グローバル・サウスを巻き込んだ、エネルギー転換を実現するには
エネルギー転換はグローバル・サウスを包含する必要があります。 Image: Getty Images/iStockphoto
- G7、G20から国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に至るまで、多くの国際会議が、グローバルエネルギーシステム転換の必要性に対処しようとしています。
- エネルギー転換にグローバル・サウスの国々が確実に包摂されることは、最優先事項でなければなりません。
- 本稿では、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)の交渉に臨むにあたり、グローバルリーダーたちが包摂性のあるエネルギー転換を実現するために考慮すべきことを紹介します。
広島で開催された今年のG7サミットでは、主に地政学的課題に焦点が当てられされ、気候変動に対する強い危機感も強調されました。外相声明では、「G7のグローバル・インフラ投資パートナーシップを通じて、パートナー諸国におけるサステナブルで包摂的、かつ強靭で質の高いインフラを支援する」というG7のコミットメントが改めて表明されました。また、首脳コミュニケでは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた継続的な支援が繰り返し表明されましたが、エネルギーアクセス、エネルギー価格の妥当性、市場の安定性についてはほとんど言及されませんでした。
インドが議長国を務める今年のG20は、アフリカ連合を含むグローバル・サウスの主要国が参加したことで、G7とは大きく異なる声明が発表されました。G20声明は、エネルギーアクセス、エネルギー価格の妥当性、市場の安定性を強調しています。また、同声明は、成長を支える包摂的投資についても認識しました。
G7首脳コミュニケは、SDGsを引き続き推進し、公的開発金融の改革を促進するというコミットメントを表明していますが、G7とG20の対比は、先進経済国がグローバル・サウスのニーズに払う関心が限定的であることを浮き彫りにしています。
包摂性が新たな課題
世界経済フォーラムの報告書「効果的なエネルギー転換の促進2023(Fostering Effective Energy Transition 2023)」によると、クリーンでサステナブルなエネルギーに関して幅広い進展が見られる一方で、移行の公平性には新たな課題が浮上しています。これは、エネルギー価格の高騰に直面して、各国がエネルギー安全保障に重点を移しているためです。
気候変動目標を達成するためには、すべての国から賛同を得る必要があります。つまり、エネルギー転換の計画を策定する上では、エネルギー市場の安定性やエネルギー安全保障、あるいはグローバル・サウスにおける公平な開発を犠牲にしてはならないのです。
私たちは、エネルギー供給能力の不足を回避し、さまざまな不測の事態に対する十分なクッションを確保することによって、グローバル・サウスにとって大きなダメージとなる将来のエネルギー危機を回避するために最善を尽くさなければなりません。
グローバル・サウスには、より多くの再生可能エネルギーの導入が必要で、そのためには、混合融資や低利融資を大幅に増やさなければなりません。
また、エネルギーアクセスは包摂性の最も基本的な要素です。世界で23億人もの人々が、調理に薪や木炭、バイオマスを使い続けている現状を変える必要があります。そのためには、送電網への接続に何年もかかるような地域でのエネルギーアクセスを強化する現実的な方法の検討が不可欠です。場合によっては、電力用の再生可能エネルギー(家庭用太陽光発電システムなど)と、よりクリーンな調理用燃料のLPGが強力な組み合わせになります。
COP28に向けた教訓
世界は、持続可能性だけに焦点を当てるのではなく、包摂性にもこれまで以上に取り組む必要があります。また、グローバル・サウスの正当な懸念に対処すべきでありますが、十分なリソースを持つ経済大国が、気候変動に対処するために必要な行動を起こさない言い訳は許されてはなりません。
COP28のプロセスには、G7とG20の肯定的な要素を取り入れることができます。G7とG20の強みは、世界のトップリーダーたちが集中的に会議に参加し、トップレベルで圧力をかけ、合意を形成し、世界に強いメッセージを発信できる貴重な機会であるということは言うまでもありません。COP28では、リーダーたちがエネルギー転換の包摂性についてより集中的に議論する機会を得ます。
エネルギー市場の安定性強化、エネルギー安全保障、エネルギーアクセスの改善に加え、COP28において、グローバル・サウスを包摂した世界的なエネルギー転換を実現するための具体的な行動には、以下のようなものがあります。
・グローバル・サウスに気候変動資金を動員するための具体的な計画に合意する。この計画には、公的資金、民間資金、慈善資金が含まれ、再生可能エネルギー、エネルギー効率、その他のクリーンエネルギー技術のグローバル・サウスへの展開を支援するように設計されるべきです。そのために、多国間開発銀行および開発金融機関は、開発機関とより緊密に協力し、資金調達コストを削減するため、政府開発援助(ODA)をより積極的に転換または再活用すべきです。例えば、新興国での融資に伴う為替リスクの一部をODAで引き受けることができます。また、信用リスクの一部をODAが引き受けることで、融資コストを下げることも可能です。開発資金とODAを切り離すのではなく、この2つをより密接に統合して、グローバル・サウスのエネルギー転換を支援する持続可能な資金プールを拡大する必要があります。
・グローバル・サウスへのクリーンエネルギー技術の移転を加速するための世界的イニシアチブを推進する。
・エネルギー転換の影響を受ける労働者とコミュニティを支援するための、グローバルなジャスト・トランジション(公正な移行)基金を設立する。この基金は、化石燃料産業で働く労働者への再訓練やその他の支援、および気候変動の影響を最も受けるコミュニティにおけるクリーンエネルギー・プロジェクトへの投資に利用することができます。
・現代的なライフスタイルを送るために十分な信頼できる電力を持たない人々のために、COPの交渉担当者による「現代におけるエネルギー最低条件」へのコミットメントを実現すること。
最後に、こうした取り組みはすべて、エネルギー転換が生み出す成長産業への、グローバル・サウスの参加拡大に向けて収束させるべきです。これには、重要な鉱物、バッテリー、ソーラーパネルなどの機器の加工、製造、組み立てが含まれます。エネルギー転換を加速させるという約束と引き換えに、グローバル・サウスの国々で生産される商品や設備を購入する事前買取コミットメントを行うことなどがソリューションになり得ます。
今後の展望:G7/G20-2024 および COP29
COP28以降も、2024年に予定されているG7/G20、および国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)において、引き続き包摂性を強調し、グローバル・サウス の正当な懸念に対応するための具体的な行動を取り入れることが重要です。これらの国際的なプロセスは、世界がグローバルな課題に対処するための鍵であり、特に国際的なプロセスの有効性が疑問視されている場合に重要となります。こうしたプロセスを通じて、長期にわたるエネルギー転換において主要な要素のひとつであり続ける包摂性に、効果的に取り組んでいかなければならないのです。
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