デジタル公共インフラが農業にもたらす変革

農業に関するデジタル公共インフラのビジョンは、農家の生活向上と、アグテック分野の効率性、包括性、持続可能性に焦点が当てられています。

農業に関するデジタル公共インフラのビジョンは、農家の生活向上と、アグテック分野の効率性、包括性、持続可能性に焦点が当てられています。 Image: Unsplash/Amol Sonar

Arushi Goel
Specialist, Data Policy and Blockchain, C4IR India, World Economic Forum
J. Satyanarayana
Chief Advisor, C4IR India, World Economic Forum
Sebastian Buckup
Head of Network and Partnerships; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 第四次産業革命センター
  • デジタル公共インフラは、データへのアクセスと、安全で信頼できるデータ共有メカニズムによって、アグテック領域を変革することができます。
  • 2023年8月、農業データ交換が開始され、農業データ管理フレームワークと並んで、複数のデータプロバイダーと消費者の間で責任あるデータ共有が可能になりましました。
  • 農業部門では、デジタル公共インフラが導入されることでデータへのアクセスがしやすくなり、また革新的なアプリケーションの開発が促されることで、技術を活用したサービスの提供が可能になります。

農業は、多様なステークホルダーが関わる複雑なエコシステムです。デジタル公共インフラ(DPI)は、デジタル機能、オープンソース、相互運用可能な公共財を組み合わせたものと言われることが多いですが、複雑なエコシステムの中で公共および民間のサービスを支援することができ、すでにデジタル農業の未来を変えつつあります。

強固なDPIを構築するためには、データの共有が不可欠です。世界全体では、2014年に平均的な農場で毎日約19万のデータポイントが生成され、この数字は、2050年までに一農場あたり一日で約410万に急増すると専門家は予測しています。インドでは、データとAI(人工知能)を駆使したデジタルソリューションが、農業部門に500億ドル以上の利益をもたらすと推定されています

こうしたデータの収集、処理、分析は、世界中の農業と食料システムに革命を起こす可能性を秘めています。しかし、農業データへのアクセスや発見には課題があり、それらが農業における効率的で責任あるデジタルエコシステムの発展を妨げています。

農業向けデジタル公共インフラ

2021年8月、世界経済フォーラムの第四次産業革命インドセンターは、インド・テランガナ州政府と、農業とデータに関する第一線の専門家で構成されるマルチステークホルダー・コミュニティと協力し、責任あるデータエコシステムの開発に関する白書を発表しました。

1つのアイデアとして始まった取り組みが、今ではインド初の農業データ交換を実施するまでに発展しました。

この原則と枠組みをさらに発展させ、2023年8月11日に、テランガナ州政府は、当フォーラムおよびインド理科大学院と共同で、複数のデータプロバイダーと消費者の間で責任あるデータ共有を可能にする農業データ交換(ADeX)を開始しました。

データ交換は、オープンソースで相互運用可能な公共財であるDPIと見なされていますが、包括的な政策的枠組みにも支えられています。同日発表された農業データ管理フレームワーク(ADMF)は、政府当局、企業、スタートアップ、市民社会、アカデミアからなるマルチステークホルダー・コミュニティとの広範な協議を経て形成され、将来を見据えたアジャイルフレームワークが実現しました。

国家レベルでは、アグリスタック(Agri Stack)がアグテック(農業技術)エコシステムをサポートする重要なイネーブラーとして機能しています。これは、企業のステークホルダーがデータセットにアクセスし、イノベーションを促進できる環境をを提供することを目的とし、データ、ポリシー、規制、データ交換、コンセント・レイヤーで構成されています。最初に問われるのは、次の3つの基本的な質問です。

  • あなたは農家ですか
  • どの区画を所有していますか
  • どの作物を栽培していますか

ADeX、ADMF、アグリスタックなどのイニシアチブを通して、インドの農業部門のDPIを進化させるための基礎作りが進んでいます。

ビルディングブロック

農業におけるDPIのビジョンは、農家の生活向上と、より効率的で包摂的かつサステナブルな農業部門およびより広範な食料システムの構築に焦点が当てられています。マヒンドラ・グループのCTO(最高技術責任者)であるモヒト・カプール氏は、「インディア・スタックを活用することで、ADeXのような農業分野のDPIはデータへのアクセスをしやすくします。さらに、パブリックセクターと企業による革新的なアプリケーションの開発も促され、技術を活用したサービスの提供を通じて、社会に利益をもたらすこともできるようになります」と述べています。

テランガナ州での試験的な取り組みから得られた知見に基づくと、以下の3点がエコシステム開発を推進するためのビルディングブロックとなるでしょう。

  • データの標準化と有効化 -共通の語彙の不足や、異なるフォーマットの使用により、データの収集と処理は断片化しています。初期段階では、JSON(JavaScriptのフォーマット)などの確立された仕様を使い、5つのコンセプト(人、プロセス、リソース、素材、サービス)にわたる約70のデータオブジェクトが特定されました(これまでに12のオブジェクトのコードが開発済み)。業界全体の参加を得て、この段階はさらに開発が進み、調和が図られます。
  • プラットフォーム -ADeXのようなテクノロジープラットフォームは、複数のデータプロバイダーとデータ消費者を繋げ、農家ID、土地記録、土壌健康情報、気象情報、市場データなど、価値の高い農業データセットへの同意に基づくアクセスを確立し、安全な基準の作成を促進します。標準化されたAPIとデータモデルを使用することで、プラットフォーム上でアグテックが信頼性の高いデータソースを見出し、効率的に農業ソリューションを構築できるようになります。
  • 政策 - デジタル農業の進展には技術的介入が不可欠ですが、その一方で、責任あるイノベーションと強固なアカウンタビリティのメカニズムを確保するための政策も極めて重要です。そのために、ADMFはグローバルと国内のベストプラクティスを活用して、農業部門におけるデータ管理のためのアジャイルフレームワークを構築します。この枠組みの下で想定される専門家委員会は、個人の権利を保護しつつ、エコシステムの発展に不可欠なガイドラインや標準的な作業手順を策定します。

完全に網羅されていなくても、上記の内容をカバーすることで、アグテックが、市場や害虫予測に関する自動化された助言や、信用供与契約への容易なアクセスの提供など、重要なユースケースを広範囲で展開することができます。

未来への展望

ADeXとアグリスタックに加えて、エコシステムの他の構成要素が発展し、一つに集結していく中で極めて重要になるのが、パブリックセクターおよび企業の能力強化と、サステナブルなビジネスモデルの育成、そして、ステークホルダーにインセンティブを与えることでエコシステムへの参加を促進することです。さらに、効果的な政策の実施と、デジタルサービスの認知度と導入率を上げる対策が、デジタル世界の信頼性と透明性を高める上で不可欠になります。

「インディア・スタックから学んだことや、この業界の経験から得られた知見を活用して、アドハーと総合決済インターフェース(United Payments Interface、UPI)が、インドのアイデンティティと決済システムを変革しました。こうした事例と同様に、デジタル農業の導入と拡大を加速させるためには、農業部門のDPIが不可欠なのです」と、アイスピリットの共同設立者であるシャラド・シャルマ氏は語っています。

農業部門のDPIを整備することこそが、効率的で包摂的かつサステナブルなデジタル農業エコシステムの発展を促進する鍵となるでしょう。

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