「ジェンダーギャップ・レポート 2023」 停滞するジェンダー平等 - 格差是正まで131年

発行済み
2023年06月20日
2023
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世界経済フォーラム パブリック・エンゲージメント・リード栃林直子
Tel.: +81-(0)3-3560-6093 Naoko.Tochibayashi@weforum.org

  • ジェンダー・パリティはパンデミック前の水準まで回復した一方、進展のペースは鈍化しています。
  • 「経済」参加と機会におけるジェンダー・パリティは、2022年より低下。「政治参加」はわずかな上昇にとどまっています。
  • アイスランドは依然として最も男女平等な国であり、ノルウェー、フィンランド、ニュージーランド、スウェーデンがそれに続きます。
  • 世界経済フォーラムは、内閣府男女共同参画局や企業とともに、ジェンダーギャップ解消アクセラレーター(Closing the Gender Gap Accelerator)の活動も実施。本アクセラレーターは、特に経済分野におけるジェンダー・パリティの加速をめざし、「男性リーダーの会」の活動等と連携しています。
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2023年6月21日、スイス、ジュネーブ - 世界経済フォーラムがまとめた「ジェンダーギャップ・レポート2023」によると、世界のジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)は世界的に見て新型コロナ感染拡大以前の水準に回復した一方、危機の収束により進展が鈍化。変化のペースは停滞しています。昨年度版との比較で縮まったジェンダーギャップは全体で0.3%。ジェンダー・パリティの達成は、同レポート2022年版同様、「2154年」とされています。

2023年の全体的な進歩の一因は、「教育」分野における格差が改善されただことにあり、現在、指数対象国146カ国のうち117カ国が95%以上格差を解消しています。

一方、「経済」分野のギャップは60.1%、「政治参加」のギャップはわずか22.1%しか縮まっていません。

ジェンダー・パリティは2006年の初版以来、わずか4.1%しか進んでおらず、全体の変化率は著しく鈍化。全体的なジェンダーギャップを埋めるには131年必要です。現在の進捗率では、経済的パリティには169年、政治的パリティには162年かかると言われています。

「パンデミック以前からの回復という心強い兆候が見られる一方で、女性は現在の生活費危機や労働市場の混乱の影響を受け続けています」と、世界経済フォーラムの取締役であるサーディア・ザヒディは述べています。「経済の回復には、創造性と多様なアイデアやスキルが不可欠です。私たちは、女性の経済参加と機会に関するモメンタムを失うわけにはいきません」。

今年で17版となる「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート」は、「経済」、 「教育」、「医療へのアクセス」、「政治参加」という4 つの分野で、ジェンダーに基づく 格差の推移をベンチマーク(基準)としています。2006年に初版が発表されて以来、これらの格差の解消に向けた進捗を追跡する最も長い歴史を持つ指標です。 また近年は、さまざまな世界的危機が労働市場においてジェンダーギャップに与える影響も調査しています。

2023年のグローバルおよび地域における注目点

14年連続で世界で最もジェンダー平等が進んでいるアイスランドは、ジェンダーギャップの90%以上を解消した唯一の国です。まだ完全なジェンダー・パリティを達成している国はない一方、ランキング上位9カ国は、少なくとも80%のギャップを解消しています。

上位10カ国は以下の通りです:

欧州のジェンダー・パリティは76.3%と全地域で最も高く、レポートの2022年版から、北米を抜きました。同地域の3分の1の国がトップ20にランクインし、半数以上(56%)が少なくとも75%のパリティに達しています。一方、進捗状況はまちまちで、エストニア、ノルウェー、スロベニアを筆頭に10カ国が1%ポイント以上改善。オーストリア、フランス、ブルガリアを含む10カ国が1%ポイント以上の減少を記録しています。

北米は第2位。前回から1.9%減少し、75%の差が縮まりました。これは、「政治参加」の格差が7.7%減少し、26.1%となったことに起因しています。北米は、「経済」分野における解消において、全地域の中で最も高いジェンダーパリティ・スコアの77.6%を達成しています。

ラテンアメリカ・カリブ海地域は、74.3%のジェンダーギャップを解消し、昨年から1.7%増となっています。2017年以降、ジェンダーパリティに向けた漸進的な進展により、この地域は現在、3番目に高いレベルのパリティを達成しています。この地域で最も高いパリティを達成しているのは、ニカラグア(81%)、コスタリカ(79.3%)、ジャマイカ(77.9%)。

ユーラシアと中央アジアは、ジェンダーギャップの69%を解消していますが、その進展はレポート2020年版以降停滞しています。他の地域と比較して、ユーラシアと中央アジアは「政治参加」におけるジェンダーパリティ(10.9%)が最も低く、2022年以降、1%の後退を記録しています。一方、「経済」分野における格差の解消の進捗は着実に増加しており(68.8%)、前回版から0.5%改善しています。

東アジア・太平洋地域では、パリティに向けた進捗が10年以上停滞しており、前回から1.6%の減少を記録しています。19カ国中11カ国が前回よりスコアを上げた一方、この地域では8カ国がパリティの低下を記録しています。ニュージーランド、フィリピン、オーストラリアはパリティが最も高く、またオーストラリアとニュージーランドは、この地域で最も「経済」分野で改善が見られました。

日本のジェンダーのパリティは、64.7%(2022年は65%)となり、146か国のうち125位(2022年は116位)。「政治への参加」におけるパリティ指数は5.7%で、これは世界で最も低いレベルです(138位)。国会議員の10%と閣僚の8.3%が女性である一方、女性の国家元首は誕生していません。「教育」と「医療へのアクセス」の両サブインデックスでは、ほぼ完全なパリティが実現しています。推定所得のパリティ指数は1.1%改善しました。

