「ジェンダーギャップ・レポート 2022」 複雑化する危機:パンデミックの混乱と回復の弱さを背景に、 ジェンダー・パリティにはなお 132 年が必要

発行済み
2022年07月12日
2022
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世界経済フォーラム パブリック・エンゲージメント・リード 栃林直子
Tel.: +81-(0)3-3560-6093 Naoko.Tochibayashi@weforum.org

  • 世界で最もジェンダー平等が進んでいる国は今年もアイスランドでした。フィンラ ンド、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデンがこれに続いています。
  • 労働力の中でジェンダー・ギャップが拡大しており、生活費の危機的な高騰が女性 に強い打撃を与えると予想されています。
  • 新型コロナウイルス感染拡大によりジェンダー・パリティの達成が一世代分遅れた にもかかわらず、ギャップを縮小する動きは力強さに欠き、これを補うことができ ていません。
  • 「男性 100%」とした場合、これに対する女性の位置づけとなるのが、ジェンダ ー・パリティ(ジェンダー公正)のスコアとなります。日本は、65%(2021 年は 65.5%)となり、146 か国のうち 116 位となりました。(2021 年は、156 カ国のう ち 120 位)。
  • 世界経済フォーラムは、内閣府男女共同参画局や民間企業によるジェンダー・ギャ ップ解消アクセラレーター (Closing the Gender Gap Accelerator) の構築にも協力。本取り組みは、特に経済分野におけるジェンダー平等の加速をめざし、多くの日本企業 が参加する「男性リーダーの会」の活動との連携等を予定しています。
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2022 年 7 月 13 日、スイス、ジュネーブ 新型コロナウイルス感染拡大後、ジェンダー・ギャップ解消に向けた動きは回復していないことが、世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート 2022」から明らかになっています。グローバル経済は混乱したまま 3 年目に入ろうとしており、ジェンダー・ギャップの解消にはさらに 132 年(2021年時点では 136 年)を要するとみられています。

同レポートによると、調査対象の 146 カ国のうち、過去 1 年間にジェンダー・ギャップを 1%以上解消できたのは、5 カ国中 1 カ国の割合にとどまっています。そのため、この 1 年 に進展があっても、ジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)を達成するまでの年数はわずか 4 年短縮されただけでした。この進捗状況では、パンデミック(世界的大流行)が始まった 2020~2021 年に全世代における後退を埋め合わせることはほとんどできません。

「パンデミックにより労働市場が失われたことの打撃や、継続する介護インフラの不足を受 け、生活費の危機的状況が女性に不当に大きな影響を及ぼしています。リカバリーが力強さ を欠く中、政府と企業は、女性の職場復帰支援および未来の仕事の分野における女性の能力 育成支援に政策の的を絞り、2 つの取り組みを合わせて行う必要があります。さもなけれ ば、過去数十年の成果を永久に失い、多様性がもたらす将来的な経済利益を逃してしまう危 険があります」と、世界経済フォーラム取締役のサーディア・ザヒディは述べています。

今年で 16 年目を迎えた「グローバル・ジェンダー・ギャップレポート」は、「経済」、 「教育」、「医療へのアクセス」、「政治参加」という 4 つの分野で、ジェンダーに基づく 格差の推移をベンチマーク(基準)としています。また、労働市場におけるジェンダー・ギ ャップ危機の拡大に世界的影響を与えた最近の出来事についても考察しています。

2022 年の調査対象 146 カ国全体において、医療へのアクセスにおけるジェンダー・ギャッ プは 95.8%解消されており、教育は 94.4%、経済は 60.3%、政治参加は 22%とそれぞれ解 消されています。2021 年から 2022 年にかけ、経済の項目は 1.6%上昇しました。労働力に おけるジェンダー・ギャップが拡大したものの、専門職、技術職に占める女性の割合に改善 がみられたこと、および賃金格差が縮小したことが、主な要因です。医療へのアクセスは 95.7%から 95.8%へ、小幅な改善がみられましたが、教育は 95.2%から 94.4%に低下し、政治参加は 22%で停滞しました。

