世界経済フォーラム 広報統括(日本)栃林直子 naoko.tochibayashi@weforum.org
2024年10月8日、スイス、ジュネーブ - 世界経済フォーラムは、22社の革新的な製造業者がグローバル・ライトハウス・ネットワークに参画したことを発表しました。これにより、同ネットワークのコミュニティは、デジタル技術を大規模に活用して次世代の業務効率、環境の持続可能性、人材開発を推進する172の主要な生産施設およびバリューチェーンへと拡大しました。
グローバルなサプライチェーンの混乱、テクノロジーの進歩、環境保護対策に対する関心の高まりの中、必要とされる生産性の向上を促進するためには、生産のサステナブルな変革をグローバルに進めることが不可欠となっています。拡大を続けるグローバル・ライトハウス・ネットワークとその多様なメンバーは、こうした難しい課題に取り組むにあたり、AI(人工知能)およびその他の先進技術をどのように活用すべきかを示しています。また、アジリティ、レジリエンス(強靭性)、環境への責任を強化することで、業界の将来性を確保しています。
新たに加わった第四次産業革命のライトハウス(灯台=指針)19社および持続可能性のライトハウス3社は、これまでの中国、チェコ共和国、ドイツ、インド、メキシコ、シンガポール、スウェーデン、トルコにスイスとベトナムを加えた10カ国にまたがっています。この多様なグループは、革新的な第四次産業革命(4IR)テクノロジーに対する共通のコミットメントによって結束しており、業界を横断してベストプラクティスを交換するプラットフォームとしてグローバル・ライトハウス・ネットワークを活用していきます。
世界経済フォーラムのアドバンスド・マニュファクチャリングとサプライチェーン部門長、キバ・オールグッドは、「ライトハウスはAIをフルに活用し、デジタルトランスフォーメーションの水準を引き上げています。生産性を向上させるだけでなく、従業員やより広範なコミュニティのための持続可能かつ包摂的な未来を創出するために、先進テクノロジーを業務に取り入れています」と述べています。
AIを取り巻く過剰な期待にもかかわらず、その目に見える影響はしばしば期待を下回るものです。しかし、最新のグローバル・ライトハウス・ネットワークの参画企業は、AIを活用して飛躍的な成果を達成し、この通説を覆しています。また、先進テクノロジーを応用することによって従来の業務を改革し、その役割をより魅力的で協調的なものにしています。
「AIは、第四次産業革命においてますます重要な役割を果たしており、グローバルな製造業の再構築における主要な推進力として浮上しています」と、フォックスコン・インダストリアル・インターネットの会長兼最高経営責任者であるブランド・チェン氏は述べています。
生成AIと機械学習モデルは、この革命の最前線にあります。競争の激化、資源不足、業務の複雑化といった課題はありつつも、ライトハウスは先進技術のスケールアップを先導し、新たな職場のポテンシャルを解き放っているのです。テクノロジーを活用した変革の成功には人的資本が重要であることが認識されているその拠点では、労働者の能力開発、流動性、意欲の向上を目的とした業界をリードするプログラムが展開されています。
ライトハウスの最新グループでは、インタラクティブなトレーニングプログラム、スマートデバイスやウェアラブル端末、ロボット工学、AI、マシンビジョンを組み合わせた自動化システムなど、様々なデジタルソリューションにより、労働生産性が平均50%向上しました。また、プロセスモデリングと根本原因分析により、ライトハウスのエンドツーエンドのサプライチェーン全体で効率性が向上し、エネルギー消費を平均22%、在庫を27%、スクラップや廃棄物を55%削減しています。
「これらの新しいライトハウスは、AIやその他の4IRテクノロジーがビジネス価値を推進するだけでなく、持続可能性と従業員のエンゲージメントも強化することを証明しています」と、マッキンゼー・アンド・カンパニーのオペレーション・テクノロジー部門グローバルヘッドであるエノ・デ・ボーア氏は述べています。「多くの組織がパフォーマンス、環境、最前線の課題に対するソリューションを模索しながら、AIの潜在能力を最大限に引き出すことに苦心している中、今回の最新ライトハウスは道を切り開きつつあります。彼らは、業務効率から環境管理まで、包括的な目標を達成するために必要な先進テクノロジーの統合を先駆けて行っているのです」。
