ダイバーシティ、エクイティ(公平性)、インクルージョン (DEI)- 企業が実質的な進展を遂げる4つの方法
DEIを優先する企業のパフォーマンスは、同業他社よりも上回る傾向があります。 Image: Getty Images/iStockphoto
- 多様性のある企業は、多様性のない同業他社よりも革新的かつ適応力が高い傾向があることが、調査に示されています。
- 一定の進展はあったものの、社会的に地位の低い人々の経済的機会や成果には、依然として格差が残っています。
- 経営幹部133人からなる、世界経済フォーラムのチーフ・ダイバーシティ・アンド・インクルージョン・オフィサー(CDIO)・コミュニティが、多様性とインクルージョンに関して、企業が実質的な進展を遂げるためのアイデアを共有しています。
社会的に地位の低い人々の経済的機会と成果における体系的な格差は依然として大きく、現在起きているポリクライシスは、せっかくの進歩が容易に覆されてしまうことを示しています。グローバル経済の低迷と地政学的に不安定な状態の継続は、こうしたグループに最も大きな打撃を与えているのです。この課題に対応することは、より公平な経済をつくり、長期的成長を取り戻すために極めて重要です。多様でインクルージブな組織には、進歩を加速させる力があります。調査によると、多様性の高いリーダーシップのあるチームほどより質の高い、事実に基づいた意思決定を行い、また革新性が高く、より多くの人々に届く製品やソリューションを開発する傾向があります。さらに、従業員の多様性が高い組織ほど変化への適応力が高く、変革をリードする可能性も高くなります。
ダイバーシティ・エクイティ(公平性)・インクルージョン(DEI)に関する企業の行動を後押しし、よりインクルーシブな経済づくりを迅速に進めるには、具体的にどのような方法があるのか。この問いに答えるため、133人の経営幹部からなる世界経済フォーラムのチーフ・ダイバーシティ・アンド・インクルージョン・オフィサー(CDIO)・コミュニティは、2023年のダイアログ・シリーズを通じて定期的に会合を開いています。そうした議論に基づき、企業がDEIのインパクトを拡大するための4つの新しい領域が提示されています。
1. 地理的な多様性を受け入れる
DEIのアプローチは、人間の多様性の本質的価値を認めたグローバル原則と、すべての個人は、その背景にかかわらず、公平な機会を得るとともに、尊重され、公平な待遇を受けるに値するという信念に基づいています。これらの原則は、国境、文化、社会経済的背景を越えるものであり、DEI戦略を地域社会や市場のニーズに合わせて調整することが、インパクトを長期的に継続させるための重要なイネーブラーとなります。
ネスレ社において、ダイバーシティ&インクルージョンのグローバルヘッド務めるNilufer Demirkol(ニルファー・ディミルコル)氏は、次のように提言しています。「私たちが意義ある存在であり続けるためには、グローカルであること、つまり、グローバルなビジョンを持ちつつ、地域の現実に適応することが必要です」。各地域の事情に違いがあることを受け入れた上で、その地域や産業の成熟度を反映したDEIの目標を設定しなければなりません。このため、DEI戦略には、適応力があることが求められます。同時に、この戦略は結果を生み、地域のニーズに応え、持続的な変化を促すためのアカウンタビリティを引き出すものでなければなりません。
インパクトのあるメカニズムの一つとして議論に上ったのが、DEIの成果を推進する地域『アンバサダー』を配置することです。『アンバサダー』の任務は、DEI戦略を日常業務に組み込み、文化や事業部門全体で取り組みが有意義であり続けるよう徹底すること。タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)、副社長兼DEI担当グローバルヘッドであるPreeti D’Mello(プリーティ・ディメロ)氏は、DEI戦略策定が拡大し、よりシステム重視になりつつあり、また「促進と協力の傾向にシフトしています」と強調しています。
2. ビジネス全体的へのアプローチを実行する
一部には、DEIの取り組みが、CDIOのみを中心に行われているケースがあります。こうした状況では、組織内の多様性と公平性を高める取り組みの及ぶ範囲、アカウンタビリティ、インパクトが限定的になる可能性があります。ダイアログ・シリーズから得られた重要な教訓は、DEI戦略の成功にはビジネス全体を動かすことが必至である、ということです。
つまり、DEIは、政策策定、従業員の参加、イノベーション、テクノロジー、学習、コミュニケーション、マルチステークホルダーの協働を結び付け、それらを中核的な事業に欠かせないものとして組み入れることが求められます。TCSでは、DEIに関わる事項は「企業文化の構築にシームレスに統合されており、コミュニティの動員は従業員ポリシーと一体化され、また採用目標にはビジネスチームの要望が取り入れられています」。その結果、DEIは、ポートフォリオやリーダーシップレベル全体に大きな影響を持ち続ける、戦略上の重要課題となっています。
