地球観測が6つの産業にもたらす経済的・気候的価値
人工衛星、航空機、地上センサーによって行われる地球観測は、6つの主要セクターに大きな価値をもたらす力を持っています。 Image: Image: Getty Images/iStockphoto
- 地球を周回する衛星は、常に地球観測データを収集しています。その数は1,000機以上。
- 世界経済フォーラムがデロイトの協力を得て発表した新しいレポートによると、地球データから得られる潜在的な付加価値の累積は、2023年から2030年にかけて3.8兆ドルに達する可能性があります。
- その価値の94%がもたらされる主要産業は6つあります。
毎日、1,000機以上の人工衛星が世界中の詳細な画像やデータを収集。そのデータは、息をのむような地球のイメージの生成に使用されるほか、地上の技術と組み合わせることで、人々と地球の関係を明らかにし、大きな経済価値の創出に役立ちます。
地球観測(EO)により、私たちはより良いデータでより良い意思決定を行うことができるでしょう。経済的な観点からは、生産性の向上やコスト削減といった経済的な付加価値が生まれます。
企業はこれらの利点を活用することで、革新的なソリューションを開発し、資産効率を高め、財務リスクをより適切に管理することができるようになるでしょう。
地球観測:3.8兆ドルのチャンス
物理的なインフラや自然現象は多くの組織のビジネスモデルの中核であるため、EOの適用範囲はほぼすべての産業、セクター、地域に及びます。
世界経済フォーラムがデロイトとの協働で作成した新しいレポート「Amplifying the Global Value of Earth Observation(地球観測がもたらすグローバルな価値の増幅)」によると、EOデータから得られる潜在的な付加価値は2030年には7,000億ドルに達し、2023年から2030年の間にグローバルGDPに累積3兆8000億ドルの貢献をもたらすと推定されています。同時に、EOにより温室効果ガス(GHG)排出量を二酸化炭素換算で年間20億Gt以上削減する介入策を講じることができるでしょう。
EOの価値のほとんどは、川下産業への応用という形でもたらされます。各産業がEOデータから価値を引き出せる可能性は、技術的な準備に加え、世界的な規模や将来の成長プロファイルに強く関連しています。テクノロジーを受け入れる準備が整った産業はEOデータの価値を最も急速に成長させる可能性がある一方、全体として得られる価値が最も大きいのは伝統的な産業です。
地球観測の6つの主要産業
次の6つの主要産業における適用例が、2030年までに可能な地球観測の総価値の94%をもたらすと考えられます。
1. 農業
農業における地球観測データの利用は、作物、漁業、畜産、木材など多岐にわたります。近代的なプロセスでは、リモートセンシングと現場データの利用拡大で、より賢明な作付と肥料投入を行い、最適な時期に収穫できるようになっています。これにより、肥料から排出される温室効果ガスを年間2,700万トン削減することができます。
2. 電力と公共事業
エネルギー・公益事業業界においてEOをいち早く導入した企業は、用地の選定から送電インフラの管理に至るまで、情報面での優位性を獲得するでしょう。新しい太陽光、風力、水力発電所の供給可能エネルギー量予測など、再生可能エネルギー向けのアプリケーションが、この10年間に予想される再生可能エネルギーの普及を可能にする重要なイネーブラーとして浮上しています。
3. 政府、公共、救急サービス
地球観測、特に人工衛星による観測は、当初は各国政府主導で行われており、公共サービスや救急サービスへの応用は比較的堅調です。災害をより正確にモデル化し、構造物、土地、植生をほぼリアルタイムに監視することで、災害への備えと対応を強化することができるでしょう。洪水、干ばつ、山火事、台風などの災害が頻発する中、EOは人命と資本を守るために不可欠なツールです。山火事の早期警報アプリケーションは、年間最大6,400万トンの温室効果ガス排出を削減するのにも役立ちます。
4. 保険と金融サービス
保険会社はEOデータを利用して、リスクをより適切に評価し、特定の指標に基づいて支払われるパラメトリック型保険商品を提供して、保険金請求の査定を効率化することができます。サステナビリティを測定する基準を独自に検証することができるようにもなるため、EOテクノロジーはサステナブルファイナンスにおいて重要な役割を果たします。さらに、利益を上げる上で生物多様性の損失と気候変動は重大なリスクとなるため、金融サービスと保険業界はEOデータを使用して、エクスポージャーをより適切に評価・管理することができます。
5. 鉱業、石油、ガス
EOデータの数あるアプリケーションの中でも、石油・ガスの採掘や送電を遠隔監視する能力は、経済と環境の両面に利益をもたらすという点で際立っています。特殊なセンサーを使用することで、企業は潜在的なダメージを予測し、漏れが発生した際に迅速に検出することができます。その結果、迅速な修復によって漏れを抑えることができ、製品の損失を避けるだけでなく、温室効果ガスの排出量を年間170万トンも削減することができます。国際エネルギー機関(IEA)は、石油・ガス会社がEOを利用することで、石油・ガス事業から排出されるメタンの約45%を、正味コストなしで削減できると推定しています。
6. サプライチェーンと輸送
倫理的な調達に重点を置く企業が増えつつあります。このような企業にとってEOは、サプライチェーンから得られる洞察を追跡する手段となります。自社の下流サプライチェーンだけでなく、ベンダーなど上流側のサプライチェーンでも、実物を追跡することができるからです。消費者や規制当局が市場に倫理的な製品調達を求める圧力をかける中、EOは介入策を計画し、その成功を客観的に証明する貴重なツールを提供することができます。
2030年までに経済と環境のコベネフィットを実現
2024年から2030年までは、持続可能な経済成長のためにEOを推進する機会となる重要な期間です。国連の持続可能な開発目標(SDGs)、昆明・モントリオール生物多様性枠組、パリ協定、リオ条約、UAEコンセンサスなどに関連する主要な国際公約が、2030年を目標に結実します。同時期に、環境情報開示要件や排出規制が施行されます。また、何千もの新しいEO衛星の打ち上げが予測されており、AI(人工知能)などのイネーブラーがEOテクノロジーの採用を後押しするでしょう。
2023年から2030年にかけて、世界経済に累積3.8兆ドルを追加し、年間2Gtの排出量を削減できるという見通しは、EOの導入を拡大するための説得力を持っています。ただし、こうしたアウトカムの達成には、EOアプリケーションの認知度の低さ、専門人材の不足、ばらばらな規格、複雑なEO市場をナビゲートする難しさなどの主要な障壁に対処するため、EOバリューチェーン全体のあらゆるプレーヤーによるコラボレーションが必要です。
Amplifying the Global Value of Earth Observation(地球観測がもたらすグローバルな価値の増幅)では、これらの障壁に対処するための戦略を提案しています。本レポートは、世界経済フォーラムの地球観測コミュニティからのインプットを反映し、地球にとってより豊かでサステナブル、そしてレジリエントな未来を推進するために、EOエコシステムに含まれる企業と、あらゆる産業にわたる地球データの潜在的受益者に向けた洞察を提供します。
本記事は、デロイト組織内事業体の一つであるデロイトコンサルティングLLPの協力を得て作成されました。本記事に記載された調査結果、解釈、結論は、必ずしもデロイトの事業体またはその従業員の見解を表すものではなく、デロイトの事業体または従業員は、本記事に関連するいかなる損失に対しても責任を負いません。
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