新たな連携が後押しする、化学産業の脱炭素化
気候変動と闘う上で極めて重要となる化学製品の脱炭素化を実現する上で、コラボレーションは強力なツールとなります。 Image: Photo by Vedrana Filipović on Unsplash
Jorgen Sandstrom
Head of Energy, Materials, Infrastructure Programme, Industrial Transformation, World Economic Forum- 低炭素ソリューションの開発と実装に向けた連携強化を目指す「グローバル・インパクト・コアリション(Global Impact Coalition, GIC)」が発足しました。
- このコアリションは、パートナーシップの形成、新たなコラボレーションの促進、現場プロジェクトを通じた二酸化炭素の削減を目指します。
- GICは、市場の認識を向上させ、脱炭素材料の市場拡大を加速させる絶好の機会を提供します。
国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)や、世界経済フォーラム年次総会2024でも注目を集めている気候変動関連ニュース。化学産業においても、興味深い進展がありました。
その一つが、化学産業や関連するバリューチェンにおける低炭素ソリューションの開発と実装を目指す「グローバル・インパクト・コアリション(Global Impact Coalition, GIC)」の発足です。GICは、具体的な現場プロジェクトを通じて未来のバリューサイクルでの二酸化炭素削減を実現し、新たなソリューションの開発を主導する可能性を秘めており、これまでにないスケールでの連携を育むプラットフォームとして成長することが期待されています。
気候変動と闘う上で極めて重要となる化学製品の脱炭素化を実現する上で、コラボレーションは強力なツールとなります。世界の二酸化炭素排出量の約2%を占めている化学産業は、原料や燃料としての全石油供給の14%、全ガス供給の8%を消費しており、化石炭素を使用する最大の消費者の一つでもあります。すべての製品の95%以上が化学製品であることを踏まえると、このことが他の産業に及ぼす影響がいかに大きいか容易に想像できるでしょう。化学産業は、低炭素製品、循環型製品、全天然素材、生分解性素材への転換を通じて、脱炭素化に向けた歩みを進めています。
カーボントランスフォーメーション
GICは、4つの異なるアプローチを統合することで生まれる相乗効果と機会を探る貴重なプラットフォームを提供。アプローチの一つ「カーボントランスフォーメーション(CO2 to X)」は、二酸化炭素、低炭素水素、再生可能資源からさまざまな化学物質を合成するというコンセプトに基づいており、従来の化石燃料や熱源の代替が可能となります。
この戦略は、多くの企業が自社のサステナビリティ・プログラムの中心に据えている二酸化炭素回収・貯蓄(CCS)との相乗効果を期待できるもので、炭素排出を有益な製品に変換すると同時に、環境責任への企業のコミットメントも強化します。
CO2 to Xは、二酸化炭素を回収・輸送するためのインフラが整備されることで、二酸化炭素を原料とする製品の製造におけるスケールメリットを生み出す補完的なアプローチです。例えば、エクソンモービルと三菱重工は、前者の産業全体のCCSソリューションの一環として、三菱重工の二酸化炭素回収技術の活用の提携をしています。また、欧州委員会(EU)は、エア・リキード、フラックシス・ベルギー、アントワープ・ブリュージュ港による、アントワープ港湾地域の産業から回収された二酸化炭素の輸送、液化、輸出のためのオープンアクセスモジュラーインフラの開発プロジェクト「Antwerp@C CO2 Export Hub」に1億4,500万ユーロの資金提供を実施しています。
CO2トランスフォメーション
2022年に、ベンチャーキャピタルから約7億ドルの投資を集めた二酸化炭素の有効利用技術は、高品質で高価な製品から低コストの製品へとその活用が拡大しつつあります。ピッチブックによると、2018年以降、ベンチャー企業による資金調達は年率47%で増加しています。
それに伴い、成功しているベンチャー企業やパートナーシップも増加しています。二酸化炭素を原料とした、コベストロのポリオール「Cardyon」や、エコニックのポリオール製造技術は、持続可能なポリウレタンフォームの製造に使われています。また、エボニックは複数のパートナーと、二酸化炭素をC4化学品の製造における原料として使用する「PlasCO2」プロジェクトを設立。さらに、ダイムラーとP&Gと協業し、二酸化炭素ベースの製品を製造する炭素転換スタートアップ、トゥエルブは、シリーズBで1億3,000万ドルを調達したことを近頃発表しました。また、ニューヨークのスタートアップ、エアー・カンパニーは、二酸化炭素と水を原料としたウォッカや香水などを製造・販売しています。
こうした成長を継続させるため、スタートアップと既存の企業は、技術力、展開モデル、製品ポジショニング、市場ニーズなどの絶妙なバランスを見極める必要があります。二酸化炭素の有効利用技術の導入は、一般的に、利益率が高くエネルギー需要が低い製品から始まり、コストが低下し技術が成熟するにつれ、より広く使用される分子へと拡大していくことが予想されます。(下図参照)
下図が示す6つの技術的進化は、市場開発と炭素削減の可能性を秘めており、技術の成熟度、強みや弱みはそれぞれ異なるものの、特定の製品グループに活用できると見込まれています。
ここでも、GICのようなコアリションの影響を期待することができます。主要な業界大手、新技術を推進するスタートアップ、そして、下流のバリューチェーン・パートナーを結びつけることで、GICは、こうした革新的な脱炭素技術のスケールアップを促進することができるのです。化学産業は極めて多様で、ヨーロッパ、中東、米国の石油化学メーカーはそれぞれ独自の脱炭素戦略を追求していることを踏まえると、協力とパートナーシップの構築が極めて重要になります。
特に不可欠なのは、バリューチェーン・パートナーを巻き込むこと。加工業者やエンドユーザーは、脱炭素移行に向けた低炭素・ゼロ炭素の代替品を求めています。GICをはじめとしたイニシアチブによる協力は、上流の投資から下流の供給までのプロセスにおける連携を強化する絶好の機会となります。これにより、市場の認識に強力な変化が起き、脱炭素材料の市場拡大が加速するでしょう。
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