2023年の新興テクノロジー・トップ10が、世界に与える影響
最新のレポート「2023年の新興テクノロジー・トップ10(Top 10 Emerging Technologies of 2023)」は、最も影響力のある今年の新興テクノロジーを発表しました。 Image: Midjourney, Studio Miko
Sebastian Buckup
Head of Network and Partnerships; Member of the Executive Committee, World Economic Forum- 世界経済フォーラムが発表した最新のレポート「2023年の新興テクノロジー・トップ10」は、今年の最も影響力のある新興テクノロジーを発表しました。
- トップ10リストには、持続可能な航空燃料やウェアラブル植物センサーなど、環境イノベーションも含まれています。
- このほか、AIの力を活用したイノベーションや分子生物学の改革まで、多岐にわたります。
テクノロジーは止まることのないディスラプター(破壊的イノベーター)です。私たちの暮らし、仕事、遊びのあり方を変え、ビジネスや産業を再定義し、地球や社会の複雑な課題に対処するかつてないソリューションを提供します。
アイデアが浮かんでは消えていく変化の激しい世界において、どの新興テクノロジーが、意思決定者、起業家、市民とって、今後の数年間で最も重要なアジェンダとなるでしょうか。
世界経済フォーラムが、フロンティアーズと共同で作成した「2023年の新興テクノロジー・レポート トップ10(Top 10 Emerging Technologies of 2023)」は、世界20カ国の90人を超える学者、産業界のリーダーたち、未来学者の視点を結集し、今後3年から5年の間に、人と地球に最も影響を与える可能性の高いテクノロジーを発表しています。
気候変動との闘いを後押しするサステナブルなソリューションから、飛躍的変化を遂げる生成AI(人工知能)モデルまで、私たちの未来の生活を改善する可能性が高い新興テクノロジー・トップ10をご紹介します。
気候・自然の危機との闘い
持続可能な航空燃料
航空業界の二酸化炭素排出量は、世界の総排出量の2〜3%を占めていますが、2050年までに、世界全域で排出量が大きく増加する見通しです。ほかの多くの業界とは異なり、航空業界では、バッテリーのパワーウェイトレシオが電化を困難にしています。そこで登場するのが持続可能な航空燃料(SAF)です。
合成燃料はバイオマスのような生物由来の原料や、二酸化炭素のような非生物由来の原料から製造され、既存の航空インフラや設備で使用することができます。現在、持続可能な航空燃料は、航空業界の燃料需要の1%程度を満たすにとどまっています。しかし、同レポートは、同業界が2050年までに排出量ネットゼロを達成するためには、この比率を2040年までに13〜15%に引き上げる必要があると指摘しています。
ウェアラブル植物センサー
国連食糧農業機関によれば、増加する世界人口の食料需要を満たすには、2050年までに世界の食料生産を70%増加させる必要があります。作物のモニタリングは、この目標を達成するための重要な鍵を握ります。
従来の土壌試験や作物の目視検査は高価で時間がかかるため、低解像度の衛星データや、後にはセンサー搭載型ドローンやトラクターを使ったモニタリングが行われるようになりました。
しかし、マイクロサイズのニードルセンサーを個々の植物に埋め込めば、植物の健康状態の改善や農業の生産性向上を実現するデータを大量に取得できる可能性があるとことを、同レポートは明らかにしています。こうした装置は、温度、湿度、水分、栄養レベルをモニタリングすることで、作物の収量を最大限に高めたり、水や肥料の使用を減らし、病気の兆候を早期に発見したりするのに役立ちます。
サステナブル・コンピューティング
AI、クラウドコンピューティング、その他のテクノロジーを急成長させるには、データセンターの能力を一層大きく、より強力にする必要があります。データセンターは、世界の発電量全体の1%を消費していますが、さらに大量のデータを要するデジタル社会に電力を供給するということは、データセンターの電力消費も増加することを意味しています。
ネット・ゼロ・エネルギーのデータセンターという目標の実現を追求する中で、いくつかのテクノロジーが登場していることが同レポートで紹介されています。例えば、水冷や誘電液体冷却による放熱のほか、余剰熱を建物の暖房や給湯、工業プロセスに再利用するテクノロジーなどがあります。
また、AI対応システムは、リアルタイムでエネルギー使用を分析・最適化し、効率とパフォーマンスを最大化することが可能で、グーグルのデータセンターでは、エネルギー消費の最大40%の削減が実現しています。
さらに、データ処理とストレージ・インフラストラクチャーをモジュール化し、需要ベースにすれば、クラウドコンピューティングやエッジコンピューティングのようなシステムを、複数のデバイスやシステム、拠点に分散させ、エネルギー使用を最適化できるようになります。
AI駆動のテクノロジー
生成AI