過去 16 年の長期的な視点で見ると、現在の進捗率では政治参加のジェンダー・ギャップ解消には 155 年かかる見通しで(2021 年の予測年数から 11 年以上延長)、経済のジェンダ ー・ギャップを解消するには 151 年を要することになります。教育のジェンダー・ギャッ プについては、ジェンダー・パリティを達成している国が 29 カ国ありますが、格差解消にはなお 22 年かかるとみられます。また、健康面のジェンダー・ギャップを 95%以上解消し ている国は 140 カ国以上にのぼりますが、医療へのアクセス全体に後退がみられ、反転が 起こる可能性があることを示しています。

2022 年のグローバルおよび地域レベルの注目点

世界で最もジェンダー平等が進んでいるのは、13 年連続でアイスランド。同国はジェンダ ー・ギャップを 90%以上解消した唯一の国でもあります。上位 10 カ国は以下のとおり。

北米は最も格差が低い地域で、ジェンダー・ギャップの 76.9%が解消しています。格差の解消に必要な年数は、62 年から 59 年に短縮されました。米国でわずかに改善しましたが、カ ナダのスコアには進展がありません。

欧州(76.6%)がわずかな差で北米に続いています。欧州の 2021 年以降の改善は 0.2%で、 ジェンダー・ギャップ解消に要する年数は 60 年という結果になりました。上位 10 カ国の うち 6 つが欧州の国で、同地域 35 カ国中 9 カ国でスコアが 1%以上改善しています。この 地域で最も改善が進んだのは、アルバニア、アイスランド、ルクセンブルグの 3 カ国です。

ラテンアメリカ・カリブ地域(72.6%)は前回から 0.4%ポイント改善し、地域別では第 3 位となりました。現在のペースでいくと、ラテンアメリカ・カリブ地域の格差解消に 67 年 かかることになります。ただ、今回指数で示したこの地域の 22 カ国のうち、ジェンダー・ ギャップスコアが 1%ポイント以上改善したのは 6 カ国にとどまっており、地域内で差が広 がっていることを示しています。

中央アジア(69.1%)は 2021 年からスコアに変化がなく、格差解消に進展が見られませ ん。このペースでいくと、地域のジェンダー・ギャップの解消に 151 年かかる見通しで す。この地域では 10 カ国中、6 カ国でスコアが改善しています。上位にランクインしたの はモルドバ、ベラルーシ、ジョージアでした。

東アジア・太平洋(69%)では、地域の 19 カ国のうち 13 カ国で前回から解消が進んでいます。しかし現在のペースでは、この地域のジェンダー・ギャップの解消に 168 年要する とみられます。国により解消速度にばらつきがあるため、地域によってはさらに差が広がる おそれがあります。この地域において解消率が高い国は、ニュージーランド(84.1%)、フ ィリピン(78.3%)、オーストラリア(73.8%)です。

サハラ以南のアフリカ諸国(68.7%)はこの 1 年に 1.1%改善し、過去最高スコアを記録し ています。これは、ナイジェリア、エチオピア、コンゴ民主共和国、ケニアなどの国で、経済面のジェンダー・ギャップが縮小したことを反映したものです。現在のペースでいくと、 ジェンダー・ギャップの解消に 98 年必要です。

中東・北アフリカ(63.4%)は、解消されていないジェンダー・ギャップが 2 番目に大きい地域です。解消率が高い国は、イスラエル、アラブ首長国連邦、レバノンです。経済面のジ ェンダー・ギャップ解消がいくらか進展し(+2%)、多くの国で女性の労働力参加および 技術職に占める女性の割合が改善しました。この地域のスコアは前回と同じ水準にとどまっ ており、格差の解消に必要な年数は 115 年と予想されます。

南アジア(62.3%)は全地域の中でジェンダー・ギャップが最大です。測定されたジェンダ ー・ギャップのスコアがすべて低く、大半の国で前回からほとんど進展がありません。現在のペースでは、この地域のジェンダー・ギャップの解消に 197 年かかることになります。 経済面のジェンダー・ギャップは 1.8%縮小しており、バングラデシュ、インド、ネパール などの国において専門職や技術職に就く女性の割合が上昇しています。

