従業員の健康への投資がもたらす、8つのメリット
世界経済フォーラムの新しいレポートによると、健康な従業員を育成する方法には既存のものと新しいものを合わせて4つがあることが分かりました。 Image: Unsplash/Gabin Vallet
- 肥満が蔓延しつつあり、何百万人もの死者と何兆ドルものGDP損失をもたらしています。
- 職場における従業員向け健康促進イニシアチブは、社会全体に影響を及ぼすこの課題への取り組みに役立つと、世界経済フォーラムの新しいレポートは述べています。
- このレポートでは、こうした取り組みから人々や企業が得られる8つのメリットが示されています。
毎年500万人の成人が死亡する原因に、肥満に起因する非感染性疾患があります。
英国では、肥満と過体重によるコストは年間1億2800万ドル、つまり国内総生産(GDP)の4%に相当すると推定。一方、過体重と肥満率が2019年の水準に維持された場合、グローバルに年間2兆2000億ドルの節約が可能となります。
これは複雑な課題であり、単純な解決策はありません。一方、職場は、従業員の健康的なライフスタイルを促進するためにより多くの取り組みができる分野のひとつであると、世界経済フォーラムの新しいレポートは提言しています。
レポート「Promoting Health and Well-Being: Employer Strategies for Encouraging Healthy Weight and Metabolic Wellness(健康と幸福の促進:健康的な体重と代謝の健康を奨励するための雇用主の戦略)」の著者たちは、「肥満と代謝性疾患による世界的な負担は、前例のないレベルに達しており、世界中の公衆衛生、社会、経済に大きな課題をもたらしています」と述べました。
最新の「World Obesity Atlas(世界肥満アトラス)」レポートも同意見です。「2013年に世界保健機関が定め、すべての政府が承認した2030年までに肥満の『蔓延を食い止める』という目標を達成する軌道に乗っている国は、今日、世界には存在しません」。
同フォーラムの「健康と幸福の促進」レポートでは、「社会全体でのアプローチ」を呼びかけ、企業がより健康的な労働力を育成するためにとることができるステップを概説しています。
職場が健康的なライフスタイルを奨励する方法
同フォーラムのレポートによると、健康な従業員を育成する方法には既存のものと新しいものを合わせた次の4つがあることが分かりました。
1. 労働衛生:これはすでに企業の基準となっています。「あらゆる職業における労働者の身体的、精神的、社会的ウェルビーイング(幸福)を最高度に高める」ことです。
2. ウェルビーイング・プログラム:広く普及しており、一般的に運動や栄養管理を通じて健康的なライフスタイルを奨励する従業員向けプログラムです。
3. 身体的健康管理と成果プログラム:グローバル企業でトレンドとして台頭しており、これには健康診断や、健康目標をビジネスの基盤に統合することが含まれます。
4. ターゲットを絞った介入:主に保険医療制度を雇用主が提供する大企業で採用されているこの方法は、体重や代謝に関する健康問題に直接アプローチします。
戦略ではありませんが、同調圧力も効果的であることがヨーロッパの研究で示されています。100以上の組織に属する4,000人以上のスタッフのデータを調査したところ、従業員の健康習慣は同僚の健康習慣(または不健康習慣)に大きく影響されることが分かりました。
「同僚が健康的なライフスタイルを推奨していると、従業員はより多くの果物や野菜をとり、運動も行う傾向にあります」と、BMCパブリック・ヘルス誌のアン・ファン・デル・プット氏とリア・エルワード氏は述べています。
従業員向け健康促進イニシアチブのメリット
従業員が健康になるのは良いことです。同フォーラムのレポートでは、従業員向け健康促進イニシアチブが成功した場合に、個人と企業が享受できる次のような8つの具体的なメリットを特定しました。
1. 間接費の削減。生産性が向上し、体調が悪くても無理に出勤する、および理由なく欠勤することがなくなることで、間接費が削減されます。
2. 従業員のエンゲージメントと満足度の向上。フィットネスを目的とした職場での介入は、従業員のウェルビーイングを向上させることが示されています。
3. 人材の定着率と魅力の向上。フレックス勤務やウェルビーイング・プログラムなど、ワークライフバランスの実践を公表している企業が、ミレニアル世代やZ世代の人材を惹きつける傾向にあります。
4. 全体的な従業員の健康と生活の質の向上。
5. 直接的な医療費の削減。米国の雇用主は2023年に、肥満および過体重に関連する医療費として900億ドルを費やしましたが、研究によると集中的な生活習慣改善プログラムを取り入れることで、3年間にわたって従業員の医療費支出が12%削減されたことが明らかになりました。
6. 雇用主の差別化。従業員向け健康プログラムに対する投資を行う大きな理由は、競争優位性の創出と従業員の関心との一致、そして医療費管理であり、雇用主の業界内での立ち位置や競争力が向上します。
7. 企業評価の向上。企業が健康プログラムを通じて従業員の期待により良く応えることで、企業評価と生産性の両方が向上するという好循環が生まれる可能性があります。企業評価が高まるほど、生産性はさらに上昇します。
8. 企業文化との調和。人を大切にする組織は、健康への投資が金銭的な利益以上のものをもたらし、企業全体の業績に貢献するポジティブな「文化的リターン」につながることを認識しています。
したがって、職場での健康促進イニシアチブに時間と費用を投資することが雇用主にとって不可欠です。これを奨励するために、同フォーラムのレポートでは、各国政府が金銭的補助や従業員の健康増進を推進する企業を公に表彰するなどのインセンティブ戦略を採用すること、また、主要な健康指標を満たすための規制基準を設けることを提案しています。
また、同フォーラムの「健康なワークフォース(Healthy Workforces)」イニシアチブは、職場における予防医療の推進により、従業員の健康とウェルビーイングの向上を目指しています。同イニシアチブは次のように述べています。「官民のリーダーたち、アカデミア、市民社会と協力して、意識を高め、グローバルかつ優れた洞察を共有して、働く人々のウェルビーイングに対する投資拡大を訴えていきます」。