高みを飛ぶ:インドはドローンの活用でどう世界をリードするか
ドローン利用を推進するためのスキル、労働力、需要がそろうインド
ドローンをはじめとした、第四次産業革命が生み出すテクノロジーの数々を、未来志向型の経済システムの繁栄へと発展させるには何が必要でしょうか。世界のリーダーたちが、この根本的な問題に答えようとしのぎを削る中、最良の答えを導き出すのはインドかもしれません。航空宇宙の次の時代をリードするために必要な根源的な成長というのは、経済革新によって生じるものですが、インドは、これを刺激するのに必要な3つの重要な要素をちょうどよいバランスで持ち合わせています。
自動飛行技術を活用するには、費用対効果が高く、ドローンによってでなければ対応することができない、社会的に重要なニーズがなければなりません。インドでは、既に記録的な干ばつにより、飲料水をより効果的に使用することと、農業が地下水資源に与える影響をいっそう綿密にモニタリングすることの必要性が高まっています。ドローンの農業利用については、まだ足掛かりを築いている最中ですが、地元の関連会社やテラドローンインド(Terra Drone India)などのスタートアップ企業は、ドローンがもたらす恩恵を既に実証しています。インド政府がドローンを社会的課題解決のツールと見なしていることを明確に示す兆候として、最近、マハラシュトラ州、及び科学技術省傘下の国家地図作成機関であるサーベイ・オブ・インディア(Survey of India)は、「村境、運河、運河の通航制限、道路の位置を見直すため」に、ドローンを使用して4万の村を測量すると宣言しました。
環境モニタリングや水管理にとどまらず、健康産業においても、サプライチェーンや宅配を手掛ける業者が、インドでドローン実験を始めています。民間航空省の大臣は、「開発が進んでいるドローンのアプリケーションのひとつは、臓器を輸送するためのものです。これは、現在臓器輸送を行っている病院を経営する大手の会社と協議してきたものですが、同社はこれまで、インドの道路の混雑状況から、臓器運搬の難しさに悩まされていました」と説明しています。
インドは、インフラの整備に格差があると共に、気候学的課題への取り組みに対する認識と合意、そして、新たな社会格差に対処するために新しいテクノロジーを試そうという意欲を持っています。このことが、インドがドローン利用で世界をリードしうる要素のひとつと言えます。
二つ目に、技術的成果を上げるためには新しい技術を活用する知識と、そのビジョンを実行するスキルを持つ労働力が必要ですが、インドは、これらを兼ね備える人材開発を進めていることです。テクノロジー分野の知識が豊富で、かつ高度なスキルを有する人材が揃うインドは、世界の技術革新において、2015年以降、一貫した実績を上げています。昨年は、グローバル・イノベーション・インデックス(GII)で順位を5つ上げ、126か国中52位となりました。
2022年までに1億人以上が新たに労働市場に参入すると見られるインド。さらには、2050年までに、世界の労働人口の18パーセント以上を占めると予想されています。大学や国内の技術集団は、既に数々のスタートアップを輩出しています。Inc42 Datalabsによれば、インドでは少なくとも50のドローン関連のスタートアップが事業を展開しており、さらなる成長とイノベーションが期待されます。これまで、インドにおけるドローン関連のスタートアップは、蚊の繁殖地を突き止めて血液を媒介とする感染症の根絶をサポートしたり、都市計画において、費用効率と精度の高い方法で都市環境をマッピングすることを支援したり、さらには安全で信頼の置ける方法で、地域コミュニティにファーストフードを配達したりすることが可能だということを証明してきました。
ドローン業界の健全な成長を促すためには、安全で信頼できるドローンの使用を可能にし、それを支えるための規制環境を整えることが不可欠です。ますます重要視されているこの三つ目の要素は、世界的に成功を収める上で最大の障壁ですが、民間航空局(DGCA)は産業界と協力してこの問題解決に取り組んでいます。2019年5月、DGCAは、ドローン運用においてしばしば究極の目標とみなされる、目視外飛行(Beyond Visual Line of Sight: BVLOS) の実現に向けた共同作業を呼びかけました。
多くの国が、このような実験的プログラムを試してきましたが、インドのアプローチが他と違うのは、コンソーシアムとして協力の枠組みを構築したということです。これにより、内部と外部の専門家が集まり、一貫した方法でデータを共有することができます。
こういった専門家たちによる会議の1つが、今年の10月に、世界経済フォーラムのインド経済サミットと並行してニューデリーで開催されました。これは、ドローン・イノベーターズ・ネットワークの第3回会合として、世界経済フォーラムの第四次産業革命インドセンターとのパートナーシップの下、インド政府が共催しました。この会議には、産官学及び市民社会の代表が、消費財や医薬品の配送をサポートし、インドでこれまで不可能だった方法でドローンを使用できるよう、業界にとっても受け入れやすい規制づくりのために集まりました。このように、インド政府は、社会の利益のためにイノベーションを取り入れようという強い意欲を継続的に示しています。
インドには、大きな課題に取り組もうという社会的動機があり、それをリードするに足る労働力もあります。そして、政府も、公共の利益のために新しい解決方法を採用することに積極的です。これらを力に、インドは、次世代のドローン技術における全世界の本拠地になるかもしれません。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2024年11月12日