退職後の蓄えについて求められる意識改革とは
10年後の定年退職者の姿は、どのようになるのでしょうか。 Image: UNSPLASH/Vlad Sargu
- 現在の退職金・年金制度は、人々が健康で長生きするという現状を想定して設計されたものではありません。人々の仕事と健康状態が変化し、かつてないほどの長寿化となった時代に、学校、仕事、退職という従来の3段階の人生設計はもはや機能しないのです。
- 多くの人々は、退職後も20~30年生きるため、定年後も仕事を続けることを望んでいます。一方、老後も安心して暮らせるだけの経済力を維持するために、長く働かねばならない人々もいます。
- 社会の高齢化が進み、多くの女性が男性より長生きするようになると、ジェンダーや人種間の格差、高齢労働者のニーズの変化、ギグワーカーの増加などに対応するために、老後の貯蓄格差への対処を見直すことが必要となってきています。
人口動態の変化
世界の人口動態の変化は、数字だけを見ると理解しづらいものがあります。人間の平均寿命は産業化時代以降に急伸し、1900年から2000年の間に2倍になりました。現代の豊かな国で生まれた乳児は、その半数以上が100歳まで生きると、科学者により予測されています。
しかし、世界的な少子化の影響で、現在では5歳以下の子どもよりも60歳以上の人口が上回っています。実際、世界保健機関(WHO)によると、今後30年で、世界の60歳以上の人口比率は12%から22%へとほぼ倍増すると見込まれているのです。
現在の退職金・年金制度は、かつてないほどの長寿化や、仕事と健康状態の変化という現実に即していません。大半の労働者の人生設計にも対応していないのです。スタンフォード・センター・オン・ロンジェビティ(Stanford Center on Longevity)はこのほど、30年の余生を 「人生のあらゆるステージに戦略的に分配できる配当」とみなすべきだと示唆しました。
あらゆる人々の経済面のニーズは、人生100年時代の中で変化してきています。そのような変化に対応するために、私たちも想像力を豊かにし、新たな政策や改善策を立てなければなりません。
マルチステージの人生を送る
すでに世界中の数百万人もの労働者は、学校に通い、キャリアを積み、退職するという従来の社会的規範を打ち破っています。育児、介護、昇進や転職のための新しい技能習得に向けて、中年期であっても学校に戻るなどして、一時的に仕事を中断することもあります。ギグジョブで、オンデマンドでの仕事や、自分でスケジュールを管理できるフリーランスの仕事を選択する人々もいます。
一方、高齢になっても、退職を望まない人々も存在します。まだまだ健康で生産性も高く、職場との連帯感も捨てがたいうえ、仕事によって体に負担がかかることもおそらくないだろうと感じているのです。段階的な引退を目指し、週に数日勤務することを希望する人もいるでしょう。一方で、従来型の定年での完全引退を待ちわびている人もいます。
私たちの働き方、暮らし方、お金の使い方はさまざまで、これまでのように貯蓄して老後に使うという画一的な退職金制度は、もはや現実的ではないのです。前述したような転機や、今はキャリアの「中断」と見なされるような目的でも、いつかは長い人生を豊かにするために必要なプロセスであったと振り返られるような目的のために、お金を使いたいと思う人は少なくないでしょう。
真の変革には、マルチステークホルダーによる解決が必要
人口動態の変化とそれに伴う経済的な影響に対処することはどの国でも課題となっています。今後数十年の間に、あらゆる国がこの現実に対応すると予想されますが、その準備のためにマルチステークホルダーによる解決が必要です。
長い老後にも、人々が安心して暮らせるだけの経済力を維持するため、リーダーや私たちには次のようなことが求められています。
政策立案者:創造力を高めましょう。21世紀の暮らし方と働き方にふさわしい効果的な貯蓄プランが立てられるよう人々を支援しなければなりません。前世紀からの年金制度はもはや通用しないのです。
企業:より公正で包括的なアプローチをとりましょう。ギグワーカー、専業主婦である母親、低所得労働者が、幅広い選択肢の中から商品を選べるよう、富裕層だけではなく、社会全体のための金融商品が必要です。金融リテラシー計画は、この新しい人口動態の現実に即したものでなければなりません。
社会:より優しくなりましょう。人口動態の変化を問題視して、年齢差別的な固定観念を助長すのはやめましょう。寿命が延び、人生をどのように過ごすかについて選択肢が増えることは、私たちの特権です。老後の蓄えなどに関する長年の思い込みや確立された制度に対して取り組むことで、私たち自身に何ができるか(例えば、次の世紀に向けたすべての人々に向けた魅力的な貯蓄プランの策定など)について考え、現実的なニーズを満たす政策に対する意識を高める機会となるのです。
*本記事は、Quartzの記事の和訳を転載したものです。
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