「テクノロジー外交」が、重要視されている理由
ブラジルのエウジェニオ・ヴァルガス・ガルシア副総領事兼テクノロジー大使は、テクノロジー外交を「国家、民間セクター、市民社会などの間で、グローバルなデジタル政策や新たな技術的課題に関する国際関係を築き、対話や交渉を行うこと」と要約しています。 Image: Unsplash/Ales Nesetril
Sebastian Buckup
Head of Network and Partnerships; Member of the Executive Committee, World Economic ForumMario Canazza
Government Affairs Lead, Centre for the Fourth Industrial Revolution , World Economic Forum- 2017年、デンマークがシリコンバレーに世界初のテクノロジー外交官を任命。現在は、70を超える公館で約20人がテクノロジー特使または大使として着任しています。
- 世界経済フォーラムは、テック・ディプロマシー・ネットワークと提携。信頼と協力関係を構築するための新たな取り組みを開始しました。
- 世界経済フォーラムの第四次産業革命センターのネットーワーク・パートナーシップ担当のセバスチャン・バックアップと、同センターのガバメント・アフェアーズ・リードのマリオ・カナッザが、全ての人に利益をもたらす安全なテクノロジーの未来の形成に、テクノロジー外交官が必要な理由を語ります。
アクセンチュアのポール・ドハティ最高技術責任者は、パンデミックによりテクノロジーの導入が急激に進む以前から、「すべての企業はテクノロジー企業であり、一部の企業はまだそれを認識していないだけです」と述べています。
今では、政府がより効率的に国民にサービスを提供できるよう、ハイテク新興企業や中小企業が、行政のデジタル変革を支援する製品やサービスを提供する、ガブテック(GovTech)エコシステムが台頭し、2023年には、世界で政府によるIT支出が6,000億ドルを超えると予測されています。
しかし、テクノロジーがもたらす期待には、ガバナンスをめぐる新たな課題が伴うため、政策立案者はテクノロジーの規制に関してキャッチアップを急いでいます。ジェネレーティブAIの普及ひとつとっても、仕事や特定の作業を変革する可能性の裏に、著作権侵害から偽情報に至るまで、さまざまなリスクがあります。
各国では、第4次産業革命の最前線にいる企業と、人権や国家安全保障に関わる問題で直接対話するために、シリコンバレーにテクノロジー専門の外交官を配置するケースが増えています。
「2017年以前は、テクノロジー関連の外交政策は、国家安全保障と経済関係に焦点を当てた国家中心主義が主流でしたが、テクノロジー外交の進化に伴い、企業や市民社会がアクターとして見られるようになりました」と、テック・ディプロマシー・ネットワークの共同創設者であるパトリシア・グルーバー=バール氏は説明します。
テクノロジー外交官の台頭
2017年8月、デンマークの外交官であるキャスパー・クリンゲ氏は、シリコンバレーにおけるハイテク企業との直接的な関係構築のために、デンマークのテクノロジー大使に就任しました。これは、世界で初めてのことです。
その後、世界経済フォーラムのテックリーダーシップの卒業生であるアン・マリー・エングトフト・ラーセン氏にバトンを渡し、シリコンバレーのあるサンフランシスコ・ベイエリアの70以上の領事館のうち、テクノロジー特使または大使は約20人に増えています。
2022年6月には、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、技術担当特使にアマンディープ・シン・ギル氏を任命。同氏は、グローバル・デジタル・コンパクトにおける原則の共有に向けた取り組みを主導しています。国連は、毎年インターネット・ガバナンス・フォーラムを開催しており、直近では2022年12月にエチオピアで行われました。
そして、2022年9月には、EUがシリコンバレーにジェラール・デ・グラーフ氏を指揮官とするオフィスを設置しました。
テクノロジー外交官とはどのような役割を担うのでしょうか。そして、なぜ重要視されているのでしょうか。
テクノロジー外交とは
ブラジルのエウジェニオ・ヴァルガス・ガルシア副総領事兼テクノロジー大使は、テクノロジー外交を「国家、民間セクター、市民社会などの間で、グローバルなデジタル政策や新たな技術的課題に関する国際関係を築き、対話や交渉を行うこと」と要約しています。
