自然と生物多様性

COP28が目指す新たな食料生産モデル

A new food system with regeneration at its centre is needed.

必要なのは、再生を核とした新しい食料システムです。 Image: REUTERS/Tingshu Wang

Jack Hurd
Executive Director, Tropical Forest Alliance, World Economic Forum
  • 国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)は「食料COP」、つまり、私たちの食料システムが自然に与える影響と依存に焦点を当てた気候サミットになり得るでしょうか。
  • 私たちは、食料と関連製品の需要を満たしながら、再生を核とする新しい農業モデルへと移行する必要があります。
  • 農業と食料システムに対するこの新しいアプローチが成功するためには、集団的責任を受け入れる必要があります。

自然なくして、ネットゼロの実現はあり得ません。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書に述べられている科学的根拠が、そのことを明確に示しています。しかし、これまで私たちの食料システムが自然に与える影響や自然への依存は、必ずしも国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の中心的なテーマになってはいませんでした。

一方、気候変動と自然、自然と経済成長、気候・自然・食料安全保障のつながりへのグローバルな認識の高まりを受け、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)は「食料COP」になる可能性があるとのレポートもあります。

経済成長と、人類が依存している生態系の保護との関連性について、世界が認識を深めていることは朗報です。世界経済フォーラムの最新のレポートは、ネイチャーポジティブ政策により、自然を回復・保護しながら、2030年までに推定10兆ドルの新たな年間事業価値を生み出し、3億9,500万人の雇用を創出することが可能であるとしています。

また、ネイチャー誌の新たな論文は、劣化や伐採から森林を回復・保護するだけで、約226ギガトンの炭素を回収できると予測しています。これは人間の排出量の約23年分に相当します。

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世界経済フォーラムの『New Nature Economy Report II』より Image: World Economic Forum

新たな食料システム

現在の食料システムの危機に対処し、食料と関連製品の需要を満たすと同時に、国際社会が経済を支え、ネットゼロと生物多様性の目標達成を支援する新しい農業モデルへと移行することが、これまで以上に重要になっています。

この新たな食料システムは、再生を中核に据えて、私たちが自然から奪っている以上のものを自然に返すことができるものであるべきです。土壌の健全性を高め、水を保全し、汚染された水が湖や河川を満たすのを防ぐサステナブルな方法で、農業生産を強化し、すでに転換された土地や劣化した土地1ヘクタールあたりの収量を増やすことに重点を置く必要があります。

これは、アグロフォレストリー(低木や樹木を農地に組み込む土地管理技術)などの革新的なアプローチにより補完できるでしょう。こうしたアプローチは、土壌の健全性を高め、作物や動物に日陰を提供し保護することで、生産量の増加と生物多様性の保護を同時に実現することができます。

しかし、この新しいアプローチを個別に成し遂げることは不可能であり、集団的責任を受け入れることが不可欠です。ブラジルの首都、ブラジリアで最近開催されたワークショップがその好例であり、ブラジルが世界をリードする2つの商品、牛と大豆の生産モデルを変える必要があることに焦点を合わせた議論が行われました。

ブラジルは、グローバルな食料供給に貢献してきましたが、その仕組みは森林破壊を助長するものでした。しかし、このワークショップのセッションで、気候、自然、SDGsのコミットメントを達成しながら世界の食料需要を満たすモデルへとブラジルを移行させるためには、変革を推進する集団的責任を認識しなければならないことが、すべてのステークホルダーに明らかなものとなったのです。

企業は、現場での意思決定に自社が与える直接的・間接的な影響を理解する必要があり、各国政府は、意思決定の動機付けとなる政策や規制環境を整える必要があります。金融セクターや慈善団体、二国間・多国間のドナーは、変化を引き受けるための流動性を提供することで、それぞれの役割を果たさなければなりません。市民社会グループは、変化を促進するための分析、ツール、技術支援の開発に協力する必要があります。

先住民族や地域社会が参加し、社会正義の懸念に適切に対処するよう配慮されたこのマルチステークホルダー・アプローチは、各産業や各国固有のニーズを満たすために必要なサステナブルな農業集約化を推進する上で極めて重要なのです。

このモデルがうまく機能することは実証されており、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)以降、さまざまな分野で、とりわけ「1.5度に向けた農業セクターロードマップ(Agriculture Sector Roadmap to 1.5℃)」を通じて大きな進展が見られました。

各国政府、企業、市民社会のすべてがその連帯責任を認識し、世界の食料システム全体に真の意味での構造変革をもたらすために行動を起こす必要があります。

COP28の進展に伴い、各国政府とビジネスリーダーたちが宣言を認識と行動に変えて生物多様性の損失を食い止め、自然を保護・回復するために必要な変化に影響を与え始めることが期待されます。

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