世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2025年1月8日、スイス、ジュネーブ - 世界経済フォーラムが発表した「仕事の未来レポート2025」によると、2030年までに全雇用の22%で仕事のディスラプション(創造的破壊)が起こり、1億7,000万の新たな雇用が創出される一方で9,200万の雇用が失われ、結果として7,800万の純増となることが明らかになりました。テクノロジーの進歩、人口動態の変化、地政学的な緊張、経済的な圧力が、こうした変化の主な要因となり、世界中の産業および職業の再形成が進みつつあります。
企業1,000社以上からのデータを基に作成された同レポートでは、スキルギャップが現在もなお、ビジネス変革の最大の障壁となっていることが判明。業務に必要なスキルの約40%が変化すると見込まれており、すでに63%の雇用主が、直面する主な障壁としてスキルギャップを挙げています。AI、ビッグデータ、サイバーセキュリティといったテクノロジー・スキルの需要急増が見込まれる一方で、創造的思考、レジリエンス、柔軟性、俊敏性といったヒューマン・スキルも依然として重要です。変化の激しい労働市場で、この2つのスキルを組み合わせることがますます重要になってくるでしょう。
2030年までに最も雇用が拡大すると見込まれているのは、看護、保育、介護、教育など、現場で作業が行われ、社会基盤を支える職種です。一方で、AIや再生可能エネルギーの進歩によって市場が再形成され、多くの専門職またはテクノロジー関連職の需要を押し上げる一方で、グラフィックデザイナーなどその他の職務の需要は減少すると考えられます。
同フォーラムの労働・賃金・雇用創出部門長、ティル・レオポルドは、「生成AIや急速な技術革新などのトレンドが産業や労働市場を一変させ、かつてないほどのチャンスと深刻なリスクの両方を生み出しています。今こそ、各国政府と企業が連携してスキルに投資し、公平かつ弾力性のあるグローバルな労働力を構築すべき時です」と述べています。
農場労働者、配達ドライバー、建設作業員など、現場で作業を行う職種は、2030年までに絶対数で最大の雇用増加が見込まれています。また、人口動態の傾向により、社会基盤を支える職種全体で需要が増加すると見られる看護士などのケア職や、中学校教師などの教育職も大幅な増加が予測されます。一方、AI、ロボット工学、エネルギーシステム(特に再生可能エネルギーと環境工学)の進歩により、これらの分野における専門職の需要も高まると予想されています。他方で、レジ係や事務アシスタントなどの職種は依然として最も急速に減少し続けており、生成AIが速やかに労働市場を再形成する中、グラフィックデザイナーなどの職種もそれに加わっています。
ビジネスを変革し、グローバルなマクロトレンドに対応する上で依然として最も大きな障害となっているのはスキルギャップです。業務の将来性を確保する際の主な障壁として、雇用主の63%がスキルギャップを挙げています。仮にグローバルな労働力を100人のグループで表すと、2030年までに59人がリスキリングまたはアップスキリング(技能向上)が必要となり、そのうち11人はそれらを受けられない可能性があると予測。これは中期的に1億2,000万人以上の労働者が解雇の危機にさらされていることを意味します。
AI、ビッグデータ、ネットワーク、サイバーセキュリティなどのテクノロジー・スキルに対する需要が最も急速に伸びると予想される一方で、分析的思考、認知スキル、レジリエンス、リーダーシップ、コラボレーションなどの「ヒューマン・スキル」が今後も不可欠なコアスキルであり続けるでしょう。多くの成長分野の職種では、両方のスキルセットの組み合わせがますます必要とされるようになります。
AIはビジネスモデルを再構築しており、世界中の雇用主の半数が、このテクノロジーから生じる新たな機会を狙ってビジネスを方向転換しようとしています。こうした変化に対する労働力の対応として最も一般的なのは、労働者のアップスキリングであると予想されており、雇用主の77%がその計画を立てています。しかし、雇用主の41%は、AIによる特定タスクの自動化に伴い、人員を削減する計画を立てています。ほぼ半数の雇用主は、AIによる混乱の影響を受けやすい役割を担うスタッフを、自社の他の事業部門に異動させることを想定しており、技術革新に伴う人的コストを削減しながら、スキル不足を緩和する機会となるでしょう。