生成AIモデルは、驚異的なスピードで日常生活の一部になりつつあります。このモデルは、複雑なアルゴリズムを使ってデータのパターンを認識、利用します。
ChatGPTのようなAIベースの言語モデルが最近登場し、すでに学校、大学、職場での生活に影響を与えています。適切に使用されれば、こうしたツールによって生産性を高めることができ、クリエイティブな成果物の増加につながります。
もっとも、生成AIテクノロジーは、文章、画像、音声の生成だけにとどまらずに、特定の病状を標的とした薬物設計や、建築、エンジニアリングなどにも応用されています。米国航空宇宙局(NASA)のエンジニアが、軽量の宇宙機器をつくるAIシステムの開発に取り組んでいるのはその一例で、開発所要時間の短縮や構造性能の向上も実現できます。
ヘルスケアにおけるAI
AIベースの新興テクノロジーや機械学習ツールは、世界のヘルスケア部門が将来のパンデミック(世界的大流行)やその他の問題を予測し、より適切に備えるのに役立ちます。
このようなシステムは、国やグローバルレベルのヘルスケアシステムが健康危機に対処する効率を高め、ヘルスケアへのアクセスを改善する一助になり得ます。また、治療ニーズと利用可能な医療リソースを調整し、医療へのアウトリーチを増やすことで、こうしたイノベーションが治療の待ち時間を短縮できる可能性もあると、同レポートは紹介しています。
開発途上国では、ヘルスケアサービスへのアクセスを普及させるのに必要なインフラやスタッフが不足していることが多いため、ヘルスケア分野にもたらすAIのメリットが一段と大きくなるでしょう。
健康に関わる新興テクノロジー
メンタルヘルスのためのメタバース
メタバースをめぐっては誇大な宣伝が行われていますが、このコンセプトが現実になるにはまだ長い道のりがあります。とはいえ、バーチャルな世界は共通のデジタル空間をつくり出し、その空間で人々が社会的、職業的に交流することを可能にします。
バーチャル環境は、予防、診断、治療、教育、研究など、遠隔医療の適用を広範にカバーし、メンタルヘルス治療を提供する新たな機会をもたらします。
例えば、うつ病や不安症などの症状を抱える人の支援や、マインドフルネスや瞑想の促進を目的としたゲームプラットフォームもいくつか構築されています。
デザイナー・ファージ
ヒト、動物、植物のマイクロバイオームには、それぞれの生物体の健康に不可欠なおびただしい数の細菌群集が存在します。
最近のバイオエンジニアリングの進歩により、科学者がマイクロバイオームを設計し、ヒトや動物のウェルビーイング(幸福)を高めたり、農業生産性を向上させたりできるようになっています。
レポートによれば、ファージは遺伝情報に基づいて特定の種類の細菌を識別し、感染させるウイルスです。このファージを中心にテクノロジーの開発が行われています。バイオエンジニアはファージの遺伝情報を再プログラムすることで、遺伝的指令が細菌に伝達され、違った作用の仕方をするようにできます。これによりマイクロバイオームが関連している病気を標的にし、治療できるようになります。
空間オミックス
人体は約37兆2,000億個の細胞の集合体であり、これらの細胞が一緒になって機能しています。このような微生物学的プロセスの仕組みを理解するために、科学者たちは空間オミックスと呼ばれる手法を開発しましました。空間オミックスは、高度なイメージング技術と複雑なDNAシーケンスのプロセスを組み合わせて、生物学的プロセスを分子レベルでマッピングすることのできる手法です。
同レポートによれば、科学者が空間オミックスを利用することで、従来は観察できなかった細胞構造や生物学的プロセスの複雑な細部まで調べることができます。
エンジニアリング
フレキシブル・バッテリー
電子機器の可撓性が向上するにつれて、これらに電力を供給するバッテリーにも曲げやすいタイプのものが登場しています。フレキシブル・バッテリーの製造に使用する軽量素材は、ねじったり、伸ばしたり、曲げて形をつくったり、炭素繊維や布のような炭素系の素材にコーティングしたりすることもできます。
同レポートによれば、充電可能で曲げられるこのバッテリーは、巻き上げ式のコンピュータースクリーン、スマート衣料やウェアラブルエレクトロニクス、例えばヘルスケア機器や生体センサーなどの成長市場を一段と活性化させています。
フレキシブル・ニューラル・エレクトロニクス
ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は、脳と外部コンピューターとの直接通信を可能にします。これまで、このテクノロジーはリジッド・エレクトロニクスをベースにしており、脳組織との機械的・幾何学的な不一致によって制限されてきました。しかし、フレキシブル・エレクトロニクスや、生体適合性がより高い素材が飛躍的進歩を遂げれば、患者にとって侵襲的体験が減ることになります。
BMIタイプのテクノロジーはすでに、てんかん患者や、電極で神経系と接続する義肢を使用している患者の治療に使われています。
レポートの全文はこちら。
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