これは、各国が対話を行い、目的を達成するために使用するデジタルツールや、そのツールがもたらすプライバシー、サイバーセキュリティの脅威、国境を越えたデータの流れなどの問題を大まかに説明するデジタル外交よりも、さらに踏み込んだものです。
テクノロジー外交官は、量子コンピューティングからブロックチェーン、メタバースに至るまで、さまざまな最先端技術に通じている必要があるとガルシア氏。
「理想を言えば、彼らは、多様なセクター、産業、イノベーションエコシステムと交流し、自国の経済・社会発展を促進するために、フロンティアテクノロジーにおけるパートナーとのウィン・ウィンの協力関係を模索することが期待されています」と、同氏は説明します。
また、テック・ディプロマシー・ネットワークの共同設立者であるマーティン・ラウフバウワー氏は、「テクノロジー外交は、分野や国を問わず、すべての外交官にとって不可欠なツールになるでしょう。デジタルとテクノロジーの変革により、すべての外交がテクノロジー外交に移行することが求められる日が間もなく来ます」と、言及しています。
また、デンマークのラーセン氏は「この10年で、私たちの社会がどのように発展し、進化し、機能するか。それを定義し、形成するのは、国民国家だけではないとうことを、目の当たりにしてきました」と、テクノロジー専門誌テックモニターの記事で語っています。
「テクノロジー大使の役割は、世界の技術産業に対して、デンマークの価値観、つまり、デンマーク国民と政府の意見と展望を代表することです」。
なぜ、シリコンバレーなのか
シリコンバレーがテクノロジー外交の拠点となったのは、世界最大の技術革新の中心地であるからに他なりません。
アップルからズームに至るまで、大手ハイテク企業がAtoZで構築した既存のインフラ、人材プール、マーケットプレイスがシリコンバレーにはあり、新興企業がそれに便乗することができるため、そこに政策立案者が物理的に存在することは理にかなっているのです。
EUのデジタル市場法(DMA)とデジタルサービス法(DSA)は、それぞれ中小企業を保護し、企業がオンライン上の有害コンテンツに対処できるようにすることを目的としていますが、デ・グラーフ氏にとって、この地域に技術外交官を置くことは今や必要不可欠です。
彼が担う役割の最も重要な部分について、DMAとDSAの両方を通じてこれらの企業を導くことであると、同氏は、ブルームバーグのインタビューで語っています。
同氏のオフィスは、最終的にハイテク産業と闘うのではなく、協力的な関係を持つことを目的として、対話を促進するためのセミナーの運営やイベントを行なっています。
ラーセン氏は、シリコンバレーに滞在している間、積極的な反応があったとし「ハイテク業界は、もはや規制があるかどうかという問題ではなく、どのように規制するかという問題であることを認識しています」とテックモニターに語りました。
世界経済フォーラムの取り組み
2月21日に、世界経済フォーラムの第四次産業革命センター(C4IR)は、テック・ディプロマシー・ネットワークと正式に提携し、非公式な交流、信頼構築、コラボレーションのためのプラットホームをサンフランシスコで発足させました。
このネットワークは、シリコンバレーを拠点とするテクノロジー外交官のコミュニティで、技術戦略、ガバナンス、政策に関するベストプラクティスの共有と対話の促進を図るものです。
「ベストプラクティスを共有し、コラボレーションを強化しながら、この比較的新しい分野のコンセプトを明確にするために、パートナーとともにコミュニティを構築したいと考えています」と、ラウフバウワー氏は意気込みます。
上級テクノロジー外交官は、すでに非公式な会合を開いており、ネットワークの公式立ち上げイベントの開催と、より定期的な会合のためのプラットホームを提供するよう、C4IRにアプローチしてきています。
ブラジルのテクノロジー大使であり、本ネットワークの参加者であるガルシア氏はに、効果的なテクノロジーガバナンスには、テクノロジー外交官のグローバルな参加を活性化させることだけでなく、テクノロジー外交官間の協調も必要であると、デベックス述べています。
テック・ディプロマシー・ネットワークは、これを可能にするだけでなく、シリコンバレーのテクノロジー外交官が、他のステークホルダーと協力する新しい方法を提供し、私たち全員に利益をもたらす安全なテクノロジーの未来を形成するために、彼らが協力することを可能にするのです。
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