平和の礎となる教育が、戦時下に不可欠な理由
平和教育を幅広くカリキュラムに組み込むことで、より平和な社会を築くことができます。 Image: REUTERS/Ceerwan Aziz/Files (IRAQ)
Jane Mann
Managing Director of the Partnership for Education; Director of Education in International Education, Cambridge Partnership for Education- 歴史上、永続的な平和の構築に教育が果たす役割は過小評価されてきました。
- ウクライナからガザまで、そしてそれ以降も戦争が激化している今日、私たちはすべての子どもたちが質の高い教育を受けられるよう力を注がなければなりません。
- これは正しいことであるだけでなく、より平和で豊かな社会を実現することにもつながります。
戦争と平和を決定づける様々な要因と同様に、教育についても真剣に取り組むべき時が来ています。子どもたちが何をどのように学ぶかによって、社会的、経済的なアウトカムだけでなく、地政学的な成果がもたらされます。
「リンゴやオレンジの代わりに、カラシニコフや戦車の画像でアルファベットや数字を学んだと想像してみてください」。これはディストピア小説の前提ではありません。1980年代にアフガニスタンで何百万人もの子どもたちに実際に起こったことについて、パキスタンのジャーナリスト、ナディル・エレドルース氏が述べた見解です。
驚くべきことに、これらのいわゆる「ムジャヒディンの教科書」は、米国政府とネブラスカ大学オマハ校によって資金提供され、作成されたものでした。ニューヨーク大学のダナ・バーデ教授が指摘するように、『ジハードのABC』というようなタイトルの本は、「ソビエトとの冷戦を支援するためにデザインされた部分が大きい」のです。アフガニスタンの学校では教科書の制作コストが高いこともあって、この教材が何十年もの長い間使われ続けました。
しかし、このようなアプローチではなく、平和のための教育が必要です。戦時下ではなおさらでしょう。
平和のための教育の再構築
私たちは、今まさに紛争の影響を受けている何千万人もの子どもたちのために、教育の質をどう高めるべきかを考え直す必要があります。今日、紛争は第二次世界大戦以来のどの時点よりも多くなっています。また、戦争によってあまりにも多くの子どもたちの生活が不安定なものになっています。
テレビの画面で紛争の影響を受けている子どもたちを見て、彼らの長期的な教育について考えることはほとんどありません。短期的な緊急支援ばかりがあまりに多く強調されるからです。仕方のないことではありますが、教育は通常、優先順位のリストで水、衛生設備、シェルターよりもかなり下に位置します。しかし、長期化する戦争の中で、子どもたちが重要な基礎知識や重要なスキルを学ぶ機会は失われていきます。これは受け入れがたいことです。
学習には一貫性と継続性が必要です。Cambridge University Press & Assessment(ケンブリッジ大学出版・評価機構)が、世界の教育コミュニティの他の団体と協力してウクライナを支援するのは、学習損失を軽減するだけでなく、戦後の子どもたちにより良い教育システムを構築するためです。
教育とは、何をも超越する力となるものです。安定した時期だけでなく、もろく壊れやすい時期にも子どもたちの成長を支えます。課題解決、コラボレーション、コミュニケーション、クリティカルシンキングなど、私たちが変化し続ける職場で活躍するために必要なスキルは、予測不可能な世界を生き抜くために必要なスキルとまったく同じです。
こうした能力は、優れたエンジニアや医師、起業家を育てるだけではありません。より良い市民、より平和な人々、より安定した社会を作るのです。開発途上国が国際社会や国際機関からの支援や援助を受ける一方、特定の政策や改革を実施し、責任を果たすことを約束するという合意や取引を、オックスフォード大学アフリカ経済研究センター所長のステファン・ダーコン氏は「開発交渉」と呼んでいます。社会が安定すれば、国のエリートが「自らの地位を守ることから、成長を基盤とした未来に賭けることへとシフトする」ための開発交渉が行われるようになります。
それに、教育そのものが紛争を減少させることが分かっています。国民の教育レベルが高ければ、暴力的な紛争は起こりにくくなります。このことは、戦争によって学校教育が中断された何百万人もの子どもたちにとってはことさらに重要です。
ウクライナの子どもたちは、ロシアの不法侵攻によって、国中、そしてヨーロッパ中で避難生活を強いられています。また、ウクライナでは、学習機会の喪失が広がり、言語、読解、数学の力が低下し、何百万人もの子どもたちが苦しんでいます。ウクライナの子どもたちは、新型コロナウイルスによる混乱の直後に戦争と避難に直面したために、特に悲惨な状況に陥っているのです。
また、ガザでの混乱は、パレスチナの子どもたちの「失われた世代」化につながると国連は警告しています。
このようなことを、私たちは受け入れるべきではありません。もちろん、被害を受けた人たちはさらに受け入れ難いでしょう。
避難している子どもたちとその家族は、平和と安定を享受している子どもたちと何も変わらないのです。
ロヒンギャ難民の親に子どもの教育について話を聞くと、シンガポールやロンドンの親と同じように、子どもが学習し、成長しているかどうかを知りたがっています。子どもが次の段階に到達するのはいつなのか、どんな資格を取得できるのか、その結果、子どもたちは人生のどこで何を学ぶことになるのか。
中途半端な答えでは不十分です。生徒40人分の鉛筆、ノート、学習教材の3か月分が入った「スクール・イン・ア・ボックス」パッケージは、緊急措置のために作られたものであり、長期的な避難に対応したものではありません。子どもたちにはより良いものが必要です。
平和と開発を教育の中心に
危機の時代には、平和とサステナブルな開発を中心に据えた教育システムの再構築を目指すべきです。進歩と品質を求め、希望を抱くことを躊躇してはなりません。
ケンブリッジ大学と国連児童基金(ユニセフ)は、ロヒンギャ難民の子どもたちに向けた教育プログラムの開発において、これを実現しようと努めています。また、2017年には南スーダンの学習教材に紛争解決を組み込む試みも行いました。
私たちは、平和構築のための対人スキルや価値観は、人格教育や社会教育と同様に、数学や科学でも育むことができることを知っており、それを形として示してきました。授業計画や学習教材によって、安定した社会と将来の国家教育システムの両方に、社会復帰の種を蒔くことができます。
また、フィンランドなど、最も優れた教育システムの長年の成功例を参考にすることができます。そこでは、公正さ、紛争解決、メンタルヘルス対策が授業に組み込まれています。
教育制度に平和構築を導入する最も迅速かつ効果的な方法は、平和構築を資金調達の前提条件とすることでしょう。政策立案者やドナーは、ジェンダー平等や持続可能性といった他の中核的価値観と並んで、紛争解決という横断的テーマを新しい教育プログラムの提案に組み込むよう主張すべきです。
学習には一貫性と継続性が必要です。ケンブリッジ大学の専門家を含む世界の教育界が、ウクライナのカリキュラムの一部を難民受け入れ国のカリキュラムに翻訳し、マッピングする作業を行っているのはそのためです。ウクライナ政府は、被害軽減と復興だけでなく、戦後の子どもたちのためにより良い教育システムの構築を計画しています。
1924年2月28日、世界の大国は「子どもの権利宣言」を批准しました。この画期的な文書は、国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の創設者であるエグランタイン・ジェブ氏が、第一次世界大戦で子どもたちが体験した恐怖を目の当たりにした後に作成したものです。
この宣言は、人類が「子どもに対して最善のものを与える義務を負う」ことを思い出させてくれます。100年経った今、これは私たちにできる最低限のことであり、それ以上が必要とされているのです。
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