エネルギー転換と石油・ガス投資の両立はできるのか?
経済の多角化が進むまでは、各国が貴重な石油・ガスの埋蔵量の収益化に反対する決断を下すことはないだろう。 Image: Maksym Kaharlytskyi on Unsplash
- 石油需要がピークに達したとの見方もありますが、当面は、現状維持の状態が続く可能性が高いと考えられます。
- 鍵となるのは、最も低コストで二酸化炭素排出量の少ない石油とガスを生産するために、どんな投資が必要なのかを見極めることです。
- ここでは、業界が今後検討する必要のある5つの項目を取り上げます。
石油・ガスへの投資は、エネルギー転換の取り組みと両立できるのでしょうか?ニュースを読む限り、否定せざるを得ないようです。パリ協定のポートフォリオに沿った取り組みが必要であるとして、機関投資家や銀行が化石燃料投資から撤退を発表するニュースを頻繁に耳にします。同様に、再生可能エネルギーへの投資を拡大し、事業活動(スコープ1、2の排出量)や製品の使用(スコープ3)についても実質排出ゼロ(ネットゼロエミッション)目標を設定するなど、石油・ガス企業の対応や戦略変更にも注目が集まっています。
緊急な対応が必要であるという事実は、誇張ではありません。既存のインフラ(電力、産業、その他)だけで温度上昇は1.65℃までと目標設定されている中、現在計画されている2030年までの化石燃料生産量(石炭を含む)は、1.5℃目標に相当する最大生産量の2倍です。では、石油・ガスから投資を撤退することが唯一の選択肢であり、石油・ガスの資産はすべて行き詰る運命にあるのでしょうか。また、こうした撤退は、地球規模の排出量削減にプラスの効果をもたらすのでしょうか?あるいは、石油・ガスへの投資がエネルギー転換を支援することになるのでしょうか?
ここで鍵となる要素は3つ。石油・ガス供給、石油・ガス需要、そしてエネルギー転換そのものです。
石油・ガス供給
世界の石油・ガスの生産量と埋蔵量のほとんどは、機関投資家ではなく、政府(多くの場合は新興国)が運営する国営石油会社が管理しています。これらの国において、国営石油会社は政府の予算源であり、行政サービスに必要な資本であると同時に外貨準備高の収益源であるため、国営石油会社への依存度が非常に高いのが実状です。各国が経済の多様化(エネルギー転換によって可能になるケースもある)を図るか、外からの圧力によって、諸外国に追随して実質排出ゼロ目標を宣言するまでは、貴重な石油・ガス埋蔵量の反収益化を決断することはないでしょう。
石油・ガス需要
石油需要がピークに達したとの見方もありますが、当面は現状維持の状態が続く可能性が高いでしょう。2019年、国際エネルギー機関(IEA)では、パリ気候協定に沿ったシナリオでも、2040年の原油需要は67mb/d程度 (新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2020年の91mb/dを基準として算出)、ガス需要は2019年とほぼ同程度になると試算しています。しかし、現在の石油・ガスへの投資規模は、こうした需要予測に沿っているとは言えません。IEAは、新たな投資がなければ2040年までに石油の供給量は16mb/dまで減少すると分析しています。既存の油田への投資を加えると、2040年までの生産量は39mb/dになると見込まれます。
こうしたシナリオを想定すると、ヨーロッパの大手石油会社が資産を売却したとしても、すぐに行き詰まることはなさそうです。今後20~30年の間に需要が残ることになれば、これらの資産の継続的な運用が正当化され、規制や制限がなくなれば、他の企業が所有権を取得する可能性が高くなります。したがって、地球規模の排出量への影響はほとんど期待できないということになります。
エネルギー転換
基本的なレベルにおいて、「公正なエネルギー転換」とは、経済発展と成長、エネルギー安全保障とアクセス、そして、環境の持続可能性という、同程度に重要ではあるものの時には競合する目標を横断して実現するものです。
再生可能エネルギー、特に風力発電と太陽光発電は、手頃な価格でクリーンなエネルギーを提供するための主要な解決策の一つであり、経済発展の大きな機会を提供することができます。しかし、航空、海運、重工業といったCO2低減が困難な産業(hard-to-abate産業)成長、雇用創出、社会経済的繁栄に及ぼす影響と戦略的重要性を考慮すると、このセクターへの投資は、「公正な」エネルギー転換の定義を念頭に置いて評価されています。
前進するには
今後の課題は非常に重要です。石油・ガス産業は、世界的な気候目標に合わせて転換を進めていく必要がありますが、今後数十年間は、多額の新規投資を必要としています。つまり、鍵となるのは、「最も低コストで、最も二酸化炭素排出量の少ない石油とガスを生産できる投資は何か」ということです。
石油・ガス需要は減少しているとは言え、既存の需要を満たすと同時に「公正なエネルギー転換」を支援し、株主や政府を含むすべてのステークホルダーを満足させるような投資を行うには、どうすれば良いのでしょうか?
