気候対策

アジアの未来を築くサステナブルな金融の共同アプローチとは

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アジアの気候危機は生産性に影響を及ぼしています。

アジアの気候危機は生産性に影響を及ぼしています。 Image: Unsplash/Nathan Cima

Luis Alvarado
Head of GAEA / Strategic Public-Private-Philanthropic Partnerships, World Economic Forum
  • アジアが直面している気候変動による重大な健康危機は、生産性の混乱を引き起こし、医療費を増大させ、労働力の安定性を脅かしています。
  • 気候危機を効果的に抑制し、低炭素経済への移行に向けたシステムレベルの変化を生み出すためには、積極的かつ協力的な取り組みが不可欠です。
  • インパクト投資や「ラベル付き債券」のような革新的な金融ツールは、アジアにおける変革の原動力となる大きな可能性を秘めています。

アジア地域は、気候変動による深刻な影響に取り組むと同時に、人々の生活と福祉だけでなく、経済の安定をも脅かす健康危機の拡大に直面しています。

海面上昇や洪水により、水や病原媒介生物を介した疾患が蔓延し、気温の上昇、大気質の悪化、干ばつ、食糧不安、生活への様々な影響が健康問題を増幅。経済的な影響も徐々に浮かび上がってきています。

その結果、生産性が損なわれ、医療費が膨れ上がり、労働力の安定性が損なわれるケースがますます増えており、Philanthropy Asia Alliance(フィランソロピー・アジア・アライアンス・PAA)と世界経済フォーラムのGiving to Amplify Earth Action(アースアクションを強化するための寄付・GAEA)イニシアチブが Philanthropy Asia Summit 2024(フィランソロピー・アジア・サミット2024)で共催した「Conversation on the Climate and Health Nexus(気候変動と健康のつながりに関する対話)」では、こうした状況に関して議論が行われました。

例えば、アジアは最も高温日数の多い地域のひとつであり、健康への影響から労働能力に支障をきたし、その日数は労働者1人当たり年間25日と推計されるほど。

「気候危機が急速に加速したことで、人間の健康に対する根本的な脅威となり、世界中の何十億もの人々がその影響にさらされています」とPAA最高経営責任者のLim Seok Hui(リム・ソクヒュイ)氏は述べ、「このシステミックな問題に取り組み、サステナブルな効果を得るためにはシステムレベルの変革が必要です。相互に結びついたこれらの重要な課題を克服するには、適度な危機感と規模を伴って行動し、公共、民間、フィランソロピーの各セクターにまたがる主要な関係者の力を結集しなければなりません」と結んでいます。

気候変動は、あらゆる面において現代の健康における最も大きな課題のひとつです。保険制度を不安定にし、健康の社会的、環境的、経済的基盤を損ないます。気候変動に関する政府間パネル(The Intergovernmental Panel on Climate Change)は、世界で33億人が気候変動の影響を非常に受けやすい状況にあり、その結果、より大きな健康リスクに直面していると推定。

2024年初めにスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムの年次総会では、気候変動の影響により、2050年までにさらに1,450万人が死亡し、12兆5,000億ドルの経済損失が発生する可能性が警告されました。保険制度だけでも、追加コストは1.1兆ドルに及びます。

世界で最も気候変動の影響を受けやすい地域の一つであるアジアにおいて、経済の安定性を左右するのが気候関連災害の影響を抑えるための積極的な対策です。Swiss Re Institute(スイス再保険総合研究所)は、気候変動対策が成功しなければ、今後25年間でアジア地域の国内総生産が25%以上減少する可能性があると予測しています。

真の解決に向けた集団行動

このような困難な見通しの中、希望をもたらしているのがインパクト投資ツールです。こうしたツールは、気候変動の影響緩和や長期的な経済回復を促進するために、アジア地域での勢いを増しています。その一方で、破滅的な結果を回避するためにはある程度のスピード感と規模が不可欠であり、集団的な資源と専門知識を結集しなければならなません。

