世界経済フォーラム、パブリック・エンゲージメント・リード 栃林直子 +81 3 3560 6093 naoko.tochibayashi@weforum.org
2023年6月28日、スイス、ジュネーブ 世界経済フォーラムの「効果的なエネルギー転換の促進2023年報告書」(Fostering Effective Energy Transition 2023)によると、世界のエネルギー転換はこの数十年で成果を上げたものの、その後、エネルギー危機と地政学的な変動という逆風の中で停滞しています。同レポートによると、クリーンで持続可能なエネルギーという観点では広い範囲で成果がみられたものの、転換の公平性という新たな課題が浮かび上がっているのです。ここで言う公平性とは、入手しやすい価格でエネルギーにアクセスできることと、持続的な経済発展です。この公平性が問われている原因は、各国が安全なエネルギー確保に重点を移していることにあります。
アクセンチュアと共同刊行されたレポート第13版では、エネルギー転換指標(ETI)から得たインサイトについて述べられています。今年のETIでは、世界のエネルギー事情における新たな転換を枠組みに盛り込み、120か国のエネルギーシステムのパフォーマンスを2つの基準を元に評価しています。評価基準の1つ目は公平性、安全なエネルギー確保、環境面での持続可能性、2つ目はエネルギー転換を可能にする環境整備です。レポート第13版ではさらに、各国の「転換のモメンタム」の評価に初めて取り組むことで、タイムリーかつ効率的なエネルギー転換を着実に進めていくことが喫緊の課題であることを強調しています。
クリーンエネルギー投資の増加、規制枠組みの整備と技術革新の進展、気候危機への対応の緊急性を背景に、世界全体のエネルギー転換の長期傾向には明るい見通しもあります。95%の国々がこの10年でETI合計スコアを改善させており、大量のエネルギー消費国である中国、インド、韓国、インドネシアでは、さらに顕著な改善がみられます。
しかし、広い視野でみると、この3年間のETIスコアは停滞しています。パリ協定の目標を包摂的、安全かつ確実に達成するためには、この転換スピードでは不十分でしょう。地政学とマクロ経済の移ろいやすさが近年の世界規模のエネルギー危機を引き起こした結果、各国の重点的取り組みがエネルギー供給の確保と安定の維持へと移行したため、広範囲に入手しやすい手頃な価格設定、さらにこの数十年の間に見られたエネルギー転換の進展が犠牲となっています。
そのことを反映するかのように、昨年はおよそ50%の国々でETIスコアが下がり、その影響は脆弱な消費者、小規模企業、途上国に偏ってみられます。エネルギーアクセスの成長率も鈍化しており、このままでは、2030年までにすべての人々が入手しやすい価格で信頼でき持続可能なエネルギーを使えるようにするという国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成することは難しいでしょう。
世界経済フォーラムのエネルギーとマテリアル部門長を務めるロベルト・ボッカ(Roberto Bocca)はこう語っています。「エネルギー市場で大規模な混乱が生じ、エネルギー価格がマクロ経済と社会の安定にどのようにつながっているかが明らかになりました。この状況では、エネルギー危機以前に開発途上国が手にした転換のモメンタムが失われ、入手しやすい価格で持続可能なエネルギーに開発途上国がアクセスできないというリスクが生じますが、実際にもうそれが起きているのです。エネルギー市場での大規模な混乱は、エネルギーの安全な確保、持続可能性、公平性の面でバランスのとれた改善に加え、エネルギー転換を効果的に進める重要性も明らかにしました」。
エネルギー転換の進捗については、先進国とアジア、中欧、東欧、サハラ以南のアフリカ地域の新興国・開発途上国の格差が、この10年で少しずつ縮んでいます。こうした中で、先進国と新興大国の中国やインド等が、エネルギー転換の限界を押し上げているため、格差が再び広がるおそれがあります。こうした国々では、各業界で目標を満たすために包括的な方針を掲げており、推進しているクリーン電化、重工業分野の脱炭素化に向けたテクノロジー重視のソリューション、先進的な原子力が、いずれも格差を広げかねない要因となっているのです。世界中で公平かつ包摂性あるエネルギー転換を確実なものにするには、多国間の連携がこれまで以上に重視されますが、この取り組みでは新たな参加国よりも新興国が活発に活動することになるでしょう。
アクセンチュアのシニアマネージングディレクター兼グローバル資源産業プラクティス部門のリードを務めるステファニー・ジェミソン氏は、こう語っています。「この10年で大幅な進捗がみられますが、2050年までに実質的なゼロエミッションを達成するには間に合いません。これからは重点を移し、人口密集地域や開発途上国の進捗をスピードアップさせる方向へ進むべきでしょう。脱炭素化に取り組んでいるものの、再生可能エネルギー資源を開発するための財政的、技術的支援が必要な地域をサポートするのです。これまで以上に大規模な連携と支援により、さらに公平で持続可能な未来を実現できるはずです」。
