健康の公平性が、ビジネスに極めて重要である理由
健康格差とその根本原因の解消に向け、民間セクターは大きな役割を期待されている Image: REUTERS/Luis Cortes
- 健康の公平性を実現するためには、多くの課題があります。
- 健康格差は世界の疾病負荷の一因であり、取り残されたグループや排除されたグループに不均衡な影響を与え、経済とビジネスの成長を阻みます。
- 民間セクターは、世界の健康公平性を実現していく上で大きな役割を期待されています。
健康の公平性とは、「すべての人が健康と福祉のあらゆる面で、人間としての可能性を発揮できる公平で公正な機会を手にしている状態」を意味しています。
しかし、データからは、私たちはまだその実現からほど遠いところにいるということが分かります。いくつか例を挙げてみましょう。
- 高所得国と低所得国の平均寿命の差は18年。
- 妊産婦死亡の94%は低中所得国で発生。
- 米国における黒人の母親の死亡率は白人の母親の2.5倍。
- 発展途上国では深刻な精神疾患を抱える人の最大85%が治療にアクセスできていない。
- 大気汚染による早期死亡の90%は低中所得国で発生。
個人の健康状態は、高収入の仕事に就くことができるかどうかや、健康的な食事がとれているか、アフォーダブル住宅に暮らせているかなど、医療以外の健康要因に最大70%依存しています。これらは、健康の社会的決定要因と呼ばれます。
しかし、健康格差が生まれる理由の根底には、人種差別、偏見、政治力、性差別など構造的な要因があり、それが健康的な選択を行うために必要な条件やリソースへアクセスできるかどうかを左右しているのが現状です。
健康の公平性を達成するためには、社会から取り残されたグループに悪影響を与える健康への障壁を取り除くこと、そして、コミュニティの力と資産を高めていくこと、この双方への取り組みが必要です。これは、単独のセクターで達成できるものでありません。企業、政府、市民社会、そして、コミュニティの枠を越えた持続的でマルチセクターにわたるコラボレーションが不可欠です。
なぜ健康の公平性が重要なのか
健康格差は、世界的な疾病負荷の一因となり、取り残されたグループや排除されたグループに不均衡な影響を与え、経済とビジネスの成長を阻みます。例えば、健康状態の改善によりその国の平均余命が1年延びるごとに、各国のGDPは4%増加するとされています。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、健康は、世界中の最高経営者(CEO)たちにとっての最重要課題となりました。ブラック・ライブス・マター(BLM)などの社会運動の流れを受け、企業は自らの慣行を振り返り、人種的公平性を推進するために何ができるのかということを考えるようになってきています。ステークホルダー資本主義やより効果的なESGエコシステムへの移行により、この重要なグローバル課題を健康公平性という視点から見る土壌が育ちつつあるのです。
このモメンタムを活かし、民間セクターのリーダーたちをさらに巻き込んでいくことで、スケーラブルで、共通の価値を生み出し、世界の健康を増進させる方法で健康格差に対処することが重要です。
健康公平性のために民間セクターにできること
ビジネスリーダーたちは、自身の組織内で働きかけるだけではなく、製品、サービス、コミュニティ、より広範なエコシステムを通じて健康の公平性に貢献することができます。そして、ヘルスケアだけではなく、社会的、経済的、環境的要因が健康公平性に関わっているということは、幅広い企業がそれぞれ独自の能力、資産、スキル、データ、影響力でこうした問題に取り組めるということに着目すべきでしょう。
民間企業の中には、何年にもわたり様々なレベルで健康の公平性への投資に取り組んできたところもあります。以下に紹介するようなこうした企業の経験から学ぶことが、より多くの組織を巻き込み、取り組みを成功させる上で重要な意味を持つでしょう。
不平等を助長する職場慣行の理解・特定・排除
アメリカ心臓協会のCEOラウンドテーブルは先日、健康の公平性に関する専門家たちと共に、報告書「職場における健康公平性の推進」を発表しました。この報告書は、健康の公平性を目指す道のりのあらゆる段階に立つ組織に向けて、不公平につながる職場慣行を理解・特定・排除するための指針と実用的な戦略を示しています。健康公平性の向上のために古くからの構造や職場文化を変えていくという、民間セクターのリーダーたちが担うべき責任の重要性を、報告書は強調しています。
官民連携によるギャップの解消と変化の促進
デロイトLLPは、インド・ハリヤーナー州政府と連携し、農村地域の人たちに向けた新型コロナウイルス感染予防・治療について啓発する新しい官民連携プログラムを立ち上げました。このプログラムは、これまでに同州カルナル地区での死亡者を半減させたほか、テクノロジーを活用することで、公衆衛生インフラへの投資不足を是正し、ヘルスケアニーズを満たし、健康公平性を向上させるという成果を挙げています。
共通の価値を培うイニシアチブの拡張と育成
2014年、ノボ・ノルディスク社は「シティーズ・チェンジング・ダイアビーティーズ」プログラムを立ち上げ、都市部に暮らす人々の2型糖尿病発症率を高める社会的・文化的要因の克服に取り組んでいます。このプログラムは、糖尿病患者、パートナー都市、そしてノボ・ノルディスク自身など、複数のステークホルダーに共通の価値を生み出すものです。このCEO肝いりで推進された共通価値の創造により、シティーズ・チェンジング・ダイアビーティーズは世界30都市以上に広がり、1億5,000万人以上に影響を与えるプログラムへと成長しました。
私たちが目指すべきもの
このモメンタムを持続可能なものとし、グローバルにインパクトを与えるためには、多くの課題に対処していかなければなりません。短期的なプレッシャーと長期的なニーズというインセンティブの不整合、世界的なデータの少なさ、健康推進プログラムへの投資がばらばらに行われていること、担い手の不足など、課題は山積みです。コミュニティの声を核として前面に出し、セクターや地域を超えたコラボレーションのためのプラットホームを作る必要もあります。企業と社会の双方に長期的な価値をもたらす共通価値のモデルへと移行していくために、より多くのリーダーたちを支援していかなければなりません。
世界経済フォーラムとデロイトは、世界規模でこの責務に取り組むリーダーたち支援するために協力しています。私たちは、民間セクター、市民社会、各国政府からグローバルリーダーたちを招集することで、より多くの人たちのために機能する経済の実現を目指しています。
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Gayle Markovitz and Spencer Feingold
2024年12月3日