劣後する日本企業の設備投資、政府は兆円単位の国費投入を
日本企業は足元で設備投資がマイナスを続けている Image: 2021年 ロイター/Yuya Shino
新型コロナウイルスの打撃からいち早く回復を始めた米国や中国では、「ポストコロナ」を見据え、デジタルや環境分野に大規模な資金を投入する動きが活発化している。ところが、日本企業は足元で設備投資がマイナスを続けている。特に次世代の競争力強化に欠かせない電気自動車(EV)や半導体関連で大規模な投資がなく、このままでは競争力が低下することは目に見えている。
リスクに過敏で決断できない民間経営者の背中を押すのは、政府の役割だ。米バイデン政権が掲げる「再生計画」のように、政府が集中投資する分野を明示し、兆円単位の財政支出を決断するべきだ。
好調な製造業、設備投資はマイナス
現在の世界経済を見渡すと、米中の強さが目立ち、両国への輸出比率が高い日本企業は業績が回復している。一部では、受注に生産が間に合わずフル操業している生産現場もある。
ところが、企業の未来を形成するはずの設備投資は、絶好調の製造業でもマイナスとなっている。財務省が1日に発表した今年1〜3月期の法人企業統計によると、製造業の設備投資額は前年同期比マイナス6.4%。全産業も同マイナス7.8%と大きく落ち込んでいる。
中でもEVへのシフトに伴う投資が急増しているはずの自動車を含む輸送用機械は、同マイナス25.6%と大きく沈んでいる。過去1年間を振り返ってもずっと前年同期比マイナスだ。
コロナ禍に苦しんでいる対面型サービスを中心に、非製造業が同8.5%と設備投資を控えているのは理解できる。業績好調な自動車が設備投資に慎重なのはなぜか。ハイブリッド車(HV)で先行した日本メーカーが、EVへのシフトで試行錯誤しているうちにコロナ禍に遭遇し、時間を浪費したことが色濃く反映されているのではないか、と筆者は指摘したい。
サムスンが大規模投資へ
EVの運命を分けると言われている電池の研究・開発には大規模な資金が必要とされているのに、設備投資がマイナスでは近い将来の競争力の確保に不安がよぎる。
より深刻なのが半導体分野だ。すでに米国、韓国、台湾に水を空けられているが、追いつくための投資ができていない。半導体本体が含まれる情報通信機械の設備投資額は、前年同期比はプラス9.3%となっているものの、1〜3月期の投資額は5,607億円と輸送用機器の7,169億円を下回る。
一方、韓国のサムスン電子は最先端半導体の生産工場に2兆円を投資し、2030年までにシステム半導体分野で16兆5,000億円を投資すると発表している。投資額の規模が違い過ぎて、とても太刀打ちできないのが現状だ。
腰を上げた経産省
このまま民間企業の劣勢を放置していては挽回不能になると気付いたのか、経済産業省は4日、「新たな産業政策」を打ち立て、政府が主導して重点投資分野を決め、大規模な資金投入も行って、民間企業を支援する議論を本格的に始めた。
この政府の動きが、米国と中国を意識しているのは確実だ。米国では、バイデン政権の下で、半導体業界の支援に国費を投入する方針が打ち出され、民主党から年5間で1,200億ドル(約13兆2,000億円)を支出する法案が提出されている。
また、バイデン大統領が就任当初に提案した2兆2,000億ドル(242兆円)のインフラ再生計画には、EV市場を「勝ち取る」ことを目指した1,740億ドル(19兆1,400億円)の支出も含まれていた。その後、全体が1兆7,000億ドルに削減される動きも出ているが、日本とケタ違いの財政支出が予定されていることに違いはない。
中国も「製造2025」で大規模な財政支援を始めており、米中の「はざま」で衰弱しかねない日本経済の先行きが見えてきている。
首相が取るべきリスク
日本経済の大きな分かれ道に来た以上、政治のリーダーによる「決断」が必要なのではないか。甘利明・自民党税制調査会長は3日、自民党有志の「半導体戦略推進議員連盟」の会長として菅義偉首相と会い、日本の半導体産業の基盤強化を強く求めた。
国内メディアによると、菅首相は「必要なところにはしっかり予算を付ける」と応じたという。
しっかりと予算をつけるというのが、1,000億円単位では米中との国家間の競争には勝てないだろう。国債発行残高が累増する日本では「大盤振る舞い」はできない、という主張がある。しかし、現時点で投資額に大差がつき、競争力を失えば、日本企業の収益は劇的に低下し、積み上がった債務を返済する力を失うだろう。
今、決断すべきは大規模投資に政府が支出する分野を決め、10年間程度の計画を作成し、思い切って「勝負」に出ることだ。旧来型の公共投資を繰り返していては、潜在成長率が下がるばかりだ。
経済成長へ最後のチャンスが今到来していると認識し、赤字国債を発行して対応するべきだ。失敗したら責任を取る。それがトップリーダーのあるべき姿だと考える。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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