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2022年の予測:ビジネスリーダーが語るサプライチェーンの変化

supply chains - man and a woman sit on a seat next to their bicycles as a container ship sails into Oriental Bay in the New Zealand capital city of Wellington September 17, 2011.

デジタルテクノロジーは、レジリエントで持続可能なサプライチェーンの中心となるでしょう。 Image: REUTERS/David Gray.

Kimberley Botwright
Head, Sustainable Trade, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。ダボス・アジェンダ
  • サプライチェーンの混乱は続いており、2022年にどのような状況になるかについては専門家の間でも意見が分かれています。
  • 多くの企業が、サプライチェーンの信頼性とレジリエンス(強靭性)を高めることで、危機をチャンスに変えようとしています。
  • サプライチェーンにおけるデジタルテクノロジーの活用は、長年にわたって重要な論点となってきましたが、今や成功のための主流の要件となっています。

サプライチェーンは、2022年も引き続き不確実性の高いものとなるでしょう。現在の閉塞感が緩和されるのか、それとも過去1年半のように不安定な状況がこのまま続くのか、専門家によって見解が異なっています。フィナンシャル・タイムズ紙は、昨年の海運危機の影響を強調し、海運により世界のインフレ率が1.5%上昇すると国連の報告書が予測していることを紹介しています。

こうした悲観論の中、2022年のサプライチェーンは波乱万丈なものになるという見方が広がっています。しかし、多くの企業は、サプライチェーンの信頼性とレジリエンスを高めることで、危機をチャンスに変えようとしています。サプライチェーンにおけるデジタルテクノロジーの活用は、長年にわたって重要な論点となってきましたが、今や成功のための主流の要件となっているのです。

現在のコンテナ運賃の高騰が、輸入品や消費者物価に与える影響のシミュレーション。 Image: UNCTAD

サプライヤー・エンゲージメントや、サプライヤーのキャパシティ・ビルディングにおいて、社会的・環境的パフォーマンスを優先する企業も増えています。サプライチェーンと調達の決定は、私たちが生産・消費するものの持続可能性を決定する上で、企業に大きな影響を与えます。しかし、開発途上国の企業や中小企業が適切なテクノロジーを活用できず、異なる基準に準拠することが困難であれば、最終的には持続可能な開発ができなくなってしまうのです。

持続可能な開発目標(SDGs)の達成には、あと8年の猶予があります。サプライチェーンの持続可能性は、目標達成のための重要な手段となりますが、企業と政府の両者が、全体的なキャパシティを高めるための投資を行う必要があります。

ダボス・アジェンダのオンライン会合に先立ち、世界経済フォーラムの戦略パートナーたちを招き、2022年以降、持続可能性とレジリエンスを持つグローバルなサプライチェーンを構築していく方法について、一人ひとりの洞察を語ってもらいました。

「社会性を買う」ということ

ヤスミナ・ザイドマン氏、アキュメン社チーフ・パートナーシップス・オフィサー

Image: Pexels

アキュメン社とイケアの社会起業家精神(IKEA Social Entrepreneurship)が、世界経済フォーラムの「社会起業家のための新型コロナウイルスへのレスポンス・アライアンス(COVID Response Alliance for Social Entrepreneurs)」と共同で行った調査では、こうした取り組みが、どこで、どのように行われているのか、100以上の事例が明らかになりました。

例えば、コーヒーやカカオの生産者は、数十億ドル規模の産業を支えるグローバルなサプライチェーンの中で、最も貧しく、弱い立場に置かれています。アザハルコーヒー社とカカオハンターズ社は、コーヒーとカカオの生産者と直接取引を行い、彼らのビジネスの中心に生活を置くことで、この状況を変えようとしています。

両社は、企業と社会事業が相互に長期的な価値創造のためのパートナーとなる、という新しい傾向と機会を象徴しています。「社会性を買う」ということは、グローバルな調達を、より包摂的かつ、ローカルで、持続可能なものに変えていく方法なのです。

「バイヤーとサプライヤーの関係の変化」

タレク・スルタン氏、アジリティ社副会長

パンデミック(世界的大流行)に突入して2年、グローバルなサプライチェーンは低迷し、崩壊し続けています。入港待ちのコンテナ船で混雑する港、輸送コンテナの取り違え、記録的な高運賃、その他混乱を引き起こす課題を伝えるニュースが、毎日のように私たちの耳に入ってきます。はっきりしているのは、パンデミックがサプライチェーンを大きく変えてしまったということです。