持続可能性のライトハウス
今年は、業界をリードする形でスコープ1、2、3の排出量を削減し、サーキュラー・エコノミーの推進でも先進的な取り組みを行っているとして、3つのライトハウスに「持続可能性のライトハウス」の称号が与えられました。持続可能性をビジネスの必須事項として推進するこれらのグローバルリーダーたちは、世界中で優れた業務運営の標準となるネットワークの役割を再確認しています。持続可能性のライトハウスに選出された3社は以下のとおりです。
1. フォックスコン・インダストリアル・インターネット(中国、深セン):カーボンニュートラルという家電業界の公約を達成するために、AI、モノのインターネットその他の4IRテクノロジーを活用し、リサイクルの最適化、二酸化炭素排出量の追跡、持続可能性のためのイノベーションを実現しました。これにより、スコープ3の排出量を42%削減し、スコープ1および2の排出量を24%削減。また、リサイクル材料の含有率を55~75%に増加させることができました。
2. 合肥ミデア・ウォッシング・マシン(中国、合肥):世界トップクラスの洗濯機メーカーであり、持続可能性のリーダーでもある同社は、排出量を削減し、エネルギー利用を最適化するために、24の4IRユースケースを実施。この拠点では、スコープ1および2の排出量を36.4%、スコープ3の排出量を26.0%削減しました。太陽光発電でエネルギーの31%を供給できるようになり、水の40%がリサイクルされ、廃棄物は22.1%削減されました。
3. 青島ビール青島工場(中国、青島):工場におけるビールの醸造は、従来からエネルギー消費量と二酸化炭素排出量が多くなっていました。そのため、高度なアルゴリズムとIoTを活用し、ビール生産におけるエネルギーと炭素強度の削減を目的とした25のユースケースを展開し、単位エネルギー消費量を25%削減し、スコープ1および2の排出量を57%削減、スコープ3の排出量を13%削減しました。
工場のライトハウス
工場のライトハウスは、生産性を向上させ、課題解決能力を高め、イノベーションを促進するAIソリューションの展開を加速させるための青写真を提供します。新しい工場のライトハウスは以下のとおりです。
1. アストラゼネカ(スウェーデン、セーデルテリエ):生産能力の向上と新製品発売の加速化を図るため、機械学習や最適化アルゴリズムを含む50以上の4IRソリューションを導入。これらの取り組みと3,000人の従業員のアップスキリングにより、労働生産性は56%増加し、新製品の開発リードタイムは67%短縮されました。
2. アストラゼネカ・ファーマシューティカル(中国、無錫)国内での値下げと需要の変動に対応するため、AIやアルゴリズムを含む34の4IRユースケースを導入し、製造の同期化と効率化を強化。この工場では、生産高を55%増加させ、製造リードタイムを44%削減し、規格外バッチを80%削減し、労働生産性を54%向上させました。
3. ベコ・ディッシュウォッシャー・プラント(トルコ、アンカラ):高品質な食器洗浄機の需要の高まりに応えるため、35以上の社内ソリューションをIoTプラットフォーム「FLOW」に統合し、4IRへの変革を実施。これにより、市場投入までの時間が46%削減され、現場での故障率が29.2%低下し、コンバージョンコストが26.1%減少しました。さらに、1,000人以上の従業員が4IRテクノロジーに関するアップスキリング(技能向上)を果たしました。
4. コカ・コーラ・シンガポール(シンガポール、トゥアス):生産量の増加と製品ポートフォリオの複雑化に直面したこの工場では、機械学習を活用した需要予測、ロボット工学、高度なスケジューリングアルゴリズムを導入。これにより、処理能力は28%向上し、労働生産性は70%向上、欠品は80%削減、時間通りの配送は31%改善する一方、スコープ2排出量は34%削減されました。
