フロンティア市場への投資 - 知っておくべき5つのこと
フロンティア市場への投資は、貧困や気候変動などの課題解決にも役立ちます。 Image: Getty Images/iStockphoto/peeterv
- フロンティア市場への理解が普及していないため、市場参加者がこれらの市場経済圏に投資すべきかどうかの判断に迷うことがあります。
- しかし、フロンティア市場には新興市場と同様に多くの魅力的な特徴があり、投資家が考えているよりもリスクが低い場合が多いのです。
- さらに、企業のソリューションは、フロンティア市場を貧困から脱却させ、気候変動などの課題にも対処することができます。
「フロンティア市場」という言葉は、1990年代初頭に国際金融公社(IFC)により初めて使われた造語です。これは、外国人投資家に門戸を開いてはいても、流動性が低く、時価総額が小さく、リスクとボラティリティが高い新興国の一部の市場を指します。現在、フロンティア市場は一般に、貧困レベルと成熟度で分類されています。
フロンティア市場には、高いリスク、構造的課題、システム上の欠陥がある場合が多いため、投資家や企業は投資に消極的です。しかし、こうした経済圏には、力強い成長の可能性と新たに生まれた消費者層という強みがあります。投資家にとってこれらは、深く永続的なインパクトを生み出す具体的な機会となるでしょう。
フロンティア市場への投資について知っておくべき5つのポイントは、次のとおりです。
1. フロンティア市場には、新興国と同様の魅力的な特徴が多くある
フロンティア市場には、いわゆる「ピラミッドの底辺」と呼ばれる世界人口の3分の2を占める貧困層が多く暮らしています。インフラが限られており、金融システムが未発達で、工業化レベルは低く、公共財や公共サービスへのアクセスが不十分なのが特徴です。こうした国では、基準や品質管理が不十分なために搾取や過剰な料金の請求が多くなりがちです。
投資家には、こうした要因が障害と見なされるかもしれません。しかし、これらはイノベーション、社会的インパクト、飛躍的成長、高いリターンを生み出す肥沃な土壌でもあります。フロンティア市場がキャッチアップ成長を遂げる可能性は相当に大きなものです。特に、新技術の採用によって飛躍的発展を遂げることができるならなおさらでしょう。フロンティア市場に早期に参入すれば、新たなトレンドや産業、セクターを活用する機会を得ることができます。
ピラミッドの底辺にいる人々はグローバルな市場経済に参加できないという認識は、富の分配の極端な不平等や援助依存を助長します。このような市場には、一般的に、労働力の増加、未開拓のニーズや願望を抱えた数兆ドル規模の市場機会、そして最終的には力強い経済成長をもたらす若く成長中の人口が存在するのです。世界人口の最貧困層は、より質の高いサービスや製品を公平な条件で市場に参加することが可能であり、またそうあるべきです。
2. 先駆者はすでに道を拓いている
フランスに本拠を置く投資会社であるI&Pは、中小企業の能力開発に重点を置き、技術支援やニーズに合わせた金融商品を提供するファンドを開発することで、フロンティア市場の複雑な状況をうまく切り抜けることが可能だとすでに証明しています。フロンティア市場にしばしば見られる成長の鈍化や挫折の可能性を考慮して資本耐性を高め、投資期間を長く設定できるよう投資構造を適応させているのです。
インパクト・ボンド、インパクト・リンク・ファイナンス、気候ファイナンスなどの革新的な資金調達モデルが、すでにフロンティア市場で、社会的、環境的、財務的リターンを生み出しつつ資本を引き付けています。これらのモデルは、財務的インセンティブをインパクトに直結させる機会を創出。また、困難な環境で有意義な変化を促す可能性があることも明らかになってきました。
公的資金や慈善資金を民間投資と融合させるブレンデッド・ファイナンスもまた、フロンティア市場への投資リスクを軽減する上で極めて重要な役割を担っています。助成金、譲許的融資、ファースト・ロス・キャピタルなどの金融ツールがリスクに対する見方を穏やかなものにして、民間資本を呼び込みます。開発途上国への投資機会を創出するためのグローバル・ネットワーク「コンバージェンス・ブレンデッド・ファイナンス」の情報によると、このアプローチにより、これらの市場で500億ドルを超える392件のブレンデッド・ファイナンス取引が促進されました。
最終的に、IFCと国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の共同イニシアチブのような従来とは異なるパートナーシップの台頭により、これまで進まなかった地域にも企業の投資が行われるようになっています。