サプライチェーンはついに経営陣の注目を集め、成長のための重要な原動力として認識されるようになりました。パンデミックがもたらした存亡の危機により、企業はイノベーションやリストラへの取り組みから、レジリエンスや柔軟性の構築による事業継続性の確保に、その焦点を移行せざるを得なくなったのです。

バイヤーとサプライヤーの関係も変化しました。例えば、半導体の供給不足に危機感を抱いた米フォード・モーターや米ゼネラル・モーターズ(GM)は、半導体メーカーと戦略的な契約を結んでいます。つまり、ビジネスの境界線が曖昧になってきているのです。積極的な企業は、サプライチェーンのもつれが自然に解消するのを待ってはいません。収納スペースに余裕のない小売店は倉庫を購入し、コンテナ不足に悩む荷主は、自社コンテナを製作しています。海運業者を押さえられない企業は、自社で船舶をチャーターし、オンライン販売に不満がある人々は、電子商取引フルフィルメントで外部に委託しています。

在庫管理の「教科書」は、破られてしまったのです。失望した顧客が戻ってこない可能性があることを、企業は理解しています。そのため、一部の消費財ブランドは、欠品や品薄の状況を隠そうと必死になって、店頭のディスプレイを組み替えたり、仕掛けを施したりして欠品を隠しているところもあります。

かつてないほどの運送業者に対する信頼性の欠如、記録的な高運賃、過去最低の倉庫の空き状況など、一連の未曾有の事態は、いずれ過ぎ去るでしょう。そして、こうした状況が落ち着いたとき、よりインテリジェントなサプライチェーンが求められるようになるのです。

「持続可能なソリューション」

アリッサ・オーベルジェ氏、ベーカー・マッケンジー社チーフ・サステナビリティ・オフィサー

「行動の10年」に残された時間は、わずか8年。サプライチェーンにおけるパフォーマンスを意味あるものにするためには、産業界、政府、規制当局が一丸となって取り組む必要があります。組織は、サプライチェーン全体のパフォーマンスを向上させる必要性と、法律や規制への厳格な遵守を期待することとのバランスを取ろうとしてきましたが、多くの場合、慎重を期してきました。

今こそこうした課題を視野に入れ、組織が協力して大きな規模で迅速に前進できるようにするときです。財務上の影響、そして持続可能な解決策を生み出すためのイノベーションとテクノロジーの必要性を考慮すると、協力的で目標を共有するマインドセットを採用する必要があります。

業界のコラボレーションをサプライチェーン全体で大規模に展開するためには、競合他社とのコラボレーションに対する従来の障壁や規制のアプローチを緩和させることも必要です。各国政府と規制当局は、競合他社間の安全なコラボレーションを奨励し、より持続可能な解決策を独自に追求することを躊躇させる「先行者不利益」を排除し、業界レベルの課題を解決するために必要な創造性を促進する必要があるのです。

倫理的基準の適用と法律や規制の遵守は不可欠ですが、政府や規制当局の支援によって、競合他社が安全に協力することは可能です。

「デジタルテクノロジーと地域のハブ」

スルタン・アフメド・ビン・サリム氏、DPワールド社グループ会長兼最高経営責任者(CEO

グローバルなサプライチェーンの混乱は、2022年から2023年にかけて続くでしょう。その理由は、パンデミックの「既知の未知数」にあります。しかし、世界は常に繋がっていなければなりません。そのため、サプライチェーン・ロジスティクスをよりアジャイルでレジリエントなものにすることをめざし、あらゆる産業のバリューチェーンで大規模な投資が行われることになるでしょう。

また、ブロックチェーンやインダストリアルIoTに支えられた統合ダッシュボードのようなデジタル技術によって、リアルタイムで出荷を可視化し、予見できない混乱への対応が容易になるでしょう。さらに、新しい地域の製造拠点への投資が拡大し、サプライチェーンの短縮と運営上のリスク分散が図られることが予想されます。

世界の貿易ネットワークが再構築されている一方、マルチモーダルなインフラを介したつながりが容易になると同時に、近隣国へのアウトソーシングや港湾を中心とした物流がより緊密に統合された巨大な地域センターが新たに出現するでしょう。こうした課題は、見方を変えれば荷主や物流業者にとって絶好の機会となり、世界の他の国々にとっては、より安全で信頼性の高いサプライチェーンの構築につながるはずです。

「中国の輸出成長率は10%に」

沈建光博士、JD.comチーフ・エコノミスト

グローバルなパンデミックが続く中、中国の輸出は、そのレジリエントで包括的なサプライチェーン・ネットワークのおかげで、2021年も引き続き群を抜いていました。多くの経済国が製造品の需要過多に陥っている一方で、中国は供給過多となっている数少ない経済国の一つであり、中国製品は高い需要があるのです。