5. コンチネンタル・オートモーティブ・チェコ(チェコ共和国、ブランディス・ナド・ラベム): ブランディスにある同社最大の電子機器工場では、需要と変化する消費者嗜好に対応するために工程を見直しました。30以上のデジタルソリューションを導入したことで、従業員の満足度を高めると同時に、35%の効率向上、15%のスペース利用の改善、および現場での事故の10%削減を達成しました。今後は「デジタル・メガ・ファクトリー」としてハイテク生産の新たな基準を打ち立てることを目指しています。
6. F. ホフマン・ラ・ロシュ(スイス、カイザーアウグスト):2030年までに20種類の画期的な新薬を発売するという同社の目標の要となるバーゼル医薬品原薬工場では、化学合成された低分子化合物を含む幅広い治療薬を製造しています。効率を高めるため、デジタルおよびAIソリューションを導入し、収率のばらつきを60%削減、技術移転にかかる時間を半減、スコープ1および2の排出量を31%削減し、同社のグローバルネットワークにおける重要な役割を強化しました。
7. フォックスコン・インダストリアル・インターネット(ベトナム、バクザン):サプライチェーンのレジリエンス(強靭性)強化に向けたグローバルな事業拡大の中で、輸入材料への過度な依存や現地人材の育成機会といった初期の課題を克服。高度な計画やAI主導の自動化など、40以上の4IRユースケースを導入したことで、労働生産性を190%向上させ、99.5%の納期遵守率を達成し、製造コストを45%削減しました。
8. GEヘルスケア北京(中国、北京)160カ国に製品を提供するこの工場では、26の生産ラインに45のデジタルソリューションを導入することで、複雑な製造と品質に関する要求に対応しています。欠陥検出にAIを導入し、ディープラーニングを行うことで、サイクルタイムを66%削減、スクラップを66%削減し、顧客からのクレームを73%削減しました。
9. ジュビラント・イングレビア(インド、バルーチ):特殊化学製品のグローバルな既存製造拠点に4IRテクノロジーを導入し、2,000人以上の従業員にリスキリングを実施。AI、機械学習、IoTベースのデジタルツイン、予測プラットフォームを活用した30以上の統合ユースケースを通じて、全体的なプロセスのばらつきを60%削減し、生産量をほぼ倍増させました。
10. 蒙牛乳業(寧夏)(中国、寧夏):より新鮮で栄養価の高い乳製品の需要の高まりに応えるため、インテリジェントな意思決定からフレキシブルな自動化まで、30以上の先進的な4IRユースケースを導入。牛乳の加工、パッケージング、検査をカバーするこうした取り組みにより、納品リードタイムが55%削減され、品質不良が60%減少し、運用コストが32%削減され、効率と製品品質の両方が大幅に向上しました。
11. 青島海信日立空調系統有限公司(中国、青島):グローバル市場の需要に応えるために40以上の4IRユースケースを導入し、製品開発のスピードを37%向上させ、労働生産性を49%高め、製造コストを35%削減しました。
12. 三門原子力発電(中国、三門):事故ゼロを目標に掲げてAIやロボット工学を含む40以上の4IRユースケースを展開し、業務上の安全性の向上を図りました。これらの取り組みにより、安全事故率は0%に維持され、設備利用率は1.5%増加し、主要なオーバーホール期間は46%短縮されました。また、労働生産性は18%向上しました。
13. SANY再生可能エネルギー(中国、韶山):大型風力タービンブレードの製造と輸送における様々な課題に直面する中で、AIやインテリジェントオートメーション(IA)を含む29の4IRユースケースを展開。その結果、欠陥が20%削減され、生産性が33%向上し、納期が34%短縮され、クリーンエネルギーに対するデジタルテクノロジーの変革のインパクトがもたらされました。
14. シュナイダーエレクトリック(メキシコ、モンテレイ):複雑な製品に対する需要の高まりに応えるため、機械学習による予測や自律型ロボットなどのデジタル技術を統合。これらの強化策により、持続的な年間成長と欠陥の20%削減、水消費量の30%削減を実現しました。