リジェネロン社のCDIO、Smita Pillai(スミタ・ピライ)氏は次のように指摘しています。「チームや思想的リーダーたちの間では、組織がCDIOのポジションを設けるだけでは不十分だという意識が高まっています。そればかりでなく、CDIOにどれだけ十分なリソースが充てられ、CDIOが組織の業務全体にどれだけ組み込まれ、目標達成のためにどれだけ自律性と影響力を持っているかが極めて重要だという意識も高まっています。DEIは、ビジネスのあらゆる面で重要な要素なのです」。
CDIOの役割は変化し続けており、戦略的インフルエンサーへ、またビジネスと各部門の仲介役へと進化しています。グーグルのCDIO、Melonie Parker(メロニー・パーカー)氏は、「企業のあらゆる部分に影響をもたらしている」と表現しています。「これはつまり、単に従来からの月々の活動予定としてではなく、共感を育み、『アライシップ(自分とは異なる社会的立場の人・コミュニティを理解し、支援すること)』を築き、DEIへの取り組みが、ビジネス上の重要課題であるとの認識を組織に認識させます。DEIチームの貢献対象となる人やグループの増加は、私たちの対象も大きく広げる必要があるという事です」。
3. デジタル・インクルージョンのためのテクノロジーを活用する
AI(人工知能)を活用した分析や、バーチャルリアリティ、オンデマンド学習プラットフォームなどの技術ツールの急速な進歩は、DEIの取り組みがさらに広範囲に拡大する大きな機会をもたらします。その一方で、テクノロジーのディスラプション(創造的破壊)によるデジタル・デバイド(情報格差)や解雇が、社会的不公平性を悪化させる恐れもあります。最近の研究では、AIによって有害な偏見や誤った情報が固定化され、社会から疎外されたコミュニティの教育、経済面での格差を拡大させる懸念が提起されています。ランスタッド社のCDIO、Floss Aggrey(フロス・アグリー)氏は、こうした状況に企業が先回りして対応し、規制に関するトレーニングを実施するとともに、AIがもたらす偏見を積極的に軽減する必要があるとの考えを示しました。
ダイアログ・シリーズにおける主要なコンセンサスは、新たな技術のツールを活用してDEIの進歩を補い、モニタリングや報告の方法を定義し直す機会があるという点です。このため、ディスラプティブなテクノロジーは、企業に一括して適用されれば、DEIのイネーブラーとして機能し、透明性と一貫性の向上を促すことができます。重要なのは、ディミルコル氏が強調したように、テクノロジーの開発により、デジタル・インクルージョンとソーシャル・インクルージョンが促進され、学習と開発が促され、心理的な安定とさらに強い帰属意識、およびビジネス・バリュー・チェーン全体に対する信頼感が築かれることです。革新的な製品やサービス、テクノロジーは、すでに存在している偏見を深めるのではなく、コミュニティの多様なニーズや嗜好を反映したものでなければなりません。
4. DEIのインパクトのための外部エコシステムを構築する
DEIのプログラムの初期の開発では、社内従業員の構成を改善することに主な重点が置かれていました。CDIOのダイアログ・シリーズでは、組織と組織が貢献するコミュニティとの相互関連性について考察が行われ、これにより、DEIの効力ある政策が社会に広範にもたらすインパクトが強化されました。DEIのプログラムは、対応するグローバルリスクやマクロ経済動向と結び付けられることで、重要な関係者とのパートナーシップ構築を促します。そして、このパートナーシップがDEIの課題をさらに広範囲に広げます。ディミルコル氏は次のように述べています。「業界団体、コミュニティ、教育機関は、組織内やコミュニティ内において包摂性と帰属性の文化を育みます」。結果として、DEIに関わる強固な課題は、気候変動や移民など、グローバル規模の課題の解決に不可欠な役割を果たします」。
またメロニー・パーカー氏は、「DEIの専門家である私たちは、課題がさまざまな形で突然持ち上がり、その多くは気づかれることすらないことを理解しています。だからこそ、あらゆるコミュニティと距離を縮め、耳を傾け、コミュニティのニーズを真に理解し、解決策の設計に彼らを巻き込む方法を見つけることが重要なのです」と述べています。
また、DEI以外の職務を担うステークホルダーを動かすにはどうすればよいかについて、スミタ・ピライ氏は、「DEIがいかにより適切な意思決定、課題解決、チームパフォーマンス、組織のイノベーションにつながり、さらにはいかに離職に伴うコストの削減につながるかということを一貫して示すグローバルかつ拡大しつつある研究成果のレベルを高めること」と述べています。
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