アジア太平洋地域のユニバーサル・ヘルスケアを再構築する道
アジア太平洋地域は、時代遅れのヘルスケアシステムという問題に直面しています。将来のために、どのように改善することができるでしょうか。 Image: UNSPLASH/Victor He
Chris Hardesty
Visiting Lecturer at the Global Business School for Health, University College London (UCL)- アジア太平洋地域には、世界人口の約60%が居住しています。
- 「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ2.0」と呼ばれるヘルスケアの新しいモデルは、よりサステナブルに、この地域に暮らす人々の将来のために資源を最大限に活用できる可能性を秘めています。
- この新しいヘルスケアモデルはより良い健康水準を提供するもので、生涯的な予防接種、糖尿病管理、希少疾患という3つのケアパスを利用することで実現できます。
アジア太平洋地域には、約43億の人々が暮らしていますが、そのヘルスケア提供と資金調達モデルは時代遅れになっています。また、感染症や非感染症の増加、人口の高齢化など、この地域が抱える課題にも対応していません。
効率の向上、リソース最適化、患者の予後の改善が急務となっています。衝撃に強い医療システムの構築は、段階的に進められています。
リソースを最大限に活用し、クリエイティブな戦略によって持続可能性を実現するために、世界経済フォーラム、KPMG、サノフィ社からなる中核的研究チームは、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ2.0」(UHC2.0)と呼ばれるヘルスケアの新モデルを提案してきました。
UHC2.0では、社会のあらゆるレベルで、医療とウェルビーイング(幸福)を標準作業手順として組み込んでいます。将来の人々のために、医療提供および資金調達のモデルは、改革されなければならないのです。
ここでは、健康水準の向上を目的として、サステナブルな医療提供と医療資金調達のために追求すべき3つのアクションをそれぞれ紹介します。これらのアクションでは、生涯的な予防接種、糖尿病管理、希少疾患という今日の最も差し迫ったヘルスケアニーズを反映している3つのケアパスを活用します。
持続可能なヘルスケアの提供
- インフラ:「フィジカル」に頼らず「バーチャル」を促進
社会の人口構成や疫学的構成の変化に対応するために、UHC2.0のインフラは、テクノロジーとデータを活用して、患者の体験、資源の効果的な配分、安全で公平な治療への持続的なアクセスに焦点を当てることが重要です。
アジア太平洋地域の政府のリーダーたちは、ヘルスケアニーズの高まりに対応するために、自国におけるネットワークアクセスの急速な拡大を活用しなければなりません。モバイル機器、ウェアラブル機器、アプリは、病気に対する認識、診断、管理に変革をもたらす可能性があります。
デジタルアプリを使って健康記録にアクセスすることで、個人が自分に合ったヘルスケアを受けるきっかけになるのです。
文化的規範や医師の権威に対する患者の意識から、アジア太平洋地域では患者が比較的受け身な傾向がみられますが、このようなエンパワーメントにより、患者が自身のヘルスケアの意思決定に積極的に参加するようになります。
- 能力:開発だけでなく、UHC2.0では上限値での運用が求められる
インフラの構築と能力の向上は密接に関係しており、データ収集率の拡大と向上が必要です。
同様に、トレーニングと知識を増やすことにより、一般開業医をアップスキリング(技能向上)することも重要です。そのためには、国や地域をまたいだ研修や、希少疾患を見極めるスキルの最適化が、重要な役割を果たします。
希少疾患団体と政府間または、地域機関との連携といった官民連携パートナッシップ(PPP)も有用だと考えられます。
PPPには社会保険や法改正などのスキームや計画も含まれており、これらは希少疾患に関するイニシアチブや国家計画の実施をサポートしています。
- 消費者主義:今こそ行動を変えるとき。それ以上に重要なことはない。
アジア太平洋諸国間でより緊密に協力することが、医療提供の格差にアプローチするための鍵となります。これがリソースを合理化し、患者のより幅広い医療アクセスを実現する一助となります。
例えば、患者の検査結果を地域の中核拠点に送り、追加で診断を受けることができます。そのための多額な初期投資を賄うため、メディカルツーリズムを採用してその資金に充てることも可能です。
ただし、こうしたイニシアチブを成功させるには、一連の「アメとムチ」の政策が必要です。
持続可能なヘルスケアのための資金調達
- 生涯的な予防接種:採算の合うUHC2.0の介入策
生涯にわたる予防接種は、採算がとれる予防法です。さらなる罹患を未然に防ぎ、進行中の病気の負担を軽減するのに非常に有効です。
その一例として、ベトナム政府が民間セクターと協力してHPVワクチンを割引価格で提供。接種率の向上を図ったこのアプローチは成功を収め、結果としてコミュニティ内でのワクチンの受け入れ率も高くなりました。
また、各国政府は企業と連携してワクチンへのアクセスを向上させ、資本市場の余剰資金、つまり、本来はエコシステムの協調を促すソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を活用することもできます。
SIBは、予防医療の向上に適した手段なのです。
- 糖尿病管理:生産的投資に適した循環型の予防・治療法
予防医療は重要な役割を果たしており、その役割を認められることが必要です。例えば、糖尿病患者数が急増したとしても、定期検診やプライマリーケア、ヘルスケアリテラシーへの投資を拡大することで、効果を得られます。
そのため、企業の社会貢献活動やSIBを通じた糖尿病管理のための資金調達が、拡がりをみせています。
例えば、日本におけるヘルスケア関連のSIBプログラムでは、三井住友銀行やみずほ銀行といった大手銀行が投資家として参加しています。これは、主要な投資家にとってSIBが有効な社会的投資であることを示しています。
また、インセンティブをシステムレベルと個人レベルで組み合わせ、早急に導入することが必要です。説明責任は、各ステークホルダーに発生する派生的利益を通じて果たされます。
予防行動が定着すれば、インスリン摂取やグルコースモニタリングの遵守など、治療パターンに資金を振り向けることができます。
- 希少疾患:少数の人への投資が多数の人にプラスのリターンをもたらす
希少疾患のための資金調達方法の一つとして、官民両セクターのバリューチェーン全体で複数のステークホルダーが関与する、分割式スキームを採用することが挙げられます。
また、希少疾患に対する資金調達スキームのための全地域的なモデルも検討されています。その目的は、疾患の種類を定義するための希少疾患マトリックスを標準化することにあります。
これには、それぞれの治療ニーズに焦点を当て、より一貫性のある医療パッケージを確立し、リソースやデータを各国間で共有する法的枠組みを設けることも含まれます。
クラウドファンディングもまた、すでに世界中で実施されている合法的な資金調達手段です。租税上の優遇措置や悪行税も選択肢に含まれますが、これらは単一のソースではなく複数のソースから得られる場合のみ、持続可能となります。
ヘルスケアが持つサステナビリティの可能性を引き出す
このような凝り固まったシステムを変えることは、非常に難しいことです。それでも、決して不可能なことではありません。必要な変化を喚起するには、一刻も早く、複数の関係者とすべてのステークホルダーが緊密に連携することが求められています。
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