「大いなる学び直し」革命にむけて
ギャラップ社とAmazonの調査によると、米国の労働者の48%が技能訓練の機会さえあれば、転職したいと考えていることが明らかになりました。 Image: Pexels.
- 「大退職時代」を迎えた今、仕事を辞める人は記録的な数に上っています。
- こうした傾向と並行して、新しいスキルを身につけようと、学び直しを選択する人も増えています。
- 企業の人事戦略は、「継続学習」という新しいマインドセットを組み込むことが必要です。
新型コロナウイルスの感染拡大により世界経済が麻痺した時、単調な仕事を辞め、志を新たにした人々は数百万にも上りました。現在、仕事を辞めることを検討している人は、全体の40%~75%に上ると報告されています。こうした動きは人材危機につながり、これは「大退職時代」なのか、あるいは「大改造時代」なのか、という議論を引き起こしています。どちらの分析も示唆に富むものですが、私たちが見ているのは、まったく別の物です。今、世界は「大いなる学び直し革命」の転換点にいるのです。
人々は学びを欲している
離職者の数は大きく報道されますが、学び直しを選択する人の数が取り上げられることは滅多にありません。実際には、人気の大規模公開オンライン講座(MOOC)の受講者数は、急増しています。同様にCourseraの受講者数も、2020年3月中旬から4月中旬の間に、160万人から1,030万人に増え、前年度比(2019年の同時期)で640%も跳ね上がりました。Udemyでは、2020年2月から3月にかけて、登録者数が400%以上増加しています。年福利が20%のeラーニング市場は、2027年には1兆ドル規模に達すると言われており、中でも特に需要が高いのは、データサイエンス、AI(人工知能)、機械学習などのコースです。これらの分野で、優秀な人材の確保に頭を悩ませている企業にとっては、明るいニュースと言えるでしょう。
こうした社会人の学び直しに対する意欲に関して、最近行われた他の調査でも興味深い結果が出ています。ギャラップ社とAmazonの調査によると、米国の労働者の48%が技能訓練の機会さえあれば転職したいと考えており、65%が転職先の候補を評価する際、スキルアップの機会があるかどうかが非常に重要だと答えています。メットライフ生命の調査では、さらに興味深い結果が出ています。パンデミック(世界的大流行)の際に退職した女性の3人に2人(63%)が復職したいと答え、10人のうち8人がSTEM(科学、技術、工学、数学)の分野でのキャリアを考えていることがわかりました。
アルビン・トフラー氏の「21世紀の非識字者とは、読み書きができない人のことではない。学んだことを忘れて、新しく学び直すことができない人のことだ」という予言の通り、私たちは識字(リテラシー)能力の再定義を目撃しているのです。
人材戦略を見直す時期
この嵐のような状況の中で、企業は何をするべきなのでしょうか。船乗りなら誰でも知っていることですが、一番近い港を見つけて嵐が止むまで停泊するか、帆を調整し、コースを変えて波に乗るか、嵐を乗り切る方法は二つしかありません。企業に必要なのは、帆を調整することでしょう。こうした動向を否定したり、受け身で対処したり、あるいは攻撃的に対応する(暴騰した対価戦略を考えてみてください)ことは、最善の解決策ではありません。必要なのは、組織の人的資源戦略における、三つのシンプルな方向転換です。
1.人材の維持:対価型報酬から学習型報酬への転換
CTC(企業の従業員に対するコスト)から雇用の視点を広げる時期に来ています。ボストンコンサルティンググループ(BCG)の調査によると、ブルーカラー、ホワイトカラーを問わず、世界中の労働者の68%が学び直しによって、新しいスキルを身につけたいと考えていることが分かりました。Z世代とミレニアル世代については、この傾向はすでに認識されていましたが、一方で、45歳以上の約3分の2の人が「新しいスキルを身につけるために、かなりの時間をかける覚悟がある」という事実はあまり知られていません。興味深いことに、トレーニングと能力開発の価値に対する認識は、過去5年間でほぼ2倍になったと報告されています。こうした努力を評価し、積極的に奨励することは、人材確保に関する組織の見解を再構築するための有効な手段となるでしょう。
2.雇用:学歴重視からスキル重視への転換
従来、就職で最も重視されるのは「学歴」でした。買い手(雇用者)市場から売り手(被雇用者)市場への転換を迎えた今、スキル重視の採用という有望な新しいトレンドが芽生えつつあります。米国のリンクトインによると、学歴ではなく、スキルや責任を重視した求人広告が21%増加したということです。しかし、採用に際しては、学歴に偏る傾向があるのも事実で、早急にこれを是正しなければなりません。新しいスキルを習得するため投資は、その最終的な報酬が就職であるだけでなく、適切なスキルを身に着けることでパフォーマンスが向上し、ウィンウィンの関係を築くことができるのです。
3.重視する点:「即戦力」から「育成する人材」への転換
組織の成功をもたらすのは「人」であることは、誰もが認識する事実です。そろそろ、この哲学を逆手に考えても良いのではないでしょうか。組織の成功は「人材を育成する」役割を担うとき、つまり、部下の成功の道筋を作るときに生まれるという、という事実を認めるべきなのです。先日、気になる見出しが目に留まりました。「Why a jungle gym is better than a corporate ladder(出世の階段よりもジャングルジムが望ましい理由)」というものです。この記事では、人事関連の専門家が「企業のリスキリング(新たな学び・研修)計画」では、横滑りの異動(昇進しても役職や職務内容が変わらない)を推奨するほか、「学習に時間とコストを確保するべきだ」と提唱しています。従業員のリスキリングの機会を設ける、あるいは自主的に学習に取り組むための時間と予算を提供するなど、学習欲求の高まりに対応できる企業は、この勢いに乗って前進することができるはずです。
第四次産業革命では、「継続学習」という新しいマインドセットが求められます。その基盤となるIoT、データアナリティクス、サイバーセキュリティ、AI、機械学習は、現在、人材不足に悩まされている分野です。インダストリー4.0が、強固な基盤を築き、成長を促進するためには、「大いなる学び直し」という強力な革命を必要としています。それは希望へのカギであり、成功への足がかりなのです。これを見過ごしてしまうことは、社会全体にとって大きな損失となるでしょう。
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