労働力におけるジェンダー・ギャップ:迫る危機

ジェンダー・ギャップ指数によると、労働力参加のグローバルなジェンダー・パリティは、 2009 年以降、緩やかな低下が続いていました。ジェンダー・パリティのスコアが 2 回連続 で急低下した 2020 年には、この悪化傾向が加速。その結果、2022 年の労働力におけるジェンダー・パリティは 62.9%と、この指数の算定が始まって以来最低の水準を記録しました。 職場にとどまった労働者も数多く失業しました。現在、失業率は男女ともにパンデミック前 より高い水準にありますが、2021 年のグローバルな失業率は、女性(6.4%)が男性 (6.1%)を上回っています。

パンデミックが労働市場に与えた負の影響が男女間で不均衡な理由は、影響を受けたセクタ ーに女性が偏っていることと、介護・育児負担における根強い不平等がパンデミックで悪化したことによって、ある程度説明できます。保育施設や学校が閉鎖される中、育児労働の大 部分は女性が負担しました。パンデミックの発生以前でも、労働時間全体に無給労働の時間 が占める割合は男性の 19%に対し、女性は 55%でした。

組織でリーダーシップを発揮する女性に関しては、これよりも明るい傾向がみられます。主要 23 カ国のリンクトインの高頻度データによると、リーダーシップを発揮する職位に雇用されている女性の数は 2016 年以降、増加しています。これらの国々でリーダーシップを発 揮する職位に就いている女性の割合は、2016 年の 33.3%に対し、2022 年には 36.9%に上昇しました。パンデミック中は上昇が止まり、リーダーシップを発揮する職位に雇用されている女性の割合は 2019 年から 2020 年に年 35%の水準で横ばいの状態でしたが、2021 年には 36%に上昇しています。

ただ、このような全体的な推移から業種による違いを知ることはできません。リーダーシッ プを発揮する職位における女性の雇用率が高かった業種は、2021 年において、非政府組 織・会員制組織(54%)、教育(49%)、政府・パブリックセクター(46%)、パーソナルサービス・福祉(46%)、ヘルスケア・介護サービス(46%)、メディア・通信 (46%)です。これに対し、2021 年時点でリーダーシップを発揮する職位における男性の 雇用が女性よりも顕著に高かったのは、テクノロジー(30%)、農業(28%)、エネルギ ー(25%)、サプライチェーン・運輸(25%)、製造(22%)、インフラ(21%)の 6 業種でした。

最後に、学習にも性別による細分化がみられ、これが未来の仕事に対応できるスキルを備え た人材の構成を変化させています。グローバルな高等教育において女性の学位取得者が男性よりも多い科目は依然として、教育、保健・福祉。逆に STEM(科学、技術、工学、数学) 分野では少なくなっています。情報通信技術(ICT)や工学、製造の卒業者は男性が多く、 女性の 4 倍近くに達します。一方、Coursera(コーセラ)による高頻度データは、オンライン登録者数においてはジェンダー・ギャップが比較的小さいことを示しています。例えば情報通信技術では、オンライン学習者全体が増加した 2019 年から 2021 年の間に、オンライ ントレーニングにおけるジェンダー・パリティが向上しました。

迅速な行動を

ジェンダー・ギャップの解消が国の繁栄の重要な原動力であることに変わりはありません。 政府があらゆるヒューマンキャピタル(人的資本)に投資し、国民が仕事と家庭生活のバランスをとりやすい環境がある国は、より繁栄している傾向があります。「グローバル・ジェ ンダー・ギャップレポート 2022」は、経済の見通しがますます不透明になる中で、さらに 多くのリーダーたちが自国のヒューマンキャピタルの創造力と活力を引き出して現在の危機を克服し、回復を加速させるよう、呼びかけています。

ジェンダー・ギャップ解消アクセラレーター(Closing the Gender gap Accelerators)は、先進国および開発途上国の政府や企業と協力し、経済的平準化を迅速に進めるための官民協力体 制を構築することを目指しています。特に、女性の労働力参加率の向上、男女間の賃金格差 の解消のほか、さらに多くの女性がリーダーシップを発揮し、需要のあるスキルを身に着け ることに重点が置かれています。このモデルはすでに 12 カ国で導入されており、2021~ 2022 年にはエクアドル、カザフスタン、日本、メキシコがアクセラレーターのネットワークに加わります。

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