生体認証はマラリア対策にどう役立つのか
生体認証を効果的に活用することで、マラリアのワクチン接種お進捗をリアルタイムに追跡でき、接種率を高め、未接種者の数を減らすための必要なデータを収集することができます。 Image: Simprints
- 史上初めて、生体認証がマラリア・ワクチンの接種を追跡・追跡するために適用されます。
- この技術の導入には、データ保護とプライバシー保護が重要であるため、強力な技術的及び法的安全対策、データのセグメンテーションと暗号化、厳格な同意プロセスの導入が必要です。
- 生体認証を効果的に活用することで、ワクチン接種の進捗をリアルタイムに追跡でき、接種率を高め、未接種者の数を減らすための必要なデータを収集することができます。
マラリア・ワクチンの配布と追跡に生体認証ソリューションを初めて導入したこの画期的な取り組みは、多くの命を救う可能性を秘めています。どのように機能し、なぜ今それが重要なのでしょうか。
生体認証とは何か
生体認証とは、人固有の特徴を測定し、それを使用して個人を識別する技術です。これには、顔、指紋、虹彩、手のひらなどの身体的特徴が含まれます。従来は、主に国境管理や大規模なスポーツイベントの入場管理と関連していましたが、最近では、選挙の安全確保から人道危機時の援助提供まで、さまざまな場面で利用が拡大しています。
一方で、グローバルヘルスの分野における生体認証の利用は、これまでかなり制限されていました。これは、成長段階にある指紋や顔の特徴は変化するため、照合アルゴリズムが対応する事が難しく、特に子どもの識別が複雑であるためです。また、これらの技術を世界の遠隔地域で導入することが求められています。しかし、この状況は現在変化しつつあります。
なぜ生体認証が重要なのか
現在、世界の子どもの4人に1人が出生時に正式な登録がされていません。このような法的登録の欠如は、資源が限られた国々でヘルスワーカーが子どもたちと接種記録とを照合する作業を一層困難にしています。名前や生年月日などの人口統計情報はしばしば重複し、手作業での記録が必要になるため、登録と識別のプロセスが遅れ、エラーや記録の重複が生じる可能性もあります。
WHOが推奨する各種ワクチンを接種するためには、1年半の間に6〜7回のタッチポイントが必要です。その結果、ワクチン接種率をタイムリーに推計することは難しくなります。
さらに、2017年には、Gaviが支援した国の53%以上が、調査データと10ポイント以上の差がある接種率を報告しています。数百万人もの子どもたちがワクチンを接種しているのか否かを確かめることは難しく、この報告は、彼らが重大かつ予防可能な疾患に感染する危険性が高いことを意味しています。
何が変わりつつあるのか
画像認識と機械学習の技術の進化により、こうした課題を解決する新しい道が開かれつつあります。2019年、英国の社会起業家Simprintsと日本の大手企業NEC、そして、ワクチンアライアンスGaviが協力し、世界初の大規模な子ども向け生体認証システムの開発を開始しました。
システム開発にかかる何年もの臨床研究は、生体認証を効果的に利用できる年齢の引き下げに進展をもたらしました。ガーナとバングラデシュで行われた現地調査では、生体認証技術が接種活動を240%高速化し、紙ベースのシステムでは87.5%であるの対し100%の精度を示し、診療所の混雑時には保健ワーカーの負担を大きく軽減することが確認されました。
ガーナ保健サービスのアルバータ・アジェベン・ビリトゥム=ニャルコ医師は、この取り組みに非常に前向きな見解を示した上で、「Simprintsの東部地域での初期導入の成果に非常に感動しています。これにより、他の地域でも効率化と時間の節約が実現し、規模拡大につながることを期待しています。この取り組みは、予防接種の範囲と完了率を向上させ、我々のヘルスケアシステムにおけるコストと資源の節約に貢献します」と述べています。
生体認証が、ガーナのマラリア対策にもたらす変化
ガーナでは、幼児の死因の一大要因となるマラリアの抑制に向け、新しく開発されたマラリア・ワクチンが導入され、重症化や死亡率の著しい低減をもたらすことが期待されています。ただし、このワクチンは4回の接種が必要で、4回目の接種前に29%の子どもたちが追跡から外れるという課題が初期段階で生じています。3回しか接種されなかった場合、ワクチンの効果は32.2%からわずか1.1%に急落。このことは、子どもたちが命を失う危険が増大する、深刻な接種の欠落を意味します。
この課題に取り組むため、ガーナ政府は、マラリアが特に流行しやすい2つの地域で、子どもの生体認証を用いてワクチン接種を追跡する専門チームを立ち上げました。このプロジェクトは、Steele Foundation for Hope財団、ARM、Gaviマッチング・ファンドの資金援助を受け、3年間で数百万回のワクチン接種を目指しています。
生体認証技術のさらなる展開に必要な要素
他のすべての機密データと同様、生体認証データの取扱いには厳格な技術保護と法的保護が不可欠です。プライバシー・バイ・デザインは、データの厳密な暗号化と綿密な同意プロセスを通じて、データセキュリティを最初から構築します。
法律の側面では、ガーナは、アフリカにおいて先進的なデータ保護フレームワークを有しており、過去に選挙や通信分野で生体認証を安全かつ効果的に利用し、広範な受け入れを見た実績があります。こうした取り組みにより、適切なガバナンス、法的枠組みおよびプロトコルを構築することで、予防接種のデータを市民登録の完了のための有効な手段として活用する道が開かれるかもしれません。これらの条件が満たされれば、生体認証は様々な公共サービスを提供することができ、費用対効果の高い投資となり得ます。
これらの技術は、単なる問題解決ツールに過ぎません。適切に利用されれば、ワクチン接種の追跡と接種率の確認、さらには未接種者の減少に必要なデータを提供することができます。ただし、データだけでは十分ではありません。マラリアとの闘いにおいて最も重要なのは、データを活用して子どもたちが一人も取り残されないようにすること。このアプローチこそが、最終的に命を救う鍵となります。
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