デジタル公共インフラを構築するには:エストニアから学べる7つのこと
エストニアは世界でも有数の電子政府を構築している Image: Pixabay
- エストニアはデジタル公共インフラを構築し、ヒューマンセントリック(人間中心)で安全かつプライベートな方法で、再利用可能な自動化された行政サービスを提供しています。
- エストニアのこのような公共サービスの構築は、ローカルおよびグローバルな取り組みに応用することができます。
- 他のデジタル国家との連携からレガシーシステムへの対処法まで、新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、どのようにエストニアがデジタルサービスを構築し、維持してきたかをご紹介します。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の発生後、エストニアでも生活の大部分が家庭内にシフトしました。街やオフィスから人が消え、それまで当然と思われていたものが廃れていきました。エストニア政府のデジタルチームは、過去27年間にわたって無意識のうちにこの状況に備えてきたのです。今ではサービスの99%がオンラインで利用できるため、列に並ぶ必要がなくなり、公共サービスは365日24時間利用できるようになりました。
一定の修正は必要でしたが(数日の間に新しいサービスを構築したり、一部サービスでは回線容量を早急に拡大したりするなど)、私たちの生活様式の基盤は損なわれることなく機能していました。デジタルIDと電子署名、安全なデータ交換等、一連のサービスによってエストニア国家は稼働し続けました。
エストニアをはじめとするデジタル先進国の多くで採用されているのは、政府全体で取り組む斬新なアプローチです。これらの国は、再利用可能な自動化された行政サービスをヒューマンセントリック(人間中心)で安全かつプライベートな方法で提供しています。さらに、各国政府は、段階的に国のビルディングブロックをオープンソース化し、グローバルなデジタル公共財として利用できるようにしています。
デジタル公共インフラは、物理的なインフラとは異なります。コードは無料でコピー・ペーストすることができますが、強固なガバナンス構造と日常的なスチュワードシップのもとで提供する必要があるからです。公共サービスの提供における失敗の多くは、ガバナンスとその複雑さに起因するもので、コードが壊れたことが原因であることは滅多にありません。
日常的なメンテナンス、定期的なアップデートや修正、定期的なサイバー認証監査についてキーノーツでは言及されることがほとんどないため、トップの意思決定者からも軽視されています。しかし、これらのビジネスプロセスの持続的な提供は定期的に変化し、デジタルトランスフォーメーションを支えています。
規模の大小にかかわらず、ローカルなシステムを構築するにせよ、グローバルなシステムに接続するにせよ、エストニアから学べる教訓があります。
1. 才能を育み、共有する
真のデジタル社会を構築するには、模範を示し、個人の責任感と誠実さを育んでいくことが必要です。
誰もが労働者として適切なスキルを習得するのに苦労しています。デジタル公共インフラのコミュニティ構築に大きな役割を果たすのは、スキルの一部を国内で、あるいは国際的に共有することです。そうすることにより、日々のメンテナンスにかかるコストを世界規模で大幅に削減することができます。
この問題を解決するには、シンプルでわかりやすい形式のグローバルガバナンスアーキテクチャーの構築に着手する必要があります。これは従来のメカニズムと、イノベーターや開発者などによる新しい完全な分散型システムを結びつけるようなものです。このようなオープンで透明性が高く、説明責任のある分散型コミュニティを構築することが、今後10年間の主な行動目標となります。
2. 独自の自転車を発明する必要はない
我々が直面する課題は決して特異なものではありません。官僚制度やこうした課題は、グローバルに共通するもの。謙虚な姿勢で、課題をすでに解決している人に助けを求めましょう。
例えば、エストニアのデジタルIDスキーム「eID」の場合、エストニアは最初の技術的な部分についてはフィンランドから、そして法的な部分についてはドイツから倣いました。一方、日本は私たちからインスピレーションを得ましたし、フィンランドはエストニアの安全なデータ交換の一部を模倣しています。
3. 立つことから動くまでのステップはたったの一つ
戦略的なアプローチで、小規模なものからシンプルに始めること。つまり、明確でオープンマインドなオーナーのサービスを利用することで人々の役に立つことができ、小さくても重要な経験から学ぶことができます。
エストニアや他の多くの国々、とりわけアフリカでは、市民登録、企業登記、土地登記を結びつけることで、すでにデジタル化への移行が開始されました。人、企業、不動産をつなげることで、多くの日常的なサービスの自動化が可能になります。
4. 速く行きたいのなら一人で、遠くへ行きたいのなら共に行く
コア・バリューを設定し、コミュニティの構築を始める。これは、どのような変革においても最も難しく複雑なことです。それは生命線であり、喜びであると共に、頭痛や誤解の種ともなりえます。そこから生み出されるのは永遠の若さの泉であり、そして最終的には、常に共創しつづけるコミュニティと環境のレジリエンス(強靭性)が生まれるのです。
グループチャットや精巧化された共創ツールにより、分散型コミュニティを管理する取引費用は大幅に減りました。しかし、このような変化は、機関や組織内にある伝統に縛られた従来のガバナンスにおいては今でも受け入れられておらず、理解もされていません。
5. モノリスを構築しないように!
