10億人を4年でつないだデジタルインクルージョン、AIの時代に倍増させるには
デジタル・ディバイド(情報格差)は、経済、教育、社会、地理的な境界線にまたがる、重層的かつ複雑な課題です。 Image: Getty Images/metamorworks
- インテリジェント時代には、AI(人工知能)や最先端技術が日常生活に溶け込んでいきます。
- しかし、デジタル・アクセスの改善、インフラ、リテラシー、そしてジェンダー・ギャップへの取り組みがなければ、すでにグローバルに広がっているデジタル・ディバイド(情報格差)はさらに拡大することでしょう。
- 疎外されたコミュニティや低所得国をインテリジェント時代に確実に組み込んでいくためには、サービスが行き届いていない地域に投資し、ジェンダー間のデジタル・ディバイド、およびグローバル経済の基盤である中小企業のニーズに対応する、的を絞った政策が必要です。
第四次産業革命がより大きな技術統合への道筋をつける中、私たちはインテリジェント時代の入り口に立っています。インテリジェント時代とは、AI(人工知能)や最先端技術が日常生活に溶け込んでいる時代を指します。しかし、この広範囲にわたる変革の最中、私たちは深刻な矛盾に直面しています。前例のない成長、イノベーション、人類の進歩に大きな期待が寄せられるテクノロジーは、格差を深め、不平等を悪化させるリスクもはらんでいるのです。
インテリジェント時代がその潜在能力を真に発揮するためには、私たちは最も重要な課題のひとつに早急に取り組まなければなりません。
2021年に発足した世界経済フォーラムのイニシアチブであるEDISONアライアンスは、170のパートナー企業とともに、2025年の目標を前倒しし、世界中で10億人以上の人々を医療、教育、金融の重要なデジタルサービスに接続することに成功しました。その成果は100カ国以上に及び、南アジアとアフリカでは特に大きな進歩が見られました。この画期的なマイルストーンは、グローバルなデジタル・ディバイド(情報格差)の解消において官民連携の力を活用することにより、大きな成果が得られることを証明しています。
しかし、このような目覚ましい成功にもかかわらず、グローバルなデジタル・ディバイドは依然として広く残っています。トニー・ブレア研究所によると、2030年までにインターネットへの普遍的なアクセスを実現するには4,460億ドルの費用が必要だと予測されています。一見すると大きな額ですが、このような投資は開発途上国に8兆7000万ドルの利益をもたらす可能性があります。1,800%を超える投資収益率は、投資家にとって見逃すことのできない魅力的な機会です。
デジタル・ディバイドは、経済、教育、社会、地理的な境界線にまたがる、重層的かつ複雑な課題です。今日、グローバルな人口の約3分の1にあたる約26億の人々がインターネットに接続できないまま、必要なサービスや機会へのアクセスを奪われています。デジタル・エクスクルージョン(デジタル格差)は、より広範な課題を引き起こす一因となっています。45億人が適切な医療を受けられず、14億人が銀行口座を持たず、学校に通えない子供たちの数は増加の一途をたどり、今や世界で2億5,000万人に達しているのです。
デジタル・ディバイドへの取り組み
デジタル・ディバイドへの取り組みの第一の柱は、信頼性が高く、レジリエンス(強靭性)のあるデジタル・インフラの構築です。これは、開発途上国だけでなく、高速インターネットへのアクセスに大きな格差が存在する先進国においても、不可欠な投資です。AIやその他の最先端テクノロジーの台頭により、それらが依存する膨大なデータフロー、リアルタイム分析、シームレスな接続性を処理するための高品質なデジタル・インフラの必要性がこれまで以上に高まっています。
しかし、アクセスだけでは十分ではありません。モバイルブロードバンドネットワークは世界の大半をカバーしていますが、オンラインに接続できない人々も多く存在します。障壁になっているのは、機器やデータプランの高額な料金、デジタル・リテラシーやスキルの不足、関連するローカルコンテンツの不足などです。