また、アクセンチュアでシニアマネージングダイレクター兼グローバル戦略リードを務めるムキュジット・アシュラフ氏は次のように語っています。「実質ゼロの目標に達するチャンスは遠のいているため、よりクリーンなエネルギーシステムへの移行は各国にとって喫緊の課題となっています。これから欠かせないのは、データやAIを含めた物理・デジタル両面のテクノロジーを利用すること。生成AI等の破壊的技術の限界を押し上げることで、国も企業もかつて不可能と思えたことを実現でき、同時に、持続可能性の向上、エネルギーの安全な確保と入手しやすい価格設定をさらに改善させることもできるはずです」。
ETI 2023年版からみる進捗
スウェーデン(1)、デンマーク(2)、ノルウェー(3)が2023年ETI 2023ランキングの上位国で、過去10年間の上位3か国を独占しています。それぞれに多様なエネルギーシステムを構築していますが、3か国には共通点もあります。高いレベルの政治的コミットメントと安定した規制枠組み、研究開発への投資、増大する再生可能エネルギーの展開、低炭素ソリューションへの投資にインセンティブを与えるカーボンプライシングスキーム等です。
G20諸国ではフランス(7)が唯一トップ10に入り、ドイツ(11)、米国(12)、英国(13)が続きます。世界の経済大国の力強いパフォーマンスは、再生可能エネルギーインフラの急速な開発とクリーンエネルギー投資のレベル上昇に支えられ、エネルギー転換の進捗のシグナルとなっています。エネルギー転換の包摂性において、ガスの価格変動がリスク要因となるのは、とりわけ欧州諸国で顕著となっているエネルギー危機とそれによる財政と金融への影響が示しているとおりです。
ブラジル(14)と中国(17)は上位20に躍進した主要新興国です。ブラジルは豊富な水力発電を備えていること、バイオ燃料でリードしていることが要因となり、エネルギーの安全な確保と環境の持続可能性で高スコアを獲得しており、世界の再生可能エネルギー生産の7%を占めています。中国は再生可能エネルギーへの投資と能力開発でリードしていますが、これを支えているのは成熟した国内サプライチェーンと、電気自動車産業やエネルギー貯蔵産業等に対する支援です。
エネルギー転換の長期的目標を達成するためには、現在の短期的な変動につづいて、モメンタムを持続させることが求められます。インド(67)とシンガポール(70)は、持続可能性と安全なエネルギー確保、公平性をバランス良く向上させて、真のモメンタムを示している数少ない主要経済国です。例えば、インドは経済成長を続ける中で、経済のエネルギー依存と混合エネルギーのカーボン依存を下げることに成功し、広範囲のエネルギーアクセスと入手しやすい電気価格の効率的管理も実現しています。
エネルギーシステムのパフォーマンスの観点から見ると、燃料輸出国のオマーン(90)、カナダ(19)、サウジアラビア(57)、カタール(59)は公平性と包摂性で最高スコアを獲得し、入手しやすい価格でエネルギーを家庭や産業に供給し、経済成長のばねとしてエネルギーセクターを活用しています。注目すべきは、米国、スウェーデン、イスラエル(28)も公平性と包摂性で高いスコアを獲得していることですが、その主な要因は、コスト反映型のエネルギー価格と低カーボン技術製品の貿易でリーダーシップを取っていることにあります。
先進国では、米国、オーストラリア(24)、エストニア(10)が、供給のレジリエンス(強靭さ)と信頼性を測定するエネルギーの安全確保において最高スコアを獲得しました。その要因は、多様度の高いエネルギー混合、燃料の輸入依存度の低さ、エネルギー供給停止の少なさです。注目すべきは、この3か国に新興国のマレーシア(35)が迫っていることです。
レポートで明らかにされたのは、世界の排出量の90%以上を占める数多くの国々が持続可能性を優先し、省エネ、再生可能技術、エネルギー貯蔵におけるイノベーション、基本インフラ敷設網の近代化を促す政策とプログラムに重点を置いていることでした。ここではラテンアメリカがリードしていますが、その要因は、エネルギー供給におけるカーボン依存度の低さ、1人当たり排出量の低さ、最終需要でクリーンエネルギーが占める割合の高さにあります。パラグアイ(34)、コスタリカ(25)、ウルグアイ(23)は、豊富な水力発電の潜在的可能性という利点がとりわけ評価につながっています。
世界経済フォーラムで、エネルギー転換インテリジェンスおよび地域発展部門長を務めるエスペン・メーラムはこう語っています。「世界規模のエネルギー危機に対応することで、経済成長におけるエネルギー依存を減らし、エネルギーシステムのレジリエンスを強化する機会が各国にもたらされました。これが契機となり、緊急性が求められる気候変動への対応に合わせたエネルギーシステムの変革というプレッシャーも相まって、世界規模のエネルギー転換をさらに加速させる強固な基盤がもたらされたのです」。
<参考>
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