの各側面で明確かつ測定可能なアクションを取ることによって、信頼を得るという目標にどれほど熱意を持って取り組んでいるかを証明することができるでしょう。

  • サイバーセキュリティ
  • 安全性
  • 相互運用性
  • プライバシー
  • 透明性
  • 是正可能性
  • 倫理
  • 公平性

さらに、信頼はいつまでもそのままではないと認識することも重要です。むしろ、個人が抱く期待と合理的要望は、時間とともに拡大する可能性があります。このような理由から、今日、私たちはデジタルトラストのもう一つの側面、持続可能性を意識する必要があります。デジタル技術が消費するエネルギーや水などの資源が増大するにつれ、信頼されるテクノロジー企業は、その義務の一部として持続可能性を考慮しなければなりません。

Digital trust in the intelligent age.
インテリジェント時代のデジタルトラスト Image: 世界経済フォーラム

信頼の獲得が重要である理由

急速な変化と技術的発展の時代においては、デジタルトラストを獲得することが根本的に重要になります。次世代のデジタル技術がデータの収集と処理に大きく依存する、いわゆるスマート技術やインテリジェント技術である現在は特にそうです。すでに私たちは、サイバーセキュリティやプライバシー保護の失敗、新たなテクノロジーの開発に対する責任の不履行などが一因となって、社会的信頼に亀裂が入りつつある様子を目の当たりにしています。このことが、テクノロジー企業と政府、イノベーターと機関、そしてテクノロジー企業と一般人との関係を悪化させているのです。

米国では過去10年間で、かつてはあらゆる事業分野で最も信頼できるとされていたテクノロジー業界が、わずか4年で6位に転落しました。また、2022年から2023年の間に米国人の3分の1から4分の1が、他のすべての企業部門よりも信頼できないと回答しています。2024エデルマン・トラストバロメーター「危機に瀕するイノベーション」によると、イノベーションの管理が不十分(世界全体で39%)であり、テクノロジーに取り残されていると考える人もかなりの数に上ります。また、最も台頭しつつある技術的開発であるAI(人工知能)については、個々人が多大に複雑な感情を持っていることが分かりました。

個人と政府の両方が、社会とテクノロジー部門の関係を再定義しようとしているのは不思議なことではありません。テクノロジー業界は、信頼に関する取り決めを守ることができていなかったため、事業に対する「ソーシャルライセンス」を急速に失いつつあります。それに伴い、製品を継続的に採用、普及させていく力もなくなっています。同時に、新しいAIモデルやアプリケーションがデータプールやデータレイクへのアクセスをますます要求するようになると、個人や企業の顧客の不満は増大し、重要な情報を秘匿する方がデジタル生活や実際の生活にとってはるかに安全であることに気付いて、「データ干ばつ」につながる可能性があります。

しかし、テクノロジー部門は「不信は避けられないものだ」と受け入れる必要はありません。信頼を得るために行動を起こすときです。

テック企業の役割

AIやその他のインテリジェント・テクノロジーの変革が期待される中、事実上すべての産業と経済が、これらのテクノロジーから利益を得る方法だけでなく、責任ある導入のための方法に関する指針を求めています。世界経済フォーラムは「AIガバナンス・アライアンス」の一環として、AIの責任ある導入を支援するために、幅広い産業界から100社を超える企業の積極的な関与を得ています。このことからも、産業界からの関心の高さが分かるでしょう。このような幅広い関心が存在するのは、企業にとってAIの正しい利用を推進することに多くのインセンティブがあるからです。経済的な観点からだけではありません。AIの利用が望ましくない結果につながった場合に責任を問われる可能性があるためでもあります。

このような責任の重視は、産業界からは、テクノロジーサプライヤー(ICT企業)が信頼に関する同じ価値観を念頭に、インテリジェント・テクノロジーが開発、展開されていると保証してくれると見られていることを意味します。これまで見てきたように、信頼は人間による意識的な意思決定の結果です。ユーザーがテクノロジーの責任ある利用について適切な判断を下す必要があるように、ICT企業のリーダーたちも、信頼に足るテクノロジーの開発と展開について意識的な判断を下す必要があります。

今日、テクノロジーの相互接続はますます進んでおり、スマートコネクティビティからモノのインターネット(IoT)機器、最新のAI搭載アプリケーションまで、幅広いインテリジェント・テクノロジーを展開する複数のICTプロバイダーに任せ切りになっています。責任ある導入という観点では、このことはICT企業がリーダーシップを発揮する機会となるでしょう。ICTセクターは、製品やソリューションの開発・展開の際に、同フォーラムが提案するものと同じ言葉を使用し、同じ信頼原則を遵守することで、インテリジェント・テクノロジーの責任ある導入を加速することができます。

Adapted from Krzysztof Ejsmont (2017), Holistic Assessment Method of Intelligent Technologies Used in Production Processes.
クリストフ・エイスモン著「Holistic Assessment Method of Intelligent Technologies(生産プロセスで使用されるインテリジェント・テクノロジーの総合的評価手法)」(2017年)より引用。

信頼がこれまでになく求められています。信頼は、インテリジェント時代において経済と人々の繁栄を可能にする重要な要素である可能性があります。今、消費者と産業界は、デジタル技術、サービス、そしてそれらを提供する組織が、すべてのステークホルダーの利益を守り、社会の期待や価値を維持することを、これまで以上に信頼できるようにならなければなりません。

そのため、ICTセクターは、信頼の原則を戦略的に採用していることを示す必要があります。大まかな声明を出したり、自社サイトで単に倫理的AIに関する考え方をまとめたりするだけでなく、これらの原則がテクノロジーの開発と展開を導くプロセスにどのように組み込まれているのか、具体的な内容について透明性を高める必要があります。

そこで、同フォーラムのICTストラテジー・オフィサー・コミュニティのメンバー数名に、同フォーラムのデジタル・トラスト・フレームワークで示されたトラスト原則を自社でどのように戦略的に取り入れているかを尋ねました。その結果、3つの主要なデジタルトラスト目標に沿って整理された次のような洞察が得られました。

  • セキュリティと信頼性
  • 説明責任と監視
  • 包摂性、倫理、責任

私たちは、このフレームワークが、ハイテク企業が自社の製品やサービスの信頼性を確保する方法をより明確にすることを奨励する、より広範なムーブメントの始まりとなり、産業、経済、社会がテクノロジーの責任ある導入を加速させる一助となることを願っています。

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