エネルギー転換

ゼロ・エミッションへ、誰が移行コストを負担するのか

4月27日、 化石燃料頼みから「ゼロ・エミッション」のエネルギーシステムへと移行するには、生産・流通・消費のための新たな設備に世界全体で数兆ドル単位の投資が必要になるだろう。写真は2016年10月、米サンディエゴの太陽光発電施設で撮影

化石燃料頼みから「ゼロ・エミッション」のエネルギーシステムへと移行するには、生産・流通・消費のための新たな設備に世界全体で数兆ドル単位の投資が必要。 Image: 2021年 ロイター/Mike Blake

John Kemp
Senior Market Analyst, Commodities and Energy, Reuters

化石燃料頼みから「ゼロ・エミッション」のエネルギーシステムへと移行するには、生産・流通・消費のための新たな設備に世界全体で数兆ドル単位の投資が必要になるだろう。

新たな投資によって、建設・製造分野では数百万人もの新規雇用が生まれる可能性があるが、政策担当者は、そのコストをエネルギー利用者から回収すべきか、納税者全体から回収すべきか頭を悩ませている。

ほとんどの国では、ガスや電気、その他暖房用燃料、車両用燃料といったエネルギー商品・サービスの供給コストは、他のサービスや商品と同じように、利用者から回収するのが一般的である。

だが、提唱されているエネルギー移行は、新規の発電施設や送電・配電系統、電気自動車などの消費者側の設備など先行設備投資の比率が大きく、巨額のコストが生じる可能性が高い。

低所得世帯では、ただでさえエネルギー関連サービスへの支出が所得に占める比率が大幅に高くなっており、コストが通常の形で回収された場合に特に大きな打撃を受けることになる。

たとえば2019年の米国のデータでは、全体を10区分とした場合の下から2〜4番目の貧困層では、課税後所得の平均10〜14%がガスや電気、その他暖房用燃料、車両用燃料に費やされていた。

対照的に、10区分のうち7〜9番目の富裕層では、エネルギー関連費目が課税後所得に占める比率は5〜6%に留まっている。(2020年の米労働統計局「消費支出調査」より)

細かな点に違いはあるが、他の国でも、暖房、調理、照明、地上交通のための基本的なエネルギーサービスへの支出が所得に占める比率は、ほぼ常に最貧困世帯で最も大きくなっている。

結果として、光熱費の請求や、暖房機器や電気自動車といった新たな消費者向け機器の民間購入だけを通じてコストを回収する場合、政府による支援がなければ貧困層が最も厳しい打撃を受けることになる。

多くの場合、提唱されているエネルギーシステム移行では、先行設備投資のコスト増大を、長期的な燃料費の低下によって相殺することになる。たとえば、ガソリンエンジンの自家用車を、風力発電によって充電されるバッテリー駆動車に置き換えるといった形だ。

だが、先行設備投資をする余裕が最も乏しいのは最貧困世帯であり、ますます維持費のかさむ時代遅れの従来エネルギー製品を使い続けることになるリスクがある。

この問題に注意深く対処しない限り、エネルギーシステムの移行は、エネルギーをめぐる格差や貧困をさらに悪化させかねない。

財政に与える影響

エネルギーシステム移行のコストの一部を利用者ではなく納税者に転嫁するという対案もある。税金のほとんどは、高所得層に含まれる世帯が負担しているからだ。

一般論として、各国政府は、新たな発電・送配電及び利用者の機器購入に要する費用に対する補助金の支給、あるいはエネルギー支出増大を相殺するような低所得世帯向けの減税・無償給付の拡大という選択肢を持っている。

エネルギーシステムの移行と、それ以外の税金・歳出システムとの相互作用は決定的に重要である。だからこそエネルギーシステム移行が政治的議論の的になり、そうした移行を達成するための計画が依然として曖昧になっている理由でもある。

思い切った温室効果ガス排出削減を支持する人々の一部は、政治的な抵抗を抑えるため、カーボン・プライシングや炭素税などを含む税制・歳出をめぐる全般的な問題と、エネルギー移行政策とを切り離そうと試みた。

だが、この2つの問題は実際には切り離せない。エネルギー移行計画に信頼性を持たせるには、誰がどのように関連コストを負担することになるのかをきちんと説明しなければならない。

中国やインドその他急成長するエネルギー消費国の場合と同じように、米国、欧州連合、英国などの成熟したエネルギーシステムにおいても、こうした細部を煮詰めていくことはやはり重要である。

エネルギーシステム移行のコストをすべて利用者に負担させれば、最貧困層が他の費目に支出する所得が大幅に減少し、これは選挙の洗礼を受ける政治家としては容認できない可能性が高い。

とはいえ、コストの全部または一部を納税者に転嫁しようと思えば相当の増税が必要になるが、増税が政治的に難しいのは世の常である。

新たな炭素税を導入する、あるいは既存の税収(その大半は所得や消費を対象としている)を増大させれば、新たな歳入を得ることはできる。

家計にせよ政府にせよ、借入によって支出の一部を賄い、利払いの負担を増やしつつ返済していくことは可能だ。

政治的には、債務を増やす方が税収を増やすよりも容易なのが常であり、政策担当者にとって魅力的な選択肢になるのが普通である。

借入は資本コストを長期にわたって分散させることになり、既存のエネルギーシステムの資金調達も、大半はそのように行われてきた。とはいえ、家計にせよ政府にせよ借入を拡大すれば、利用者、納税者あるいはその双方が所得から支出する金額は将来的には増大する。

エネルギー移行のコストをどのように賄うにせよ、それに関連するコストは、配分をめぐる重要な問題を提起する。移行のプロセスに付随するというより、核心となる問題だ。

こうした問題は非常に扱いが難しく、最も先進的な国々の政治家が、「ゼロ・エミッション」のエネルギーシステムへの移行という最終目標については強く支持している場合でさえ、その方法については詳細を提示することをためらう理由となっている。

したがって、信頼性の高いエネルギー移行戦略には、そのコストを賄う方法を説明する詳細な財政の道筋が示されている必要がある。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。

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