新興テクノロジーの急速な成長を踏まえると、ビジネスリーダー、政策立案者、労働者が協力し、あらゆる分野や地域における失業リスクを低減しながら、労働力の準備を整える必要があります。
生活費の上昇も労働市場の変化を促す重要な要因であり、雇用主の半数はビジネスモデルの変革を予想しています。世界的なインフレは落ち着いてきましたが、価格上昇圧力と経済成長の鈍化により、2030年までに世界中で600万の雇用が失われると予測。こうした課題により、レジリエンス、柔軟性、アジリティ、創造的思考スキルに対する需要が高まっています。
人口動態の変化は労働市場を再形成しており、高所得国における人口の高齢化がヘルスケア関連職への需要を押し上げ、低所得地域における生産年齢人口の増加は教育関連職の成長を促進しています。こうしたギャップを埋めるためには、人材管理、教育、指導スキルの向上に重点を置いた労働力戦略が不可欠です。
地政学的な緊張は34%の企業にとって最大の懸念事項です。貿易制限や産業政策の転換はさらに多くの企業に影響を与え、一部の企業はオフショアリングおよびリショアリング戦略を通じて適応を図る計画を立てています。こうした圧力は、サイバーセキュリティなどのスキルに対する需要も高めています。
本レポートで取り上げた広範囲にわたる変化に対応するには、各国政府、企業、教育機関が一体となって緊急の対策を講じる必要があります。優先すべき主要な分野には、スキルギャップの解消、リスキリングやアップスキリングへの投資、需要が急速に伸びている職種およびスキルに対するアクセスしやすい経路の創出などが含まれます。ステークホルダーは、公平かつ包摂的な労働力の移行と戦略を優先し、こうした変革を通じて労働者を支援することによって、未来の働き方において成功を収めるための準備を整えた、柔軟性と適応力のあるグローバルな労働力の構築が可能となるのです。
同フォーラムは、「仕事の未来レポート2025」で提起された課題に積極的に取り組んでいます。「リスキリング革命」では、2030年までに10億人の人々に、より良い教育、スキル、経済的機会を提供することを目的としており、労働力の変革に向けたスケーラブルなソリューションの創出を目指しています。一方、「雇用イニシアチブ」では、労働者がダイナミックな職務転換に備えることができるよう、各国政府、企業、市民社会の参画を得て雇用の質を向上させ、AIやグリーンテクノロジーの潜在能力を活用することを目指しています。
「仕事の未来レポート2025」は、グローバルな雇用を形作るトレンドに関する包括的洞察を提供するこの画期的な報告書シリーズの第5版です。22の産業分野、1,000社以上の企業と55の経済圏からのデータに基づき、明日の雇用に備えるための実行可能な提言を企業、政策立案者、教育者に提供しています。本レポートの調査結果は、ADP、コーセラ、インディード、リンクトインの協力を得ており、そのデータと分析でグローバルな雇用動向と労働力のダイナミクスに関するより深い洞察をもたらします。また、国や業界に特化した詳細な分析と、2ページにわたる各国および各業界の概要が含まれています。同レポートの詳細データはこちら。
2025年1月20日から24日までスイスのダボス・クロスタースで開催される世界経済フォーラム年次総会は、「インテリジェント時代における連携」をテーマに世界有数のリーダーたちを招集して行われます。本会合では、テクノロジーが急速に進歩する時代における5つのサブテーマ「成長の再構築」、「インテリジェント時代における産業」、「人材投資」、「地球環境保全」、「信頼の再構築」に焦点を合わせ、より持続可能かつ包摂的な未来を形作るための新たなパートナーシップと洞察を促進します。詳細はこちら。
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