AI技術による環境への影響〜二酸化炭素排出量の削減とエネルギー効率の改善〜
AIには膨大なコンピューティングパワーが必要です。しかし、AIツールはエネルギー転換の促進にも役立ちます。 Image: Unsplash/Steve Johnson
- テック企業は、AIを駆動するためのデータセンターで二酸化炭素排出量が増加していると報告しています。
- しかし、AIツールはエネルギー転換の促進にも役立ちます。
- AIが利用する資源とAIによる利益のバランスを取る上で、世界経済フォーラムのAIガバナンス・アライアンスのようなマルチステークホルダー・アプローチが不可欠です。
AIはどれくらいのエネルギーを使用しているのでしょうか。ChatGPTに尋ねると、次のような答えが返ってきます。
「AIシステムのエネルギー消費量は、その複雑さや使用方法によって大きく異なりますが、データを効率的に処理・分析するには、一般に大量の電力を必要とします」。
この回答には、グーグル検索の約10倍の電力が必要だと推定されています。さらに、毎週1億人のユーザーがChatGPTを利用していることから、エネルギー需要はますます大きくなります。しかも、ここで使用しているプラットフォームは一つだけです。
業界全体では、主にAIモデルのトレーニングと運用に使用されるデータセンターの構築と運用を主な要因とするエネルギー需要の増加が、グローバルな温室効果ガス(GHG)排出量増加の一因となっています。
ChatGPTの開発元であるOpenAIに投資し、生成AIツールを自社製品の中心に据えているマイクロソフトは、最近、データセンターの拡張によって2020年以降、同社の二酸化炭素排出量が30%近く増加したと発表しました。グーグルの2023年の温室効果ガス排出量は、主にデータセンターに関連するエネルギー需要により、2019年比で50%近く増加しています。
つまり、AIツールはエネルギー転換の一助となることが期待される一方、AIには多大なコンピューティングパワーが必要なのです。
AIによるエネルギー需要の増加要因
AIのエネルギー使用量は現在、テクノロジーセクターの電力消費のほんの一部に過ぎず、グローバルな排出量の約2~3%と推定されています。この状況は、より多くの企業、各国政府、組織が、効率と生産性を高めるためにAIを利用するにつれて変化していくでしょう。次のグラフが示すように、データセンターはすでに多くの地域で電力需要の大きな増加要因となっています。
AIには膨大な計算能力が必要であり、現在でも生成AIシステムはタスクを完了するのに、特定のタスクに特化したソフトウェアの約33倍ものエネルギーを使用している可能性があります。
AIシステムが普及し、さらに発展するにつれ、モデルのトレーニングと実行によってグローバルに必要とされるデータセンターの数は急激に増加するでしょう。それに伴うエネルギー使用量も増加し、すでに逼迫している電力網にさらなる負担がかかることになります。
特に、生成AIのトレーニングには膨大なエネルギーが必要であり、従来のデータセンターでの作業よりもはるかに多くの電力を消費します。あるAI研究者は、「AIモデルを導入したら、常にオンにしておかなければなりません。ChatGPTは決してオフにならないのです」と述べています。
ChatGPTがその基盤とする大規模な言語モデルの高度化が進んでいることが、このエネルギー需要の高まりを如実に示しています。
例えば、GPT-3のようなモデルのトレーニングには、1,300メガワット時(MWh)弱の電力が使用されると推定されています。これは、米国の130世帯の年間電力消費量とほぼ同等です。
一方、より高度なGPT-4のトレーニングには、その50倍もの電力が必要と推定。
また、全体としてAIの成長を維持するために必要な計算能力は、およそ100日ごとに倍増しています。
AI産業がエネルギー効率を改善する方法
このような現状から、社会的にいくつかの難しい問題を解決する必要があることは明らかです。AIがもたらす経済的利益や社会的利益は、AIの使用に伴う環境コストを上回るのでしょうか。さらに具体的に言えば、エネルギー転換におけるAIの利益は、AIによるエネルギー消費量の増加を上回るのでしょうか。