サハラ以南のアフリカでは、ジェンダーギャップの68.2%が解消され、全体として0.1%の改善となりましたが、同地域での進展にはばらつきがあります。ナミビア、ルワンダ、南アフリカをはじめとする13カ国は、全体の70%以上のジェンダーギャップを解消しましたが、この地域の8カ国は0.5%以上のパリティの低下を記録しました。

南アジアは63.4%のジェンダー・パリティを達成し、前回から1.1%改善。これは、インド、パキスタン、バングラデシュといった人口の多い国々でスコアが向上したことが一因と考えられます。南アジアは、前回から1.4%改善しているものの、「経済」分野における格差が全地域で最も大きいことも示されています(37.2%)。

中東・北アフリカは、ジェンダーギャップの62.6%が解消。未だパリティからは最も遠い地域となっており、前回比でパリティは0.9%低下しています。アラブ首長国連邦(71.2%)、イスラエル(70%)、バーレーン(66.6%)がこの地域で最も高いパリティを達成しており、バーレーン、クウェート、カタールを筆頭に5カ国が0.5%以上パリティを高めています。

「ガラスの天井」は依然存在

世界的に女性の労働参加率は男性よりも高く、2022年版以降、労働参加率のジェンダー・パリティはわずかに回復(63%から64%)した一方、格差は依然として大きく残っています。これらのパターンに加えて、女性は男性よりも高い失業率に直面し続けており、世界の失業率は女性が約4.5%、男性が約4.3%となっています。

リンクトインが提供する163カ国のグローバルデータによると、2023年の労働人口に占める女性の割合は41.9%である一方、上級指導職(ディレクター、副社長、C-Suite(経営陣))に占める女性の割合は32.2%と10%近く低くなっています。リーダーシップのポジションに採用される女性の割合は、過去8年間、世界的に毎年約1%ずつ着実に増加してきましたが、2023年にはこの傾向が逆転し、2021年の水準となっています。

未来の労働市場において、STEM職は一般的に報酬が高く、その重要性と範囲が拡大すると予想されています。しかし、リンクトインのデータによると、STEMの労働力全体において、女性はわずか29.2%と、依然として著しく存在感が薄いことが示されています。AI分野については、人材の確保が急増しており、2016年から2022年の間に6倍に増加していますが、現在AIで働く女性の割合は約30%で、2016年に比べてわずか4%の増加に止まっています。

「私たちは、経済的なショックや逆風を女性が負担していることを常に見てきました。これはシステム的な問題であり、これに対するシステム的な対応が必要なのです」と、リンクトインのグローバル公共政策担当のスー・デュークは述べています。「包括的な雇用対策、女性のトップ職の可視化、そして特にSTEMなどの高成長・高収入セクターにおける女性のスキル向上とキャリア成長の機会は、この懸念すべきトレンドを修正するために役立ちます。私たちは今行動を起こす必要があるのです」。

オンライン学習全体では、根強いデジタルデバイドが、男女の学習者の間に機会の不平等をもたらす要因のひとつとなっています。コーセラ(Coursera)のデータによると、教える・指導するコースを除いて、スキルカテゴリーで登録者数に格差があることがわかります。 技術リテラシー(43.7%)、AIとビッグデータ(33.7%)などのテクノロジースキルの登録は50%を大きく下回り進歩が鈍く、またすべてのスキルカテゴリーにおいて、習熟度が上がるにつれて男女差は広がる傾向にあります。しかし、女性が受講した場合、男性に比べ、学習したスキルカテゴリーのほとんどの習熟度を短時間で達成する傾向があることをデータが示しています。

コーセラ(Coursera)のCEOであるジェフ・マッジョンカルダは、「今回の調査では、受講率が低いにもかかわらず、女性は男性よりも速いペースでスキルを身につけている、という重要な発見がありました」と述べています。「オンライン学習へのアクセス拡大が、女性の職場進出を加速させるスキルギャップの解消に役立つという、希望的な示唆です」。

ジェンダーギャップの解消

「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート2023」は、家庭、社会、経済における幅広いジェンダーギャップに対処するための2つの重要な要素として、官民両セクターにおいて、女性の経済参加の拡大とリーダーシップにおけるジェンダー・パリティの達成を強調しています。官民両セクターのリーダーによる集団的、協調的かつ大胆な行動は、ジェンダー・パリティへの進歩を加速させ、新たな成長とより大きなレジリエンスに火をつける上で重要な役割を果たすでしょう。

ジェンダーギャップの解消を進めることは、包摂的で持続可能な経済成長を確保するために極めて重要です。個々の組織レベルでは、ジェンダー戦略は、最高の人材を惹きつけ、長期的な経済パフォーマンス、レジリエンス、生存力を確保するために不可欠であると考えられています。多様なリーダー達が、より事実に基づいた意思決定を行い、より質の高い結果をもたらすという報告もあります。経済全体のレベルでは、ジェンダー・パリティは、金融の安定と経済パフォーマンスにとって不可欠であると認識されています。

ジェンダーギャップ解消アクセラレーター(Closing the Gender Gap Accelerator)は、官民が一体となって経済的平等を実現するために、女性の労働参加率の向上、男女間の賃金格差の解消、より多くの女性がリーダー的役割に就き、需要のあるスキルを身につけることに焦点を当てます。このモデルは、現在までに14の経済圏で採用。またこのネットワークには、これらの国々やナレッジ・パートナーが集まり、今後の方向性を示す教訓や学びを総合的に判断しています。さらに、DEIライトハウス・プログラムは、業界や地域を問わず、実証済みの効果的なDEIイニシアチブを特定し、世界中の官民両セクターのリーダー達と重要な教訓を共有することを目的としています。

<ご参考>

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