国境を越えた自由かつ責任あるデータ流通が必要な理由と実現のための方法
国境を越えた自由かつ責任あるデータ流通が必要な理由と実現のための方法 Image: Joshua Sortino on Unsplash
- 世界の経済的・社会的・環境的可能性を最大限発揮するためには、データがシームレスかつ責任を伴って国境を越えて流通される必要があります。
- 日本の故安倍晋三元首相は、プライバシーやセキュリティ等のデータの責任に関する懸念にも対処しつつデータの流通を促進させるために「信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust: DFFT)」というコンセプトを打ち出しました。
- 2023年G7各国政府は、日本のリーダーシップの下、DFFTのコンセプトを具体化し、安全かつ信頼性のあるデータ流通とそれによってもたらされる恩恵に対して、持続的に貢献するための機会を有しています。
世界中の人々の距離は狭まってきています。グローバル経済のデジタルトランスフォーメーションにより、市場と人々は様々な面においてますます密接になっています。国際的な移動をはじめ、家にいながら、あらゆるモノをどこからでも購入し、ある国で発行された決済手段が他国でも安全に使用できるといった、今日の生活における利便性のほとんどは、自由なデータ流通なしには成り立ちません。現在そして将来の経済成長は自由なデータ流通に大いに依存しているのです。
自由なデータ流通に関する課題に対し、日本の故安倍晋三元首相は、「開かれたデータ流通」と「データの信頼性確保」は共存可能であるという考えに基づき、「信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust: DFFT)」というコンセプトを打ち出しました。日本政府は、現在、G7の議長国として、「相互運用のための制度的取り決め(Institutional Arrangement for Partnership: IAP)」によるDFFTの具体化に向けたコンセンサスの形成を目指しています。私たちは、複数の国際フォーラムにおける既存の活動を補完するための、新たな常設の制度的取り決めに関する提案を支持します。
今回提案される取り決めでは、新たな機会や喫緊の課題を多岐にわたって特定するため、政府高官をはじめ、企業、アカデミア、市民社会など複数の利害関係者のハイレベルな代表者を招集する必要があります。また、DFFTの継続的な発展を促進するために、新たなアイデアを試し、データに関する異なるルール間の相互運用性を拡大するための実践的なステップを試験的に実施する権限を、この取り決めに与えることも求められます。
責任あるデータ駆動型の国際経済は全ての人々に恩恵をもたらす
国家レベルでは、国境を越えたデータへのアクセスとデータの共有によって、最大GDP2.5%(いくつかの研究においては最大4%)の社会的・経済的便益がもたらされる可能性があります。経済協力開発機構(OECD)によると、国境を越えたデータ流通は中小企業にとってとりわけ重要です。重要な知見や情報にこれまで以上に速く、容易にアクセスできるなら、中小企業は情報上の不利を克服し、より迅速に大企業と競争することが可能となります。
また、他の研究では、デジタル化された中小企業はより高いレジリエンス(強靭性)とアジリティを有する傾向にあり、販売量や事業の国際的なリーチの拡大を実現していることが示されています。最近公開された女性が経営する中小企業に焦点を当てた研究においては、デジタルツールへのアクセスが金融包摂を促進し、経済成長に貢献することが指摘されています。グローバルなデータ流通は、科学研究やイノベーションのための重要情報の共有、人身売買の防止、災害マネジメント、詐欺や資金洗浄への対応、さらには気候変動への取り組みにおける協調の促進など、様々な重要な活動を可能にします。
調整されず、善意によってデータ流通の恩恵が制限される可能性
開かれたデータ流通から得られる恩恵は多くあるものの、国境を越えたデータへのアクセスやデータの共有には課題も存在します。デジタル経済活動が拡大するにつれて、より多くの国がデータローカライゼーション要件(データを自国内で保存および/または処理しなければならないことを明示する要件)を含んだ規制枠組みを設けています。データローカライゼーション要件を持たない他の国においても、これと同等の効果をもたらす複雑なデータ流通に関するルールを導入しています。データローカライゼーションは、自国の領土でデータの保存を義務付ける要件や国外へのデータ流通の禁止要件など、複数の方法でデータの流通を制限している場合もあります。