1. 現在の資産配分、バリューチェーンにおける役割、事業を展開する国によって、各石油・ガス企業ごとにロードマップが異なることを認識しておく必要があります。電化に加えて、カーボンキャプチャー(二酸化炭素回収)、利用・貯蔵(CCUS)およびバイオエネルギーなどの技術も重要な解決策として認識する必要があります。エネルギー転換が石油・ガス業界の未来を形成することは間違いないものの、転換の過程や投資家の反応は、企業によって大きく異なるでしょう。
2. 気候変動対策においては、二酸化炭素の排出源がどこであるかに関わらず、一貫して、迅速な削減が全体の目標になります。つまり、最も費用対効果が高く、容易に目標を達成できる対策に重点を置く必要があります。考えられる対策としては、エネルギー効率に対する取り組みの強化、運用の電化、利用・貯蔵、フレアリングの排除、メタンガス漏出検出と修復などが挙げられます。幸い、大手国営石油会社を含む多くの石油・ガス企業は、こうした対策を戦略に取り入れており、リモートセンシングやビッグデータなどの第四次産業革命技術を使用して、プロセスの効率性向上の取り組みを進めています。
3. 低炭素技術の導入とバリューチェーンの脱炭素化における急速なイノベーションは、石油・ガス企業の競争上、優位性の源であり、形勢を一転させるきっかけにもなり得ます。エネルギー転換を円滑に進めるには、石油・ガス業界が持つ創意工夫と幅広いプロジェクト管理スキルが不可欠です。こうしたイノベーションの例としては、最近の「水素対応」パイプラインやタービンなどが挙げられます。
4. 石油・ガスを含め、エネルギープロジェクトに対する投資判断には、ホリスティック(全体論的な)アプローチが必要です。実現可能な投資(特に新興市場)は、持続可能性、インクルーシブな経済成長、エネルギーアクセスを含め、複数の課題を同時に成功させる必要があります。世界経済フォーラムとアクセンチュアが共同開発したSystem Valueのフレームワークは、政治的・商業的な重点ポイントを、コスト優先から価値優先へシフトさせることを目指したものです。このフレームワークは、石油・ガスプロジェクトへの投資を総合的に評価するために必要な判断基準のベースになる可能性もあります。
5. 最後に、測定できないものは変更することもできないため、石油・ガス企業に求められるのは、気候対策戦略、排出量目標、その進捗状況について、透明性を保つことです。可能であれば、業界全体が合意したフレームワークの中で、投資家が開示情報を信頼し、同じ条件で比較を行い、気候変動に合わせたポートフォリオを追求する取り組みにおいて、適切かつ十分な情報に基づいた投資判断を下すことができるようにすることが望ましいでしょう。
市場の資本化、経済への貢献、雇用創出、二酸化炭素排出量などの点において石油・ガス業界は非常に重要であり、「公正なエネルギー転換」の過程でも大きな役割を担っています。この転換に資金を調達するための協力的かつ包括的なアプローチを成功させるには、石油・ガスと金融セクターの継続的な関与が必要です。
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