課題と機会の間の最適なバランスを見つけることが、必要な答えを得るための鍵となります。
レポートでは、AIは2030年までにグローバルな温室効果ガス排出量の5~10%を削減できる可能性があると予測。では、適切なバランスを実現するには何が必要なのでしょうか。
欧州議会をはじめとする規制当局は、エネルギー消費量を記録する機能を備えたシステム設計の要件を策定し始めています。また、より高度なハードウェアと処理能力によってAIのワークロードの効率が改善されることが期待されており、テクノロジーの進歩がAIのエネルギー需要に対処するのに役立つ可能性があります。
研究者たちは、新しいアクセラレーターなどの特殊なハードウェア、パフォーマンスを大幅に改善する3Dチップなどの新技術や、新しいチップ冷却テクノロジーを設計しています。コンピューター・チップ・メーカーのエヌビディアは、同社の新しい「スーパーチップ」は生成AIサービスを実行する際に、25分の1のエネルギー消費で30倍のパフォーマンス改善を実現できると述べています。
データセンターも効率化が進んでいます。電力がより安価でより入手しやすく、よりサステナブルになればより多くの計算を実行できる新しい冷却技術や拠点が検討されており、データセンターの効率をさらに高めることが期待されています。
並行して、生成・保存されたものの二度と使用されない「ダークデータ」の課題に対処するなど、データ使用量の全体的な削減も重要になります。また、タスクによってはリソースをあまり消費しない小規模言語モデルを使用するなど、AIを使用する方法と場面をより厳選することも有効です。AIワークロードのパフォーマンス、コスト、二酸化炭素排出量の間のより良いバランスを見つけることが鍵となるでしょう。
AIが電力網に与える影響
電力網を圧迫する要因はAIだけではありません。人口増加に伴うエネルギー需要や電化のトレンドがエネルギー需要の増加につながり、電力網の脱炭素化を遅らせる可能性があります。
しかし、クリーンで近代的な脱炭素化された電力網は、ネットゼロ経済への移行に不可欠です。
データセンター運営者は、拠点への電力供給や水素などの貯蔵技術として、原子力技術などの代替電源オプションを模索しています。企業はまた、空気中の二酸化炭素を吸収して安全に貯蔵する炭素除去などの新興テクノロジーにも投資しています。
AIは、既存の電力網に大量の再生可能エネルギー源を統合する際の障壁を克服する役割も果たすことができます。
再生可能エネルギーの生産量にはばらつきがあるため、ピーク時には過剰生産となり、閑散期には生産不足となることが多く、無駄なエネルギー消費と電力網の不安定化につながりがちです。気象パターンからエネルギー消費傾向まで、膨大なデータセットを分析することで、AIは驚くほどの精度でエネルギー生産を予測することができます。
これにより、再生可能エネルギーによる電力が利用可能な時にデータセンターがエネルギーを使用するよう、ジョブスケジューリングや負荷シフトを行うことが可能になり、最適な電力網の安定性、効率性、24時間365日のクリーン電力を確保することができるでしょう。
AIは、エネルギー使用量を予測し、冷暖房の性能を最適化するための建物のモデリングから、予知保全による製造業の効率改善まで、二酸化炭素排出量の多い他産業のエネルギー効率の変革にも役立っています。農業では、センサーと衛星画像が作物の収量予測と資源管理に利用されています。
AIのエネルギー消費量・二酸化炭素排出量と社会的利益のバランスを取るには、複雑に絡み合った多くの課題があり、マルチステークホルダー・アプローチが不可欠です。
世界経済フォーラムのAIガバナンス・アライアンスは、AIを活用してどのようにセクターを変革し、イノベーション、持続可能性、成長にインパクトを与えることができるかを理解するために、業界横断的かつ業界固有の視点を取り入れています。
このイニシアチブの一環として、同フォーラムのエネルギーとマテリアル部門および第四次産業革命部門は、AIシステムのエネルギー消費のあり方と、エネルギー転換のイネーブラーとしてAIをどのように活用できるかを探る専門作業部会を立ち上げています。