ローカライゼーション規制にとどまらず、あらゆる規模の国際的なデータ管理者は、急増し、時には矛盾する各国のデータ流通に関する義務の対応に悩まされています。G20と欧州においては、新しいデータガバナンスに関するルールが2023年に入って平均すると毎日のレベルで提案されています。急速に変化し続ける規制環境において、国際的なデータ管理者は、莫大になり得る制裁金のリスクと隣り合わせで、事業を展開する各国の規制を遵守する必要があるのです。
このようなルールは善意に基づき策定されている可能性があるものの、現実には、データの流通が抑制されるため、潜在的に多くの制限的な帰結をもたらす恐れがあります。データ流通の抑制と規制の断片化は、イノベーションを遅らせ、企業や個人のコストを高め、最終的には経済成長を損なうため、より広範な負の経済的影響をもたらす可能性があります。データ流通における制限の増加とデジタル規制の断片化によって、私たちは現在の機会、そして未来の繁栄を次第に失っているのです。
相互運用性を促進するための新たなアプローチ
政策立案者、貿易交渉担当者、規制当局は、国内のプライバシーやセキュリティに関する懸念と、データの自由な流通およびそれによりもたらされる便益を調整するために、積極的に取り組みを進めています。すでに重要な進展が見られる一方で、既存の貿易交渉トラックや規制を調整させるための取り組みは、デジタル経済のスピードに後れを取っています。効果的で信頼性のある国際協力メカニズムは、こうした既存の取り組みを補完する上で重要です。
故安倍晋三元首相が提唱したDFFTは、機密データの保護と国境を越えた安全なデータの流通をいずれも確保することができる枠組みとして、G7やG20をはじめ様々な国際フォーラムにおいて推進されてきました。国境を越えたデータ流通に関するアジェンダを推進する日本政府がG7の議長国となる今、DFFTを具体化し、データプライバシー、サイバーセキュリティ、ユーザーの同意、データ流通等における国際協力を発展させるためのまたとない機会が到来しています。
今こそ行動を起こす時
日本政府が提案するDFFTを具体化し規制の相互運用性を促進するための新たな制度的取り決めの設立は、目に見える形での前進といえます。この新たな制度的取り決めにおいて、焦点を明確化し、議論を継続的に進展させ、関係者の有意義な参加を確保するためには、常設の事務局の設置が求められます。また、優先事項を特定し行動の機会を見出すために、企業、アカデミア、市民社会などグローバルな利害関係者を関与させることも重要になります。さらに、この制度的取り決めはDFFTを促進するための実用的な解決手段を試験的に運用し検証するための能力を持ち、参加者がデータに関するルールの相互運用性を高めるための複数の手段を生み出せるようにする必要があります。
このように設計された新しい制度的取り決めは、国際社会に対していくつかの追加的な恩恵をもたらすことになります。第一に、各国の国内規制に干渉することなく、各国のデータに関するルールの相互運用性を促進することができます。第二に、自由なデータ流通を継続的に促進するための実用的なアイデアや解決手段を試すための実験室としての機能を提供することができます。第三に、政府、労働者、企業、市民社会など多様な利害関係者からのアイデアを前進させることができます。最後に、この制度的取り決めにより、参加者の間に、議論の一貫性、活発なコミュニケーション、そして説明責任を生み出すことができます。
国境を越えた効率的かつ責任のあるデータ流通を確保するためには、プライバシー、オンライン空間の安全性、偽情報、透明性、公平性などに関する懸念に対処する必要があります。信頼性を確保しつつ国境を越えてデータを流通させることは、市民、企業、政府、その他の組織にとって喫緊の優先事項となっています。結局のところ、デジタル経済の可能性を最大限引き出すには、国境を越えてデータを流通させる必要があるのです。今日、グローバルなデータ政策上の課題に対処する上で多国間協力、国際協力、官民協力がこれまで以上に重要になっています。日本のリーダーシップの下、2023年4月29日から30日にかけて群馬に集結するG7各国政府には、安全かつ信頼性のあるデータ流通と、それによってもたらされる繁栄に持続的に貢献するための真の機会が到来しているのです。
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