技術的な話になりますが、モノリシックな方法(すべてを一体化する)でソフトウェアを開発することは、短期的には楽かもしれませんが、長期的には成果を上げることはできません。もう二度とくり返す必要はありません。その代わりに、ドメイン駆動型、設計に基づいてモジュール化した再利用可能なマイクロサービスアーキテクチャーを構築し、ルーチンを自動化して依存関係を取り除きます。そうすれば、このアプローチによってコストを削減することも、特定のベンダーやレガシー技術にリンクした依存関係を回避することもできます。ドメインの構築プロセスは、内製化するに限ります。
6. 自分のレガシーシステムを(適応させながら)受け入れる
従来のやり方を変えることができないというのは、政府がそのように設計されているからです。これはパブリックセクター本来の性質によるものであり、法律的、技術的、文化的なものが組み合わさってレガシーとなります。これは堅固な技術的アーキテクチャとコミュニティの優れた実践によって軽減することが可能です。デジタル公共インフラの世界では、利用可能な技術や、地域の状況に合わせた技術を採用することがそれにあたります。
絶えず変化する環境においては、このような調整により、アジャイルで適応力のある政府の基礎を形成します。これこそがパブリックセクターの組織にとって、長期的に強靭性のある唯一の戦略なのです。
プロセス全体を通じて、目的はデジタル化ではなく、マインドセットや文化の変化であることを忘れないことが重要です。政府や多くの大規模組織は、デジタル化を、票や収入を得るために必要な流行りのガジェットという誤った認識を持っています。しかし、デジタル化という未知の領域を進むということは、日常的に荒波や暗礁を通過することと同じ。自分が浸水したボートからまたしても水をすくい出しているということに気がついたときは、そもそも何のために船出したのかを思い出すことが必要です。デジタルトランスフォーメーションとは、社会の大規模な変革を実現するためのツールだと考えるのです。
7. 勝利も失敗も祝い、共有する
エストニアをはじめとする多くの「デジタル国家」は、ポジティブなフィードバックループの中にあります。このような社会における日常的な発展は、次のステップを踏むためのインスピレーションとモチベーションを与えてくれます。
2017年、チェコのサイバーセキュリティ研究者が、エストニアのeIDに、理論的にはデジタル社会を根底から覆す可能性のある致命的な欠陥があることを発見しました。エストニア政府が1週間以内にこのニュースを公表し、3カ月間にわたって官民の専門家が休みなしに24時間体制で共同作業を行い、修正しました。被害はありませんでしたが、問題を包み隠さず公開したことで、これらのサービスに対する信頼が高まったのです。
結論として、たとえエストニアでパンデミックに対してある種の準備をしていたとしても、私たちのシステムは常に進化し続け、新しい現実や状況に順応しています。このような考え方を持っていれば、どの国家や政府でもデジタル面で主導権を握り、来たるべき次の大きな課題に備えることが可能です。
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