食料システムがネットゼロへの道を切り開く‐今すぐ行動を
誰一人取り残さない持続可能な食料システムを実現するには、農業従事者が食料システムの変革に参加することが不可欠です。 Image: REUTERS/Daniel Acker/File Photo
- 世界経済フォーラム主催の「Bold Actions for Food as a Force for Good」セッションでは、官民の専門家によるパネルディスカッションを実施。
- ウクライナでの紛争と新型コロナウイルス感染拡大による混乱が続く状況下においても、誰も飢えることなく、食料システムをネットゼロに移行する必要性が議論されました。
- COP27では、食料・農業部門の問題を議論し、迅速な解決を図らなければなりません。
世界情勢が不安定な中、食料・農業部門は世界をネットゼロに導く可能性を秘めています。COP27のアジェンダはこうした議題を盛り込むべきであり、私たちは今すぐ行動を起こさなければならないのです。
これは、世界経済フォーラム主催の「Bold Actions for Food as a Force for Good(食料のための大胆な行動:世界を良くする力) 」でのオープニングのプレナリー・セッションで、専門家パネリストの圧倒的多数が口にした意見。
食料システムからの温室効果ガス排出量は、世界の全排出量の3分の1に達し、7億6,800万もの人々を飢餓に追いやっています。
ウクライナでの紛争、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、異常気象など世界が数々の困難に直面する今こそ、食料システムを誰一人として飢えることのない、ネットゼロでネイチャー・ポジティブな(自然を優先する)インフラに移行させることが急務となっています。
同プレナリー・セッションでは以下のパネリストたちが意見を表明しました。
ユニリーバ社、食品・リフレッシュメント部門代表、ハンネケ・ファベル氏、エーカー・ベンチャー・パートナーズ社、パートナー、サム・カス氏、世界銀行、持続可能な開発部門副総裁、ユルゲン・フォーグレ氏、バイエル社、経営委員会委員兼クロップサイエンス部門代表、ロドリゴ・サントス氏。
国連食糧農業機構(FAO)事務局長、チュー・ドンユィ(屈冬玉)氏と米国農務長官トム・ヴィルサック氏が挨拶と閉会挨拶を述べ、ニールセン・ネットワーク社、創立者兼最高経営責任者(CEO)、ブロンウィン・ニールセン氏がモデレーターを務めました。
ここでは、セッションの主な内容をご紹介します。
ウクライナ侵攻による、食糧危機の悪化
フォーグレ氏は次のように述べました。「私たちはすでに2年にわたり新型コロナウイルスのパンデミックに直面し、気候問題への取り組みにも力を入れてきました。しかし現在は、移民、経済低迷や、何億もの人々の食料安全保障に『大きな影響』を及ぼす戦争に直面しているのです」。
「あらゆる物価が高騰し、食料システムが世界中でいかに危機にさらされているか、これまでになく明らかになっています。ロシアとウクライナは小麦の国際取引高のほぼ3割を占めています」 。
「ロシアは世界最大の小麦輸出国ですが、収穫量が乏しく、サプライチェーンに問題があるため、世界中で貯蔵量はすでに不足しています。ロシアは食用油にも影響を及ぼしています。ウクライナがひまわり油輸出の50%を占めていることによるものです」とフォーグレ氏は続けました。
「あらゆる物価が高騰し、食料システムが世界中で危機にさらされていることは明らかです。」
”「小麦価格はここ数か月で53%上昇し、ロシアの最大輸入相手国であるエジプトとインドネシア、そしてアフリカ諸国がもっとも影響を受けています。『今後、大規模な混乱が起きることが見込まれます』」。
「全世界の食料供給に及ぶ影響は長期にわたります。それがどの程度深刻になるかは、今後数週間のうちに各国がどのような政策を実施するかにかかっているのです」。
「2008年の輸出制限のように、市場を歪め、結果的に『アラブの春』を招いたような事態を繰り返すことはできません」。
「これは、誰もが話し合うべき喫緊の問題です。なぜなら、物価の引き下げや被害者の救済を妨げる国を私たちはすでに数多く目にしているからです」。
食料システムは、エネルギー部門より「数十年遅れている」
さらにフォーグレ氏は、「目先の問題にこだわるだけでなく、長期的な問題にも取り組む必要があります」と続けました。
「気候変動は差し迫った問題ですが、脱炭素化への取り組みでは食料システムはエネルギー部門に比べ数十年遅れています。私たちは問題を細分化するために資源を費やしているのではありません。存在するテクノロジーを適切に利用する必要があるのです」。
サントス氏は、次のように述べました。「食料・農業部門がネットゼロへの移行を加速させるためにすべきことが3つあります。『イノベーションと科学を受け入れ、育て、他部門と協力し、今すぐ行動する』ということです」。
「昨日、ある農家の方と話した際に、二酸化炭素の影響を防ぎながら健康的で安全な食料を供給できるのでしょうかと伺ったところ、その方は、『可能ですが、官民で協力する必要があります』と言われました」。
「農業従事者も取り組みに参画し、共に解決策を模索し、我々と同じテーブルにつく必要があります。複雑な問題ですが、小規模農家を支援し、共に行動し、食料システムを変革させることが重要です」。
今すぐ行動を
ファベル氏は、「問題をただ傍観する日々は終わりました。私たちは行動しなければなりません」と述べました。
ファベル氏は、2022年にユニリーバ社が提携先と共に優先的に取り組む5つの行動について次のように紹介しました。
1.「飢餓をゼロに」。人道的支援を提供し、世界の物資の自由な流通を維持する。