15. シーメンスエレクトロニクス工場(ドイツ、エアランゲン):中規模で多品種生産をリードする「グリーン・リーン・デジタル」戦略を展開。100以上のAIアルゴリズムとデジタルツインの広範な活用、柔軟かつモジュール型のITアーキテクチャにより、労働生産性が69%向上し、市場投入までの時間が40%短縮され、エネルギー使用量が42%削減されました。
16. タイユアン・ヘビー・インダストリー・レールウェイ・トランジット・イクイップメント(TZ)(中国、太原):高速鉄道の厳しい安全基準と品質基準を満たすために、40以上の4IRユースケースを実施し、AIと柔軟な自動化の活用により品質と生産性を向上させました。その結果、欠陥率は33%減少し、単位コストは29%減少し、スループットは33%増加しました。
17. ジャンヂョウ・コール・マイニング・マシナリー・グループ(中国、鄭州):完全カスタマイズ可能な油圧サポートとより迅速な納品への需要に応えるため、IoT、機械学習、適応型オートメーションを含む48の4IRユースケースを導入。このイノベーションにより、高い柔軟性と効率性を備えたスマート工場へと変貌を遂げ、リードタイムを66%削減し、労働者一人当たりの生産量を205%増加させ、不良率を73%削減しました。
エンドツーエンド(E2E)バリューチェーンのライトハウス
このライトハウスは、高度なテクノロジーにより、可視性の向上だけでなく、複雑なプロセスの合理化、設計・計画の効率化を実現し、需要の増大に対応しています。新しいE2Eバリューチェーンのライトハウスは以下のとおりです。
1. 青島ハイアール(膠州)エアコンディショナー(中国、青島):世界的な需要増大に対応し、研究開発、配送、アフターサービスにおける遅延に対処するために、ビッグデータ、高度なアルゴリズム、生成型AIを活用してバリューチェーン全体を最適化。グローバル市場に製品の90%を供給するこの工場では、設計サイクル時間を49%削減し、注文の納品時間を19%短縮し、海外での故障率を28%低下させることができました。
2. シュナイダーエレクトリック(中国・上海):グローバル受注が増加し、新エネルギー市場からのSKUが4倍に増加したため、自動化率を20%向上させ、ML対応プロトタイピング、スマートプランニング、生成AI駆動型メンテナンスなどの先進技術を統合して対応。こうした取り組みにより、市場投入までの時間が63%短縮され、受注生産のリードタイムが67%削減。また、労働生産性が82%向上しました。
グローバル・ライトハウス・ネットワークについて
2018年に発足したグローバル・ライトハウス・ネットワーク(GLN)は、テクノロジーを活用してパフォーマンスと持続可能性にプラスの影響を与え、測定可能な成果を上げている世界屈指の生産ネットワークの成功事例を共有し、称賛する取り組みです。このグローバルコミュニティには、複数の業界にわたって1,000以上のソリューションを展開する影響力のあるイノベーターが参画しており、その中に含まれる172の拠点のうち20拠点が持続可能性のライトハウス(灯台=指針)となっています。
現在、このネットワークは31カ国、35の様々なセクターへと広がりました。
AI、3Dプリンティング、ビッグデータ分析などのイノベーションを活用することで、ライトハウスは効率性、競争力、変革的なビジネスモデルを大規模に推進し、経済成長を促進しながら労働力の増強と環境保護を推進し、あらゆる規模のメーカーにグローバルな協調学習の機会を提供しています。
グローバル・ライトハウス・ネットワークは世界経済フォーラムのイニシアチブです。マッキンゼー・アンド・カンパニーの協力を得て設立され、グローバルな製造業の未来を形作るために協力している業界リーダーたちから成る諮問委員会の助言を受けています。諮問委員会には、寧徳時代新能源科技(CATL)、フォックスコン・インダストリアル・インターネット、ヘンケル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、コチ・ホールディング、マッキンゼー・アンド・カンパニー、シュナイダーエレクトリック、シーメンスが参画。ネットワークに参画する先進的な産業拠点は、独立した専門家パネルによって認定されます。
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