また、インフラ以上に、デジタルリテラシーは重要な課題です。インターネットへのアクセスは不可欠ですが、デジタルツールの操作方法や利用方法を理解することも同様に重要だからです。この課題に対処するために、各国政府や組織は、デジタルサービスを安全かつ責任を持って生産的に利用するために必要な知識とスキルを市民に与える、包括的デジタル教育プログラムに投資しなければなりません。これは、特に最大の格差が存在する、高齢者やサービスが行き届いていない地域の人々にとって重要です。
例えば、ノルウェーの「生涯デジタル(Digital Throughout Life)」プログラムでは生涯学習を重視し、一人ひとりが技術の進歩に対応できるスキルを身に付けられるようにしています。同様に、シンガポールは「生活のためのデジタルスキル(Digital Skills for Life)」や「高齢者のデジタル化支援(Seniors Go Digital)」といった枠組みで、あらゆる年齢層の人々を対象に、基本的なデジタルスキルを習得する機会を提供しています。インドの「ナショナル・デジタルリテラシー・ミッション(National Digital Literacy Mission)」プログラムでは、すべての家庭に少なくとも1人、基本的なデジタルスキルに習熟した人材がいるようにすることにより、デジタル・ディバイドの解消に重点的に取り組んでいます。
また、女性がデジタル経済に十分に参画することを阻む障壁を取り除くことも必要です。現在、モバイルインターネットにおけるジェンダー・ギャップは15%。この現状を踏まえると、7人に1人の女性が今日のデジタル経済に参加するために必要なツールを持っていないことになります。この格差は社会的な課題であるばかりでなく、経済的課題でもあります。アライアンス・フォー・アフォーダブル・インターネット(A4AI)によると、低・中所得国はジェンダー間のデジタル・ディバイドに起因する、インターネット利用のジェンダー・ギャップにより、過去10年間で国内総生産(GDP)で1兆ドルを失ったと推定されています。
さらに、手頃な価格という点でも依然として大きな障壁が残っています。アフリカの一部の地域においては、基本的なインターネット・パッケージの料金が平均月収の20~30%にも達します。機器の高額な費用と相まって、教育、医療、金融サービスなどのデジタル機会を最も必要としている多くの人々を事実上排除しているのです。
インテリジェント時代の未来
10億という数は単なる数字ではありません。その後ろには、新しく得られたチャンス、一変した人生という幾億もの物語があるからです。インドのマディヤ・プラデシュ州では、EDISONアライアンスがデジタル薬局の設立を支援し、遠隔地における高品質で手頃な価格の医療へのアクセスを改善しました。ルワンダでは、同アライアンスが中小企業への信用供与と金融サービスへのアクセスを促進し、地元企業の成長と繁栄を支援しました。
インテリジェント時代という未来を考えると、急速に進化するデジタル環境は、デジタル・ディバイドを拡大する恐れがあります。その結果、疎外されたコミュニティや低所得国は、恩恵や将来性からさらに排除されるリスクにさらされるでしょう。このギャップを埋めるためには、サービスが行き届いていない地域への戦略的投資を優先する必要があります。的を絞った政策で、ジェンダー間のデジタル・ディバイドや、グローバル経済の基盤である中小企業の特定のニーズに対処しなければなりません。
デジタルの力で10億人の生活を強化したことは、素晴らしい成果ですが、それは始まりに過ぎません。前進するにあたり、私たちは、世界中のどこに住んでいようと、また社会経済的背景がどうであろうと、すべての人々に有意義なコネクティビティを確保する、という私たちの決意を再確認する必要があります。これは、デジタル・アクセスの拡大だけでなく、デジタル・リテラシーの向上、そしてデジタル革命の恩恵がすべてのコミュニティで公平に共有されることを意味します。
EDISONアライアンスは、共通の目的を持って結束することで、どのような成果を生み出せるかを示してくれました。今こそ、この勢いを加速させ、誰もが、グローバルなデジタル経済に参加するチャンスに恵まれ、生活の向上と進歩を促す重要なサービスを利用できるデジタル社会を実現しようではありませんか。
本稿は、Fortune.com の記事の和訳を転載したものです。
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Daniel Dobrygowski and Bart Valkhof
2024年11月21日