世界経済フォーラム パブリック・エンゲージメント・リード 栃林直子
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スイス・ジュネーブ、2021年4月19日 – 世界経済フォーラムが発表した最新の「効果的なエネルギー転換の促進2021年報告書」では、各国がクリーンエネルギーへの転換を進めていく上で進歩が後戻りしないようにするためには、経済・政治・社会の慣行においてエネルギー転換を定着させることが重要であるとしています。
同報告書の第10版は、2021年エネルギー転換指数(ETI)から得られた所見をもとにアクセンチュアと共同で発行されました。この指標は115か国を対象に、経済発展と成長、環境の持続可能性、エネルギーセキュリティとアクセスの指標というエネルギートライアングルの3つの側面におけるエネルギーシステムの現在の状態と、安全で持続可能、安価で包括的なエネルギーシステムへの転換に向けた準備状況を評価するものです。今年の報告書では、世界のエネルギー事情の変化や気候変動対策の緊急性の高まりを考慮して見直されたETI手法が用いられています。
「気候変動に 対応するための 行動とその実現をこの10年で達成するにあたり、スピードとレジリエンス(適応、回復できる力) の確保に焦点を移していく必要があります。エネルギー転換が簡単に達成できる目標を超えて進んでいくにつれ、エネルギー転換に対するリスクの状況が変化していることから、 持続的で漸進的な進歩を持続するのは困難になるでしょう」と、世界経済フォーラムのロベルト・ボッカ部長は述べています。
2021年の結果を見ると、ETIに記録された115か国のうち92か国が過去10年間で総スコアを伸ばしていることから、世界のエネルギー転換は進んでおり、これは着実なモメンタムがあることが分かります。
環境の持続可能性とエネルギーアクセスとセキュリティの面では大きな改善が見られました。経済大国10か国のうち8か国が今世紀半ばまでにネット・ゼロを達成することを公約しています。パンデミック(世界的大流行)にもかかわらず、エネルギー転換に向けた世界の年間投資額は2020年に初めて5,000億ドルを超えました。電気のない生活をしている人々は10年前(2010年)の12億人から8億人以下に減少しています。再生可能エネルギー容量の増加は、特にエネルギー輸入国が環境の持続可能性とエネルギー安全保障を同時に進展させる上で役立ちました。
それでもなお、過去10年間にETI年次スコアが安定して平均以上に増加した国は全体の10%にも満たないという結果が出ています。この結果はエネルギー転換の課題に内在する複雑さを浮き彫りにするもので、主にエネルギー転換に起因する財政への影響、労働市場の混乱、経済的な余裕の問題など、経済発展と成長の面で目に見える進展がないことからも明白です。さらにアジアやサハラ以南のアフリカの多くの新興国では、エネルギーミックスにおける炭素強度が増加しています。
アクセンチュアのグローバル・エネルギー産業担当シニア・マネジングディレクターのムクシット・アシュラフ氏は、「持続可能でタイムリーな結果につながるレジリエントで公正なエネルギー転換を実現するには、私たちの生活や仕事、経済活動、モノの生産・消費の方法を再考するなど、システム全体の変革が必要です」と述べています。また「そのためには政策立案者、ビジネスリーダー、エネルギー消費者、イノベーターの間の確固とした協力が必要です。このようなバランスのとれた転換を実現するための道のりは困難で遅々として進まないものでしたが、今や勢いが増しており、長期的な成長と繁栄に向けた多くの機会を国や企業に提供しています」と述べています。
エネルギー転換の社会的、経済的、地政学的な相互関係は、システミックなリスクや混乱に対する脆弱性を露呈し、エネルギー転換の前進を脅かす可能性があります。本報告書では、エネルギー転換プロセスのレジリエンスを高めるために、以下の3つの提言を行っています。(1) 経済、労働、社会を支えるための施策を優先し、公正な転換を追求する (2) 産業の脱炭素化のための他の選択肢を模索しつつ、電化を促進する (3) 官民を問わず、多様で弾力性のある資金源を集め、数年、数十年にわたる投資を行う。
アクセンチュアのユーティリティプラクティス グローバル統括のシニア・マネージング・ディレクターのステファニー・ジャミソン氏は、クリーンエネルギーへの道のりにおいてレジリエンスは非常に重要な概念であるとして、次のように述べています。「エネルギーシステムにおける電気の役割は2050年までに大幅に増大し、大きな変革が起こります」、「新型コロナウイルス感染拡大後に再生可能エネルギー源がより強固になるとしたら素晴らしいことですが、低炭素エネルギーへの転換をさらに進め、幅広いステークホルダーの賛同を得るためにやるべきことはまだまだたくさんあります」。
ETI2021年各国の概要
今年の報告書は過去10年間における進展を辿るものです。この期間中、ETIスコアで上位を占める国の顔ぶれは概ね同じであり、化石燃料への助成金が少ないこと、エネルギー安全保障が充実していること、エネルギー転換を推進する規制環境が整っていることなどが共通しています。2021年ETIにおける上位10か国は西欧と北欧の国です。スウェーデン(1位)は4年連続で1位となり、ノルウェー(2位)とデンマーク(3位)が続きます。強力な政治的コミットメントとエネルギー転換への投資の支えもあり、上位10か国すべてにおいて環境の持続可能性、特にエネルギーミックスの炭素強度の低減で大きな改善が見られました。
G20で上位20か国に入ったのは英国(7位)、フランス(9位)、ドイツ(18位)のみ。これらの国々は、経済成長と開発の面ではアフォーダビリティの問題から、スコアは過去10年の間後退していますが、環境の持続可能性では高い評価を受けています。
米国(24位)とイタリア(27位)ではエネルギートライアングルの3つの側面すべてにおいて改善が見られ、同時にそれを実現する環境も強化されています。日本(37位)では、エネルギー効率の向上で一人当たりのエネルギー消費量が大幅に減少したことなどによってETIスコアが緩やかに改善したものの、エネルギー輸入量の増加により、エネルギー安全保障上の課題を抱えています。
合わせて世界のエネルギー需要の3分の1を占める中国(68位)とインド(87位)は、エネルギーミックスにおいて石炭が依然として重要な役割を果たしているにもかかわらず、過去10年間で大幅な改善を達成しています。中国における改善は主に、経済のエネルギー集約度の低下、再生可能エネルギーの拡大によるエネルギーミックスの脱炭素化、投資やインフラによる環境整備の強化によるものです。インドは、エネルギー転換のための強力な政治的コミットメントと合わせて、助成金改革とエネルギーアクセスの急速な拡大を通じた改善を目標としています。
一次産品輸出国のうち、カナダ(22位)、オーストラリア(35位)、ロシア(73位)、サウジアラビア(81位)は豊富な国内資源埋蔵量を背景にエネルギーアクセスと安全保障の面で世界をリードしていますが、過去10年間の軌道は国によって違います。オーストラリアは再生可能エネルギーへの投資と容量を持続的に増加させ、石炭を段階的に廃止することでスコアを向上させました。ロシアは再生可能エネルギーの導入率が低く、化石燃料の輸出量が多いものの、エネルギー転換のための環境整備が進み、スコアが向上しました。カナダとサウジアラビアのスコアはわずかに低下しました。
<参考>
各国における転換とベンチマーキング(Country Transition and Benchmarking)に関する取り組み
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