仕事と働き方の未来

コロナ危機が加速する第4次産業革命:この大変化が人材に求める「6つの能力」

自動運転によって、人による仕事の多くはなくなるであろう。

自動運転によって、人による仕事の多くはなくなるであろう。 Image: REUTERS/Evgenia Novozhenina

Hiroshi Tasaka

コロナ危機は、これから人類社会に、いかなる変化をもたらすのか?それは、何か全く新しい変化をもたらすわけではない。

コロナ危機は、これまで人類社会に求められていた様々な変化と変革を加速することになる。特に、この危機は「第4次産業革命」を大きく加速することになるだろう。なぜなら、コロナ危機が人類社会に求めるのは、人の「空間移動」と「相互接触」を最低限に減らし、感染の拡大を抑えることだからである。その結果、「非接触技術」(Contactless Technology)と呼ばれるものが、これから大きく社会に広がっていく。

具体的には、オンライン会議や仮想現実(VR、AR)の技術、ロボティックスや人工知能(AI)の技術、ドローンや自動運転の技術、総じて「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)に関する技術が、急速に社会に広がっていくが、これらの技術は、いずれも、第4次産業革命によって急速に開発が進んできた技術である。

では、このコロナ危機が加速する第4次産業革命の結果、何が起こるのか?

大量の失業が発生する。

なぜなら、この危機と革命の結果、社会に広がっていくロボッティックスやAI、ドローンや自動運転の技術は、様々な職種の多くの労働者から仕事を奪っていくからである。

では、これから仕事を失っていくのは、どのような人材か。

まず、ロボティックスやドローン、自動運転などの技術によって代替可能な「単純肉体労働」に従事してきた人材は、仕事を失うだろう。しかし、これらの人材は、職を失っても、少し高度な肉体労働を身につけることによって、新たな職を得ることができるだろう。

むしろ、第4次産業革命が生み出す失業問題で深刻なのは、これまで「知識労働」に従事してきた人材の多くが、急速に発達するAIによって淘汰され、職を失うことである。

特に、「専門的知識の活用」と「論理思考による判断」は、AIが圧倒的に強い能力であるため、その2つの能力によって仕事をしてきた職種は、その多くが職を失っていく。それは、弁護士や会計士、医師や薬剤師などの、これまで「高度な専門職」と思われてきた職種も例外ではない。

There’s widespread belief that robots will take the jobs of humans.
ロボットが人間の仕事を奪うという考えが広まっています Image: Mckinsey & Company

では、第4次産業革命が急速に進むこれからの時代に、我々は、どのような能力を身につけていくべきか? また、国家や企業は、どのような能力を身につけた人材を育成していくべきか?

世界経済フォーラムの年次総会(通称:ダボス会議)やGlobal Agenda Councilなどでは、この問題について様々な議論がなされてきたが、多くの専門家は、次の3つの能力が、AIに代替されない高度な能力であるとの考えで、一致している。

  • ホスピタリティ
  • マネジメント
  • クリエイティビティ

しかし、実は、この3つの能力も、急速に発達するAI技術によって、その初歩的な部分の能力については代替されていく。従って、我々は、この3つの能力についても、AIが代替できない、より高度な能力を身につけ、磨いていかなければならない。

では、それは、どのような能力か?

それぞれ、短く、要点を述べておこう。

まず、最初の「ホスピタリティ」については、受付サービスや案内サービスなど、「言語的なコミュニケーション」に基づくマニュアル的なサービスは、AIが簡単に代替してしまう。従って、人間は、もっと高度なホスピタリティの能力を身につけなければならない。そのためには、特に、次の2つの能力が重要になる。

第1に、「非言語的コミュニケーション能力」である。

すなわち、顧客の無言の声に耳を傾け、その気持ちを推察し、また、言葉を超えて、こちらの温かい気持ちを伝える能力を磨いていく必要がある。

第2に、「顧客に対する深い共感能力」である。

これは、非言語的コミュニケーション能力を最高度に発揮するために最も大切な能力である。

そして、言うまでもなく、この「非言語的コミュニケーション能力」と「顧客に対する深い共感能力」は、AIでは決して代替できないものである。

次に、「マネジメント」については、財務マネジメントや資材マネジメント、人材マネジメントやプロジェクトマネジメントなどの仕事は、これから、AIが人間以上の能力を発揮して代替していく。従って、人間は、AIでは代替できない高度なマネジメントの仕事に向かう必要があるが、そのためには、特に、次の2つの能力が重要になる。

第1に、「成長マネジメント能力」である。

それは、組織のメンバーが、それぞれの能力を高め、プロフェッショナルとして成長していくことを支える能力であるが、その能力の基本となるのは「コーチング能力」である。

第2に、「心理マネジメント能力」である。

それは、組織のメンバーが、対人関係などで精神的な問題を抱え、悩み、苦しむとき、そこから立ち直ることを支える能力であるが、その能力の基本となるのは「カウンセリング能力」である。

この「成長マネジメント能力」と「心理マネジメント能力」もまた、AIでは決して代替できないものであり、いずれも、これからの高度知識社会においては、職場のマネジャーやリーダーにとって、極めて重要な能力になっていく。

最後の「クリエイティビティ」については、「革新的な技術の発明」や「斬新なデザインの発案」などの天才的能力は、AIでは決して代替できないものであるが、一方、そうした能力は、誰もが発揮できるものではない。

では、AI時代に、誰もが発揮できる「クリエイティビティ」とは、何か?

それは、次の2つの能力である。

第1に、「集合知マネジメント能力」である。

それは、組織のメンバーが集まり、それぞれの知識と智恵を出し合い、そこから新たな知識や智恵が「創発」(emergence)してくるプロセスを促す能力である。

そして、この「集合知マネジメント能力」を発揮するために重要なものは、組織のメンバーがわくわくするようなビジョンを語る「ビジョン・メッセージ能力」と、メンバーが小さなエゴを超えて、互いに協力し合える場を創る「エゴ・マネジメント能力」である。

第2に、「組織内アイデア実現能力」である。

それは、組織において、単に新たなアイデアを「発案」するだけでなく、そのアイデアを周囲に魅力的に説明し、上司をうまく説得し、組織を円滑に動かすことによって、そのアイデアを「実現」する能力である。

実は、企業組織において真に求められる「クリエイティビティ」とは、単なる「新規アイデア発案能力」ではなく、こうした「集合知マネジメント能力」や「組織内アイデア実現能力」であり、この2つの能力もまた、AIでは決して代替できないものである。

以上、コロナ危機が加速する第4次産業革命において、人間だけが発揮できる高度な能力として、次の「6つの能力」を挙げた。

  • 非言語的コミュニケーション能力
  • 顧客に対する深い共感能力
  • 成長マネジメント能力
  • 心理マネジメント能力
  • 集合知マネジメント能力
  • 組織内アイデア実現能力

この深刻な危機と急激な革命によって、これから、高度な専門職も含め、多くの失業者が発生する。

国家も企業も、深い先見性を持って、国民や社員がこの「6つの能力」を身につけていくことを全面的に支援しなければ、これから到来する大量失業の時代を超えていくことはできない。

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