3. 誇張されているフロンティア市場のリスク
莫大な総需要が潜在する急成長市場であるにもかかわらず、フロンティア経済圏への海外直接投資は依然として抑制されています。こうした懸念に対処するためにより高いリターンを求める投資家もいるでしょう。特定の国の高い投資リスクを補うために要求される追加リターンは、「カントリー・リスク・プレミアム(CRP)」と呼ばれます。
しかし、世界の暴力防止とサステナブルな平和の構築を目指す国際機関であるインターピースの調査によると、低所得国のCRPを測定する一般的な手法は正確ではない可能性があります。リスクに関するこうした誤った懸念のために取引量が減少すると、第三者である信用格付け機関がリスクを正確に価格付けするために十分なデータを得られなくなる可能性があります。これでは投資家を完全に遠ざけてしまいます。意思決定指針となるCRPがあってこそ、投資家はこうした市場に参入できるようになるのです。
4. 人道的インパクトはパブリックセクターだけのものではない
市場はしばしば不平等を悪化させると考えられています。しかし、適切に構造化された市場メカニズムは、脆弱性や社会的不平等に対処するための強力なツールとなり得ます。
企業には、人道支援組織やドナーには真似できない重要な利点があります。例えば、ある解決策が商業的に実行可能なものであれば、企業は、恒常的な援助資金の流入がなくてもそれを維持できるでしょう。また、実績のあるモデルであれば、新たな市場参入者にも自然に複製されることが多く、さらなる公的支援を必要とすることなく、より大きなインパクトが生まれます。企業には効率を最大化するためのインセンティブとスキルが備わっているため、こうしたインパクトの成果をより費用対効果が高い形で達成することも可能です。
さらに、市場主導型モデルは、コミュニティを供給者と合理的な顧客に変えることができ、慈善事業に頼るのではなく、自ら選択する力を与えることができます。そうすることで、貧困の症状を一時的に緩和するのではなく、実際に貧困から抜け出すことができるのです。また通常、市場ソリューションは、援助の流れを阻害するような危機的状況によって起こるショックには耐性が高いものです。
5. フロンティア市場では、気候変動と社会的インパクトが密接に関係
経済、社会的公正、平和、環境の持続可能性に関して、最も脆弱な人々のニーズと課題は、グローバルな気候アジェンダと複雑な関係を共有しています。
これらのコミュニティは、多くの場合フロンティア市場にあり、先進国に比べて地球温暖化への長期的な寄与が少ないにもかかわらず、気候変動の影響を不当に受けています。農業や天然資源に依存すると、異常気象などの影響を受けやすくなります。何かがあった場合、地域経済に壊滅的な打撃を与え、貧困を増大させ、深刻な健康リスクをもたらし、資源紛争に拍車をかけ、社会的緊張を悪化させてしまうのです。世界銀行は、気候変動によってアフリカだけでも2050年までに最大8,600万人が避難生活を余儀なくされると予測しています。
フロンティア市場には、一般的に、気候変動の影響を緩和するための効果的な適応戦略や、インフラを導入するための資金的・技術的リソースが不足しています。市場主導のアプローチと排出量取引制度によって、気候変動資金ギャップを埋めるための実行可能な解決策をもたらすことができます。革新的な適応策を講じて、社会から疎外された人々の雇用機会を多様化することもできるでしょう。
フロンティア市場の可能性を解き放つ
このように、フロンティア市場はグローバルな投資コミュニティに多くの可能性を提供し、最も差し迫った地球規模課題の解決に貢献することができますが、投資家にはまだよく理解されていません。そのため、2019年に「人道的レジリエンス投資(Humaitarian and Resillience Investing ,HRI)」イニシアチブが発足しました。このイニシアチブは、フロンティア市場の可能性を解き放ち、これらの市場を本拠地とするリスクの高い地域社会や、危機に見舞われたコミュニティのレジリエンス(強靭性)を高めることを目的としています。
2024年4月、HRIイニシアチブは、フロンティア市場における革新的なヘルスケアソリューション、栄養・食糧システムソリューション、安全な水サービスを発掘し、その拡大を支援するため、第2回アップリンク(UpLink)チャレンジを開始しました。このチャレンジの詳細と応募方法はこちら。
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