アジア太平洋が気候変動・貧困・飢餓対策を急ぐべき理由
アジア太平洋地域において、共同は、健全で豊かな、そして公平で持続可能なコミュニティを構築するための鍵となります。 Image: Reuters/Samrang Pring
Armida Salsiah Alisjahbana
Executive Secretary, United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific (UNESCAP)Kanni Wignaraja
UN Assistant Secretary-General and UNDP Regional Director for Asia and the Pacific, United Nations Development Programme (UNDP)- アジア太平洋地域では、前例のない規模の深刻な気候関連災害により、長年取り組んできた貧困と飢餓の削減に遅れが出ています。
- 気候変動の負担は貧しい国やコミュニティにより深刻な打撃を与え、環境と社会経済システムを圧迫します。
- 包括的な社会開発の実践により気候政策を拡大し、貧困、飢餓、気候変動に同時に対処するため、今すぐ行動しなければなりません。
アジア太平洋地域では、これまで数十年間進めてきた貧困と飢餓の削減に遅れが出ています。食糧安全保障を脅かし、かつてない規模で人々の移住を引き起こしているのが、気候に関連した深刻な災害です。
世界的な気温の急上昇は、この地域の主要都市に記録的な暑さをもたらしています。世界の気温が、気候の転換点である1.5℃以上上昇する未来を、私たちは初めて垣間見ているのです。
気候の影響による負担は、貧しい国やコミュニティほど脆弱で、適応能力が低くなるなど、不均等に分散。干ばつ、洪水、熱波は、環境および社会経済システムを圧迫し、貧困の拡大、食料安全保障の低下、健康・栄養状態の悪化を招いています。
土地、水、食糧をめぐる紛争も増加。この悲惨な状況は、女性、子ども、高齢者、障害者、先住民といった最も弱い立場にある人々をさらに高いリスクにさらしています。
SDGsに遅れをとるアジア太平洋地域
私たちは、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の目標達成に遠く及んでいません。現在の傾向が続くと、2030年までに設定された17のSDGs目標下に設けられた116の測定可能な目標の90%が達成されないと予測されています。
気候変動、貧困、食糧安全保障という表裏一体の問題は、私たちの新しい共同報告書「人と地球:アジア太平洋地域における気候変動、貧困、飢餓の連動した課題への取り組み(People and Planet: Addressing the Interlinked Challenges of Climate Change, Poverty and Hunger in Asia and the Pacific)」の中心テーマです。
その影響は地域全体に及んでいます。インドネシアでは、モンスーンの遅れが慢性・急性の栄養不良拡大につながり、パプアニューギニアでは、エルニーニョ現象に関連した干ばつが頻発。特に高地や農村部で食料と水の不安が増大しました。
太平洋地域では、気候変動が農業と漁業に及ぼす影響により、栄養価の低い輸入食品への依存度が高まり、肥満の有病率が増える可能性が高くなっています。
その他の地域においても、例えば、ヒンドゥークシュヒマラヤの気温上昇と降水パターンの変化が氷河の融解を引き起こし、水の流れと農業を破壊。数百万人の生活を脅かしています。
社会開発実践による気候変動政策の拡大を
この報告書の調査結果は、緊急な行動要請に値します。私たちは、包括的な社会開発の実践により気候変動政策における規模拡大と連携強化を迅速に行い、各国政府が貧困、飢餓、気候変動に同時に対処できるよう後押ししなければなりません。
効果的な対策にとって極めて重要になるのが、社会的保護、強靭な食料システム、災害リスク削減、持続可能な農業慣行を考慮した政策と投資の統合です。特に、各国による気候変動の緩和と適応に対するコミットメントが開発計画やその進捗の中心となるにつれ、その重要性が強まっています。
この地域のいくつかの国ではすでに、パリ協定の中核をなす国別拠出金(NDC)に社会的保護を盛り込んでいます。
カンボジアでは、ジェンダーと社会的包摂がNDCの主流になりました。インドネシアでは公正な移行という概念が発展し、適切な社会的保護を伴うディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の創出を優先しています。
スリランカ、ミャンマー、パキスタンは、災害管理戦略と社会保護を統合するための処置を講じ、バングラデシュ、インドネシア、スリランカ、東ティモールは、国家行動計画(NAPs)に社会保護を統合。
地域レベルでは、「Regional Sustainable Consumption and Production Roadmap on Sustainable Food Systems(持続可能な食料システムにおける地域の持続可能な消費と生産ロードマップ)」が、現在、アジア太平洋地域における食料システムの発展に焦点を当てた小区域の政策対話を支援しています。
また、持続可能な水管理、森林再生、環境に配慮した食料生産システムを活用したグッドプラクティスにより、増え続ける世界人口を養い、何百万もの小規模農家の生活を維持し、気候変動による環境と気候への影響軽減を後押しすることも可能です。
「The COP28 Declaration on Agriculture, Food Systems and Climate Action(COP28における農業、食料システム、気候行動に関する首脳宣言)」は、農業と食料システムを国家行動計画に統合する道筋を明示。気候、貧困、飢餓という3つの課題への対応をうまく統合し、各国がSDGsの目標1、2、13の達成に向けて軌道に乗るよう支援することで、この地域の政府にとって重要な機会を提供するものとなっています。
効果的な気候変動対策の鍵は協力
現在求められている気候変動対策のスピードと規模を達成するには、協力が必要となります。地方政府、国家政府、開発パートナー、民間セクター間の強力なパートナーシップが不可欠なのです。これにり、国境や自国の利益を超えたイニシアティブに対するマルチステークホルダーからの支援を構築することができます。
これまで以上に、アドボカシー活動、研究、能力開発、知識ネットワークに関する協力が重要になっています。簡潔に言うと、データの共有、オープン・ナレッジ、技術的なノウハウなど、互いに学ぶべきことが多くあるのです。共通の目標に向かって前進するためには、これらを促進するプラットフォームが必要となります。
Pacific Regional NDC Hub(太平洋地域NDCハブ)では現在、15の太平洋島嶼国による気候変動目標の強化と実施を支援しています。東アジアでは、ASEAN Green Jobs Forum(ASEANグリーンジョブズ・フォーラム)が、2018 ASEAN Declaration on Promoting Green Jobs for Equity and Inclusive Growth(公平で包括的な成長のためのグリーン・ジョブの推進に関する2018年ASEAN宣言)の実施経験を共有。
こうした協力の例としてもう一つ挙げられるのが、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)、アジア開発銀行(ADB)、国連開発計画(UNDP)の長年にわたるパートナーシップです。これらパートナー間の相乗効果を知識共有、データ作成、政策対話に活用し、持続可能な開発のための2030アジェンダ( 2030 Agenda for Sustainable Development)を推進しています。
行動への呼びかけは明確です。2030年までにこの地域をSDGsの目標達成軌道に乗せ、健康で繁栄し、公平で持続可能なコミュニティを築くためには、気候変動、貧困、食糧不安に共に取り組む、よりオープンで変革的、統合的なアプローチを協力して構築しなければなりません。そうしなければ、気候変動の影響は拡大し、最も脆弱な人々がその代償を払うことになるでしょう。