世界貿易機関(WTO)によると、世界の輸出に占める中国の割合は大幅に増加しており、2020年には14.5%以上を占めるとされています。世界の繊維および衣料品輸出に占める中国の割合も増加しており、東南アジア諸国連合(ASEAN)を遥かに凌いでいます。また、機械や電気製品の輸出の伸び率も加速しました。さらに、中国はバリューチェーンを活用して競争力を高め、資本財の輸出も増加させているのです。

今後、海外製品の需要が減少し、供給サイドが着実に回復していく中で、中国の輸出の成長率は徐々に減速していく可能性があります。しかし、中国のサプライチェーンのレジリエンスと、輸送のボトルネック解消にかかる時間を考慮すると、2022年には中国の輸出は10%の伸びが見られると予想されます。

納期の長さはサプライチェーンの混乱を反映しています。 Image: IMF

「リアルタイム・レジリエンス」

キャスリン・ウェンゲル氏、ジョンソン・エンド・ジョンソン社エグゼクティブ・バイス・プレジデント兼チーフ・グローバル・サプライ・チェーン・オフィサー

リスクを軽減することは、もはや一度きりの単独のインシデントに対応することではありません。これからの国際貿易には、外部の出来事を予測し、それを乗り越える能力であるリアルタイム・レジリエンスが必要です。そのためには、デジタルに裏打ちされたネットワークベースのアプローチが求められます。デジタルはテクノロジーを強化し、システムをつなぐだけでなく、アクセスのための新しいチャネルを開き、発送状況、原材料、調達方法、環境への影響などを完全に透明化するのです。

もはや、一企業だけで対処できないことは明らかです。補完的な能力を活用し、データ品質や気候目標などの分野で業界標準を推進するためには、パートナーをつなぐグローバルネットワークが不可欠なのです。リアルタイムリリース(RTR)やインテリジェントオートメーション(IA)などの先進的な製造技術への投資は、予測分析、効率化、環境への配慮を強化しています。データサイエンスやAIなどの将来を見据えた分野で人材のアップスキリング(技能向上)を図ると同時に、多様性とグローバルな意識を持つSTEM(科学、技術、工学、数学)人材を育成することで、私たちの集合的産業の未来を形作る人材を惹きつけ、採用し、確保することができます。

こうしたテクノロジー、パートナーシップ、プロセス、人材の組み合わせにより、その規模とスケールを利用して、ソースから持続可能性に至るまでポジティブな影響を与える、連結されたグローバルなエコシステムの能力を加速させるのです。

「サプライチェーンを変革し、活用する」

ニコラウス・カーナー氏、SAP最高調達責任者、アレクサンドラ・ファン・デル・プローグ氏、SAP社会責任担当責任者

世界的な新型コロナウイルス感染拡大によって、これまで以上に強調されたことが一つあります。それは、企業は単独では成立しない、ということです。逆境や絶えず変化する境界に対処するためには、サプライチェーン・ネットワークを変革し、活用する必要があります。世界経済フォーラムの「社会起業家のための新型コロナウイルスへのレスポンス・アライアンス」のような組織は、より多様で応答性の高いサプライチェーンを構築するために、企業やコミュニティを超えた協力的なアプローチを一体化させ、推進しています。

もし多くの企業が、増大する調達コストの一部を、現在のサプライヤーと同等のコストで、高品質で持続可能な商品やサービスを提供する社会的企業に投資するとどうなるでしょうか。私たちはサプライチェーンにイノベーションを吹き込み、不平等、廃棄物、二酸化炭素の排出などの課題解決に向けて前進していくことができるでしょう。しかし、すべての組織が、SAPの「5 & 5 by ’25イニシアチブ」やユニリーバの20億ドルの年間支出コミットメントのようなコミットメントを実施する準備ができているわけではありません。

真の変化は、コミットメントにアクションが兼ね備わり、企業がサーキュラリティ(循環性)と社会的責任への投資に必要なステップを踏むことを決断したときに起こるのです。そして、サプライチェーンに影響を与える規制がやってきます。このとき、純粋にコンプライアンスやリスク軽減の観点から見るべきではありません。これは、私たち全員にとって変革の機会です。私たちは世界の仕組みを変えることができ、その機会を逃してはならないのです。