2.ネットゼロを目指す環境再生型農業。クノール社と共に、今年新たに8つの大型プロジェクトを立ち上げる。
3.植物性食品を利用する。消費者に肉食を控え、食生活を変えるように促す。
4.消費者も巻き込んだ食品廃棄物の削減。世界では、生産される食料の3分の1が廃棄されている。「結局消費しない食料を生産するために、私たちはあまりにも多くの土地を使い、温室効果ガスを発生させているのです」。
5.健康な生活。さらに健康な製品をつくること。
消費者の役割は重要
カス氏は次のように述べました。「食品システムを変革させるには、あらゆる関係者が問題に取り組まなければなりません。もう時間はありません」。
「不安定な時代に突入しているため、当然消費者も問題解決のために取り込むことが必要です。食品会社だけでは解決することはできません。総合的なアプローチをとる必要があるのです」。
「食品会社はどこも二酸化炭素排出量の算出方法を明確にし、排出量削減に着手する必要があります。こうした企業の姿勢によって消費者はどの企業を支援するか選ぶことができるのです」。
「算出方法にはまだ問題」があることを認めた上で、カス氏は、「スコープ3の排出量は温室効果ガス全排出量の80~90%を占めているため、その数値は企業の報告書類にも含まれなければなりません」と述べました。
「やるべきことは多くありますが、農業従事者に奨励金を提供し、正しいことを行ってもらうチャンスがあるのです。それは炭素隔離のための助成金やブランドへのインセンティブを与えることなどで実現可能です」。
「現在、危機に瀕している私たちが、このことから目を離さないことを望んでいます。時間の余裕がないのですから」。
食料システムをCOP27のアジェンダに
11月に開催されるCOP27を見据え、そのアジェンダに食料システムを含めることに、すべてのパネリストたちの意見が一致しました。
フォーグレ氏は次のように説明しました。「政府の農業助成金は、農業従事者が『正しい方法で食料を生産』するための支援となります。しかし現在は、私たちに必要な成果に見合う助成金はほとんどないのです」。
「『膨大な税金が無駄になっているだけでなく、実際に税金が有害となっている』ため、助成金へのシフトや増額について、COP27で議論する必要があります。同じ量の米を生産しても、排出量は半分に減らせるのです」。
「食料システムには、ネットゼロへの道に導く『指標』がまだ存在しないのです」。
「エネルギー部門の関係者は、重工業などの在来型産業を経験し、その状況を変えなければならないと理解しています。問題の解決が必要なのは明らかです。しかし農業分野では、関係者は何が誤っているのか感じ取ることも、理解することもできないのです」。
「きわめて重要なことは、助成金とテクノロジーです」。
「新たに創出すべきことはまだ山のようにあるので、目的にかなうイノベーションに投資しなければなりません」。
「当然、消費者を問題解決のために取り込むことが必要です。食品会社だけで解決することは不可能でです。」
”カス氏が続けました。「私たちはこのような状況を打破し、もっと積極的に役割を主張しなければなりません。私たちは短期・中期的な問題の解決策を主導できますが、その後の問題を乗り越えるためには、さらなるイノベーションが必要です」。
「協力し合うことが重要」
チュー・ドンユィ氏は自身の挨拶で、ネットゼロ達成を目的とするイノベーションと政策を実現するため、私たちがさらなる行動を起こす必要があることに同意しました。
「私たちはエネルギー変革から学ばなければなりません。食料部門は、多様な環境で多様な動物や植物を扱っているため、エネルギーより複雑なのです」。
「政治家に関与を深めてもらうため、私たちはこれまで以上に事態を明確に説明することが必要です。科学者はこの問題に対処する現実的な手法を策定しています」。
「戦争終結と平和回復のためには、国連事務総長を支援すべき。停戦や和平なしで、紛争地域における食料の生産と供給をどのようにして進めればいいのでしょうか。協力し合うことが必要です」。
閉会挨拶では、ヴィルサック長官が次のように述べました。「今後のCOP会議は、我々が直面している気候問題を十分に理解できるよう、食料と農業に焦点を合なければなりません」。
同長官は、米国が10億ドルを投資した農業のパイロットプロジェクト「Partnerships for Climate-Smart Commodities(パートナーシップス・フォー・クライメート・スマート・コモディティーズ)」事業について概要を述べました。同事業はクライメート・スマート・アグリカルチャー(気候変動対応型農業)による商品の市場機会を創出する試みです。
その目的は、製品がクライメート・スマート・アグリカルチャーと再生可能な方法で生産されたか否かを知らせることで消費者の関心を集め、二酸化炭素削減と隔離を追跡する測定ツールの開発と利用を促進し、「気候変動対応型」商品の市販基準を確立することです。
「私たちは、地域の低コスト食料システムに取り組み、農場から食卓までのフードマイレージ(食料の移動距離)を短縮しなければなりません。私たちはさらなる競争の創出と、より強固でレジリエントな(強靭な)システムへの投資を目指しています。これには小規模事業者が効率良く市場参入できるための資源供与、技術支援、フードハブ開発などが含まれます」。
「この分野では様々な変化が起こっていますが、農業がこの分野で主導権を握る必要性がでてきたことを鑑みると、転換期を迎えていると言えるでしょう」。
セッションの全容はこちらからご覧いただけます。
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