人々の健康に影響を及ぼす気候変動にパブリックセクターができること
気候変動が人々の健康に与える影響に対処するためには、パブリックセクターが極めて重要な役割を果たしますが、進展には企業の取り組みも不可欠です。 Image: Getty Images/iStockphoto
- 気候変動が健康に与える影響は、インフラ、農業、生活、ヘルスケアにまたがる構造的な要因が複雑に絡み合って生じています。
- 気候変動による健康への影響は、企業や労働力にも脅威を与えるため、企業はそのリソースと専門知識を活用してこうした影響を緩和する必要があります。
- そのためには、産業界がパブリックセクターや非営利セクターと協力し、新しいテクノロジーの開発、応用、採用を促進する必要があるでしょう。
気候変動は、早急な対応が必要とされるグローバルヘルスに対する脅威を増大させています。世界中で弱者が健康リスクによる不釣り合いな負担を強いられており、リスクの緩和や回復のための十分な支援を受けていません。
気候変動に関連するさまざまな影響は、すでに公衆衛生に目に見える形で影響を及ぼしています。協調して行動することで、以下のような課題の深刻化を止める必要があります。
· 異常気象:異常気象は、年間約1億8,900万人に影響を与えています。1991年以降、異常気象が原因で影響を受けた人の97%、死亡した人の79%が開発途上国の人々です。
· 大気の質:大気汚染が原因で、グローバルに毎年670万人が寿命よりも早期に死亡しています。例えば、家庭での燃料の使用などによる屋内の空気汚染が都市部の人々に特に大きな影響を及ぼしており、大気汚染全体の主な原因にもなっています。調査によると、大気汚染に関連する早期死亡の89%は東南アジアと西太平洋地域の低・中所得国(LMIC)で発生しています。
· 感染症:グローバルで年間1,400万人近くが感染をもとに死亡しており、感染症の半数以上が気候変動によって悪化。これは、気温や水温の上昇、降水パターンや湿度の変化によって、グローバルな病原体分布が変化し、病気の蔓延が加速されるためです。
このような課題に取り組むためには、気候変動のさまざまな現象が人々の健康に直接的・間接的にどのような影響を与えているかを明らかにする必要があります。
そのため、世界経済フォーラムの「気候と健康」イニシアチブ[ 1] は、L.E.K.コンサルティングの協力を得て、「Health Impacts of Climate Change: Evidence Landscape and Role of Private Sector(気候変動が健康に与える影響:エビデンスの概況と企業の役割)」と題するインサイトレポートを作成しました。
同レポートでは、気候変動が健康に及ぼす最大の影響を、直接的および間接的な要因の両面から評価。また、対策が最も緊急に必要な分野に取り組むために必要な重要な介入策についても説明しています。
気候変動が健康に与える影響
同レポートでは学術研究や報告書の包括的レビューによって、気候変動から最も深刻な影響を受け、緊急に介入が必要な健康に関する10の分野を次のように特定しています。
同レポートによると、乳幼児、子ども、高齢者、妊婦はいずれも特に脆弱です。生理機能の低下は、これらの集団が気温上昇などの環境変化に適応することを妨げ、感染症に対抗する効果を低下させます。また、女性は生計を天然資源に依存していることが多いため、より脆弱です。
低所得者や人種的マイノリティを含む社会的に不利な立場にある人々は、既往症の割合の高さ、標準以下の生活環境、医療サービスへのアクセスの制限など、相互に関連し合う課題に直面しています。先進国においても、農村部の人々は医療サービスや重要な情報とコネクティビティの源であるインターネットへのアクセスが限られているため、脆弱な立場にあります。
不健康の要因
気候変動が人々の健康に及ぼす影響は、インフラ被害、農業の崩壊、生計手段の喪失、医療アクセスの課題など、構造的な要因が絡み合って生じています。
同レポートでは分析により、これらを一次要因(気候変動による直接的な影響)、二次要因(一次要因から派生する要因)、増幅要因(一次要因や二次要因、あるいは結果として生じる健康への影響を悪化させる既存の状況)に分類。結果として、12の要因を特定しました。
課題に共通したこの根本要因に対処することで、気候に関連する健康への影響を幅広く緩和することができるでしょう。同レポートではまた、地域社会や医療制度が気候変動の影響を管理するために利用できる6つの主要な介入テーマを次のように特定しています。
企業の関与
気候変動が人々の健康に与える影響に対処するためには、パブリックセクターが極めて重要な役割を果たしますが、進展には企業の取り組みも不可欠です。近年、民間の気候変動資金は公的資金の半分の割合で増加しており、中でも再生可能エネルギーへの資金調達が最も進展しています。しかし、適応とレジリエンス(強靭性)に向けた資金調達は顕著に不足しています。
ただ、多くの産業で企業は現在も気候による直接的な影響を受けており、気候に対するレジリエンスの強化に強い関心を持っているため、貴重な資源、専門知識、革新的な解決策を提供することができるでしょう。特に、気候変動による健康への影響を緩和する上で、テクノロジーは極めて重要な役割を果たす可能性があります。
ヘルスケア企業や製薬企業の中には、医療へのアクセスを拡大するためのデジタル・ツールをすでに模索しているところもあります。その他の業界でも、アグリテック企業が農家の直面する気候の課題に対処するための革新的なソリューションを開発し、保険会社が気候関連リスクを管理するための天候保険商品を提供し始めています。
さらに、エネルギー、建設、運輸の各業界では、廃水管理などの課題に対処し、電力や医療施設への接続を拡大するためのテクノロジーを導入。これには、インフラの耐久性と信頼性を高め、安全性を監視し、悪天候に備えてシステムを改修し、サプライチェーンを多様化して混乱リスクを軽減するテクノロジーも含まれます。
しかし、これは始まりに過ぎません。企業の潜在能力を最大限に引き出すには、各業界が連携し、補完的なスキルや専門知識を活用して、新しいテクノロジーの開発、応用、採用を促進する必要があるからです。
また、パブリックセクター、企業、非営利団体間の協力を強めることができれば、能力と知識のギャップを埋め、包摂性を促進することにもつながります。そうすることで、公衆衛生を対象とした気候に対するレジリエンスを高めるイニシアチブの効果を最大化することができるでしょう。
気候変動に対するグローバルなレジリエンスを高めると同時に、世界中の脆弱な人々の健康を改善するために、これらの多様なステークホルダーの力を結集する時です。
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Louise Thomas and Will Hicks
2024年12月16日