世界経済フォーラム パブリック・エンゲージメント・リード 栃林直子
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2021年8月4日、米国・ニューヨーク - 世界経済フォーラムの「共通目的データ・イニシアチブ(DCPI)」は、インドの農家支援など幅広い社会的成果への取り組みに対しデータ取引市場が活力を与えることを示す、2つのケーススタディの第一段階を完了しました。
「現在、多くのプラットフォームが真のデータポータビリティを提供していないため、プラットフォームの垣根を越えて、多様な目的でデータを組み合わせる可能性が制限されています。データ取引市場の登場は、重要な課題を解決し社会のイノベーションを促進する、データの責任ある取引と利用を促進する機会となるでしょう。DCPIのこうしたケーススタディは、データ取引市場が世界の喫緊な問題の解決にどのように役立つかを示す実例を提供しています」と、世界経済フォーラムDCPIおよびブロックチェーン技術のプロジェクト・リード、ナディア・ヒューイットは述べています。
DCPIは、個々の当事者の権利を保護し、リスクを軽減しながら、公共の利益のためにデータ資産を取引する方法を模索するイニシアチブです。
過去1年間に実施されたケーススタディ・プロジェクトでは、政府主導のデータエコシステムによりデータ駆動型経済への移行を促す方法に脚光を当てました。これらのケーススタディは、データガバナンスモデルの検討に注力している7カ国の政府を含む、20カ国の50以上のグローバルパートナーからなるコミュニティの一部です。
ケーススタディから得られたインサイトには以下が含まれます。
ケーススタディの成果 - インドにおける農業データ交換
品質と信頼性が担保されたデータへのアクセスをもつデータリッチな国として、インドはケーススタディの有力候補となりました。データ交換を効果的に行うためには、分野別のモデルやユースケースを設計・開発する必要があります。
このケーススタディでは、農業分野でのデータ交換に焦点を当て、大規模農家に価値を提供することを目指しました。合理化され、拡張可能でかつ持続可能なデジタル農業のエコシステムを開発し、利用可能なフォーマットでのデータセットを促進。イノベーションを加速する方法を検討しています。例えば、収穫量や収益記録のフォーマットが異なる組織では、データセットが利用可能な場合であっても、データのポータビリティは困難です。重要なデータセットの可用性とアクセス可能性には、農家による組織的なクレジットへのアクセスを改善し、天候や商品価格の正確な予測を可能にし、結果として調整や計画の改善につながります。
このケーススタディは、世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンター(C4IR India)が、インドのテランガナ州政府と連携し、官民のマルチステークホルダー・コミュニティと、インド政府系シンクタンク、Niti Aayog(the National Institution for Transforming India)と協働で推進したものです。
関連するレポートでは、機能的なデータ交換アーキテクチャ、ガバナンス・フレームワーク、インセンティブメカニズムに必要な構成要素に関する提言をまとめています。
「テランガナ州の優先分野は、農業と農家の生活を向上です。今回の取り組みによってデータセットの民主化が可能になり、結果として重要分野でのイノベーションが加速すると確信しています」と、インドのテランガナ州政府ITE&CおよびI&C部副長官のシュリ・ジャイエッシュ・ランジャン氏は述べています。
ケーススタディの成果 - 日本における包括的データ戦略
日本のケーススタディ・プログラムでは、データ取引の実装が検討されました。証券取引所のエコシステムを参照し、データ取引プラットフォームを立ち上げる主体に左右されずにデータ取引市場を運営するためのモデルを検討しました。このブリーフィングペーパーでは、顔見知りでない多数の買い手と売り手を結びつけるというデータ取引市場に特有の課題に対処するために、データ取引市場の運営事業者(DMSP:Data Marketplace Service Provider)の役割と責任について説明しています。データ取引市場に関する意思決定者が、それぞれの文化的ニュアンスやニーズに合わせたソリューションを開発する際に、グローバルな相互運用性と適応性を念頭に置きながら、適切な方法でデータ取引市場を運営すべく、主要なガバナンス問題についての見解を示しています。
このケーススタディは、世界経済フォーラム、日本政府、民間セクターが共同創設した第四次産業革命日本センター(C4IR Japan)のプロジェクトです。日本政府が2021年6月に発表した「包括的データ戦略」に対して、このケーススタディで得られた知見が情報提供されました。包括的データ戦略では、DCPIとデータ取引市場構想を参照しています。包括的データ戦略の策定に関与した政府関係者は、データ交換を活性化させ、ダイナミックな市場を創出すべく、公正で中立的な信頼できる第三者機関を前提としたデータ取引市場の機能を検証するための概念実証の取り組みを支持することを表明しています。
「信頼と公益性の確保を通じてデータを安心して効率的に使える仕組みを構築するために、データ取引市場は重要です。本報告書に基づいて、今後、世界経済フォーラムの取り組みが行われ、データ取引市場の実現に寄与されることを期待しています」と、日本政府の内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室参事官の田邊光男氏は述べています。
数年に渡る取り組みのスタート
今年前半に発表された白書「Data-Driven Economies: foundations for our Common Future(データ駆動型経済:共通の未来のための基盤)」を含む、こうしたプロジェクトは、DCPIによるこの先数年を見据えたイニシアチブの基盤です。データ取引などデータ共有ツールを組み込んだ新しい経済モデルを実証するとともに、データの責任ある公正で倫理的な利用に向けたパラメーターを取りまとめることを目的としています。
今後もDCPIでは、グローバルで将来を見据えた相互運用性と応用可能性を視野に入れつつ、責任あるデータ共有とプライバシーポリシーに根ざした倫理的なデータ取引を実証していきます。こうした取り組みは官民パートナーからなる世界経済フォーラムのユニークなグローバルネットワークを活用しています。
第四次産業革命ネットワークにおける他のコミュニティでも、こうした取り組みに貢献していきます。例えば、第四次産業革命コロンビアセンターでは、メデリン市の「Valle de Software」計画の一環として試験的に実施したケーススタディ・プロジェクトとガバナンス・フレームワークの成果を年内に発表する予定です。この計画では市民への公共サービスをデジタル化することを目的としたスーパーアプリなどを活用し、データを戦略的な資産とすることでインフラ、モビリティ、エネルギーなどの課題を解決していきます。
「国境を越えたコラボレーション、そして責任と倫理に根ざしたデータ共有のモデルによって、第四次産業革命のテクノロジーがもたらす変化からすべての人が恩恵を受けることを担保できるようになるのです」と、世界経済フォーラム第四次産業革命センター長代理の、シーラ・ウォーレンは述べています。
<参考>
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