新型コロナウイルスによるパンデミック(大流行)の際には、民間セクターの強力な対応と共に、フィランソロピー・キャピタルが民間資本の事業調整とリスク軽減を支援し、政府や国際機関の行動を後押しする上で重要な役割を果たしました。

気候変動危機においても、フィランソロピー・セクターは触媒として機能する力を持っています。他の資金調達にはない機敏性、 柔軟性、リスク許容度を持ち合わせ、四半期利益に左右されるのではなく、価値観や長期的な成果を追求する唯一無二の能力を備えているからです。

新しいアプローチを試して成功事例を活用することを可能にし、システムレベルでの変化を起こすために、より大規模な公共投資や民間投資を呼び込むことができるのです。

「先ごろ開催されたOne Earth Summit(ワン・アース・サミット)で示されたように、私たちは全ての手段を駆使し、あらゆる障壁を乗り越えています。例えば、サイロを取り払い、あらゆるセクターの専門知識とリソースを相乗的に活用し、最も革新的な解決策を生み出しているのです」と、Institute of Sustainability and Technology(サステナビリティ・テクノロジー研究所)の創設者であるPoman Lo(ポーマン・ロー)氏は述べています。「低炭素経済への移行を迅速に達成し、アジアと世界にとってよりサステナブルな未来を確実にするためには、こうした協力的なアプローチしかないのです」。

ワン・アース・サミットには、ファミリーオフィス、企業、投資家、フィランソロピスト、政策立案者、学者など、サステナビリティのためのイノベーションに投資するキーパーソンが集結。これらの世界的なサステナビリティリーダーたちは、より多くの資本と規模を動員し、グリーンファイナンス、スタートアップ、最先端技術など、アジアにおける革新的なソリューションやシステムの導入を加速させる方法を明らかにしました。

ラベル付き債券

アジア地域におけるもうひとつの重要なインパクト投資ツールに光を当てたのが、チューリッヒ工科大学(ETH)およびロックフェラー財団(The Rockefeller Foundation)と共同で発表したGAEAの新しいホワイトペーパー『Labelled Bonds for the Net Zero Transition in Southeast Asia: The Way Forward(東南アジアにおけるネット・ゼロ移行のためのラベル付き債券:前進するための方法)』です。この報告書では、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、トランジションボンドといったラベル付き債券が、この地域に変革をもたらす可能性について概説。

さらに、発行体の優先事項、投資家の期待値、市場環境の整備など、この市場を加速させるための主要な課題と、それを克服するための最も効果的な方法を明記しています。ここでも、行き着く先は、金融エコシステム全体での取り組みなのです。

需要や機会は国や地域によって様々です。例えば、タイではクリーンな輸送においてグリーンボンドが大きな可能性を発揮する一方、石炭依存度の高いインドネシア、フィリピン、マレーシアでは、クリーンエネルギー移行への投資が急務となっています。

東南アジア諸国連合(ASEAN)におけるラベル付き債券市場の潜在的な可能性は、多くの変数があるために計算するのは難しいものの、一般的な債券市場の成長を考慮しなければ、潜在的な発行増加額はおよそ190億ドルと推定されています。

多くの人々がいまだに電気などの基本的なサービスを受けられずに暮らしているアジアにおいて、開発を妨げない公正な移行は、サステナビリティだけでなく公平性にとっても重要です。

世界の温室効果ガスの半分を排出し、エネルギー消費の80%を化石燃料に依存しているだけでなく、2050年までにエネルギー需要が倍増すると予測されているアジア地域。この状況は、前例のない機会であり、マルチステークホルダーの協力による緊急の行動要請でもあります。

GAEAはサステナビリティ・テクノロジー研究所とともに、アジアと世界のサステナブルな金融を向上させるため、対話、パートナーシップ、行動を促進するインパクト・コミュニティをデザインしています。気候変動や自然環境問題解決のためのインパクト投資を主流にすることで、世界はサステナブルな慣行への転換を加速させ、変革的なソリューションとシステムの導入に必要なペースと規模を達成できるのです。

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真の解決に向けた集団行動ラベル付き債券

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