世界中で洪水リスクと闘う、5つのテクノロジー
洪水が頻発するようになるにつれ、そのリスクを軽減し、人々とインフラの両方を保護する革新的なソリューションを活用した試みが行われています。 Image: Unsplash/Jonathan Ford
- 水上住宅、洪水対策用水路、スポンジシティ、AIを活用した洪水予測などの革新的なソリューションは、世界中で洪水リスクの軽減に役立っています。
- テクノロジーと自然に基づくアプローチは、増大する洪水の脅威に対処するための持続可能かつ適応可能な方法を提供します。
- 世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2024年版」では、長期的な環境脅威がリスクの大半を占め、異常気象を主要なリスクとして特定しています。
世界中の多くの地域で、洪水は、避けることのできない生活の一部となりつつあります。
湾岸諸国や米国における深刻な洪水から、英国、リビア、イタリア北部で起きた予期せぬ大洪水まで、異常気象の増加を無視できない状況となっています。世界経済フォーラムによる最新のグローバルリスク報告書では、回答者の3分の2が、洪水を含む異常気象を2024年におけるリスクのトップに挙げました。
洪水は世界で最も多い自然災害であるだけでなく、洪水にさらされる世界人口の割合が増加しているという調査結果もあります。
海面水位の上昇に伴い、この傾向は加速すると予想されています。東京、ニューヨーク、ムンバイなど、世界の大都市の多くは海岸線近くに位置しており、多くの人々がリスクにさらされているのです。
洪水がより頻繁に発生するにつれ、革新的な解決策や技術の進歩により、リスクを軽減し、人々とインフラの両方を守るための試みが行われています。よりスマートな都市計画から最先端技術まで、地域社会が増大する洪水の脅威に対処する5つの方法を以下に示します。
1. オランダの水上住宅
水上住宅は、イギリスの建築設計事務所グリムショウとオランダのメーカー、コンクリートバレー社とのコラボレーションによるものです。低地で増大する洪水の脅威に対処するための設計となっており、浮いているポンツーン(桟橋)構造の上に家が設置されています。
水位が上昇すると家が浮き上がり、居住スペースに水が浸入するリスクを最小限に抑えます。コンクリートやガラスのような、丈夫かつ腐食しない建材を用い、洪水が起こっても耐えられる設計となっています。さらに、ソーラーパネルと熱交換器を備えているため、洪水時も発電し、電力を維持することが可能です。
2. ウィーンの洪水防止システム
1969年、ウィーン市は、洪水から同市を守るため、全長21kmにわたる洪水対策用水路「ノイエドナウ(新ドナウ)」を建設。
ノイエドナウは既存のドナウ川と並行して流れており、ウィーンを水関連の災害から守るため、洪水時の余剰水を処理するよう設計されています。通常の気象条件下では堰が閉じているものの、洪水が発生すると、堰が作動してノイエドナウが余剰水を受け入れ、本流への負担を緩和します。
3. 中国のスポンジシティ
中国は、雨水を吸収・貯留し、洪水リスクを軽減するために、浸透性のある地面、湿地帯の復元、水路など、自然に基づく解決策を用いた都市設計手法である「スポンジシティ」というコンセプトを生み出しました。
このコンセプトは自然界からヒントを得て、水を吸収する地球の能力を模倣するものであり、素早く排水するために硬い地面や排水システムに頼ることが多い、従来の都市設計とは対照的な概念です。
4. デンマークのグリーン気候スクリーン
デンマークには、「Green Climate Screen(グリーンクライメート・スクリーン)」と呼ばれる雨水管理システムがあり、近隣の建物から流出する水を自然のプロセスで処理するよう設計されています。
雨水は、雨樋からフェンス(スクリーン)の上部に流れ込み、そこで構造体全体に分散され、柳材パネルの裏に配置されたミネラルウールが吸収。その後、水のほとんどは蒸発し、余分な水はフェンスの下にあるプランターに流れ出る、もしくは大雨の時には近くの他の緑地に流されます。
降雨量が非常に多い場合は、大量の水を貯留できるように設計された地域に排水することにより、洪水リスクの軽減に役立っています。
グリーンクライメイトスクリーンは雨水を地上で処理するため、トンネルのような高価かつ二酸化炭素を大量に消費するインフラを追加する必要がありません。ポンプではなく重力を利用するため、エネルギーを消費する設備も不要です。
5. テキサス州内外におけるAIと衛星画像の活用
新しいテクノロジーと機械学習の活用により、備えを強化し、洪水の影響を最も受けやすい地理的地域を理解することができます。
アリゾナ大学のベス・テルマン助教授は、Climate Change AI社から2023年度のイノベーショングラントを授与され、テキサス州リオグランデ・バレーのコミュニティ組織と協働しています。
同助教授は、機械学習と衛星データを利用して詳細な洪水マップとデータベースを作成し、洪水関連の訴訟を支援するとともに、他より洪水の影響を多く受けている地域での適応を促進していく予定です。同助教授のチームは高解像度の衛星データを用いてAIモデルを10%改善し、地図が現実の洪水状況を正確に反映するようにしています。
また、グーグルもAIを活用した洪水予測に取り組んでいます。同社のFlood Hub (フラッド・ハブ)は、地域の洪水データと洪水予測を最大7日前に提供するよう設計されており、人々が事前に対応し、洪水リスクを軽減できるよう支援。現在、Flood Hubは80カ国以上をカバーし、1,800を越える地点での洪水予測を提供しています。洪水予測は毎日更新されるため、洪水発生の見通しをつけ、それに備えるための信頼できる情報源となっています。
生活の一部としての洪水
洪水が世界中で頻繁に起こるようになるにつれ、地域社会はリスクを軽減し、住民を守るための斬新な解決策に目を向けるようになりました。水上住宅や洪水対策用水路から、スポンジシティおよびAIを活用した洪水予測まで、革新的なアプローチは、増大する洪水の脅威に対処するための持続可能かつ適応可能な方法を提供します。
テクノロジーおよび自然をベースとした解決策を活用することにより、都市や地域は将来の洪水への備えを強化し、長期的なレジリエンスを促進しながら人々とインフラの安全を守ることができるのです。
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Louise Thomas and Will Hicks
2024年12月16日