「デジタル経済圏における信頼」

クリストフ・ブラッサイア氏、シュナイダー・エレクトリック社シニア・バイス・プレジデント、サイバーセキュリティ&グローバル・チーフ・インフォメーション・セキュリティ・オフィサー

サプライチェーンのデジタル化には、製品の設計から納品まで、エンドツーエンドのサプライチェーンを通じた企業変革を意味します。近年、デジタルおよび物理的なサプライチェーンを狙った大規模な攻撃により、数百万ドルの損害とブランドへの影響が生じていますが、これは、サイバー攻撃と無縁の業界はないことを示すとともに、運用テクノロジーの分野に対するハッカーの成熟度が増していることを示しています。企業は、サプライチェーンのレジリエンスを失わないようにするために、脅威を速やかに検知して修復する強力な機能を構築する必要があります。

全社的なサイバーセキュリティの文化を確立し、勢いを増す脅威に対してリスクを積極的に軽減するだけでなく、パートナー、サプライヤー、顧客からなるエコシステムとの連携を図り、サプライチェーンのレジリエンスを向上させる必要があります。これにより、すべての関係者のビジネスを保護し、業界全体の防衛レベルを高めることができます。デジタル経済圏におけるすべての関係者に信頼を与えるためには、協力して取り組むことが不可欠なのです。

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「インダストリー4.0のテクノロジー」

ローランド・ブッシュ氏、シーメンス AG 社長兼最高経営責任者(CEO

2022年には、サプライチェーンのレジリエンスが多くの経営者の最優先事項になると考えてよいでしょう。消費者の近くに生産拠点を置くことを検討する企業もあれば、サプライヤーの多様化、異なる部品の使用、工場のネットワークの有効活用などにより、レジリエンスを高める努力をする企業もあるでしょう。良いニュースとしては、テクノロジーがこれらすべてを可能にしてくれるということです。

AI、高度な自動化、デジタルツイン、シミュレーションソフトウェアなどの技術は、企業に製造やサプライチェーンを見直すための新たな可能性を提供します。インダストリー4.0のテクノロジーを活用することで、企業は高コスト国でも競争力のある生産を行い、市場の変化に速やかに対応できます。また、バリューチェーンを統合することで、グローバル拠点間で柔軟に生産をシフトすることができます。

しかし、この機会に企業がサプライチェーンをより持続可能なものにしたらどうでしょうか。シーメンスでは、排出量の90%以上がサプライチェーンで発生していることから、取り組みを強化しています。当社には65,000社以上のサプライヤーがあり、そのサプライヤーもまた何千社ものサプライヤーを抱えているため、この取り組みは大規模なものです。

ここでもテクノロジーが答えとなります。排出が発生する場所の透明性を確保するために、組織はブロックチェーンやデジタルツインの技術を活用して排出量を追跡し、その削減のための戦略を立てることができます。

未来の衝撃から身を守るために、多くの企業は2022年にサプライチェーンのレジリエンスを高めることを優先するでしょう。これを機に、サプライチェーンをより持続可能なものにしていきましょう。

「平等性と包摂性の促進」

マーク・エンゲル氏、ユニリーバ社最高サプライチェーン責任者

社会的不平等は、私たちが今日直面している最大の脅威のひとつであり、ユニリーバは、健康とウェルビーイング(幸福)、そして生活を最優先することを選択した企業とのパートナーシップをより一層重視しています。私たちがこの活動に取り組んでいるのは、貧困の連鎖を断ち切り、世界の経済圏の基盤を強化し、社会的不平等に対処することが、社会にとっても、あらゆるビジネスの将来の成長とレジリエンスにとっても重要なことだからです。私たちは、生活水準を高め、包括性によって機会を創出することで、より公平で社会的に包摂的な世界に貢献することを約束しています。そして、総合的なシステム・アプローチが唯一の有効な手段であるため、このアプローチに合わせてサプライヤー・ベースを再構築しているのです。

サプライヤーの公平性、多様性および包摂性の約束と生活賃金/生活収入の約束という社会的な約束を通じて、私たちはサプライヤーに、自社のバリューチェーンにおいて公平性と包摂性を目に見える形で促進する一連の行動を取るよう求めています。

パートナー・プロミス・プログラムは、サプライヤーが当社の戦略的野心に沿って行動し、独自の社会的持続性の取り組みを始めることを促すもので、共に成功の規模を拡大し、加速することができます。

私たちの価値観を共有する仲間との協力により、持続可能な生活を当たり前のものにすることができるのです。業界の同業者、同僚の仲間たちにもこの取り組みに参加してもらいたいと考えています。

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