サーキュラーエコノミー

エネルギー効率改善におけるサーキュラリティ~今こそ行動すべき理由〜

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アップグレードまたはリノベーションとも呼ばれるエネルギー効率改善によって、温室効果ガス(GHG)排出量を削減し、気候変動に対するレジリエンス(強靭性)を高めることができます。 Image: Shutterstock/hxdbzxy

Sebastian Reiter
Partner, McKinsey & Company
Anis Nassar
Lead, Circular Economy Innovation and Business Engagement, World Economic Forum
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本稿は、以下会合の一部です。持続可能な開発インパクト会合2024
  • エネルギー効率改善の市場は、2024年の5,000億ドルから、2050年にかけて毎年前年比8%増の39,000億ドルに成長すると予想されています。
  • 建造環境のエコシステムは、エネルギー効率改善というこの大規模な波を前にして、材料を再循環させ、バージン材料の利用を削減する必要があります。
  • この成長市場でより多くの価値を獲得するために、循環型エコシステムに向けて素材・部品メーカーが取ることのできる4つのアクションがあります。

建造環境は、私たちの家やアパートから、仕事、買い物、社交の場である商業・工業スペースに至るまで、人間生活のあらゆる側面に関わる建物とインフラで構成されています。グローバルな温室効果ガス(GHG)排出量の約26%を占めるのが、このエコシステムです。

エネルギー効率改善(アップグレードやリノベーションとも呼ばれます)は、こうしたGHG排出量を削減し、異常気象が構造物に与える影響を緩和して気候変動に対するレジリエンス(強靭性)を高めることができます。その一例として、運用エネルギー効率の改善、耐用年数の延長、内包二酸化炭素排出量の削減、法規制の遵守を目的とした既存資産のアップグレードが挙げられます。

また、新築に比べて総所有コストを削減し、建設期間を短縮することも可能です。

こうしたことから、マッキンゼー*の分析によるとエネルギー効率改善改修の市場は、2024年の5,000億ドルから、2050年にかけて毎年前年比8%増の3兆9,000億ドル規模に拡大すると予想されています。この分析には、暖房・換気・冷房システム、外装(屋根、断熱材、窓、ドア、被覆材)、照明、家電製品が含まれます。より大規模な改修は、構造的・土木的要素に対処するものですが、この分析には含まれていません。

Bar chart showing global growth of energy-efficiency retrofits.
ネットゼロを達成する改修目標は、エネルギー効率改善の市場浸透を促進するでしょう。 Image: McKinsey, IEA, European Commission, UN Global Alliance for Buildings and Construction, market reports

とはいえ、エネルギー効率改善にはバージン原料(加工せずに自然から直接抽出された資源)が使用され、まだ機能的に利用可能な既存の材料が取り除かれることがあるため、廃棄物に関する課題が生じることも少なくありません。

クローズドループ型システムを構築することで、資源を最適化し、生産・消費時の廃棄物を最小限に抑えるサーキュラリティ(循環性)が役立つのは、まさにこの部分です。

拡大するエネルギー効率改善市場で求められる素材とは

ネットゼロを達成するためには、改修率を約3%まで高めて、2030年までに既存資産の20%を改修する必要があります。これは、2023年から2050年までに、エネルギー効率改善のために数百億トンの材料が必要になることを意味します。マッキンゼーの分析*によると、これらの材料には、プラスチック、ミネラルウール、ガラス、アルミニウム、平鋼、コンクリートなどが含まれます。

英国ケンブリッジのエントピアビルのような最近の事例は、循環型改修の原則と現場で材料を再利用するメリットを示しています。同ビルの建設中、5,000以上の物品が埋立地から転用され、約3.8トンの鉄骨部分が再利用されて、二酸化炭素換算で2,000キログラムを削減することができました。標準的なオフィスの改修に比べて、全体で1平方メートルあたり84%の二酸化炭素を削減することができたのです。

エネルギー効率改善産業が循環型バリューチェーンを構築する仕組み

エネルギー効率改善によって期待される削減分は、業界が循環型バリューチェーンを構築しない限り実現できません。サーキュラリティへと移行することで価値を獲得できる改善バリューチェーンには、次の7つの重要な要素があります。

Seven key parts of the energy-efficiency retrofit value chain that can capture value from the move to circularity.
エネルギー効率改善市場の拡大に伴い、素材・部品メーカーがより多くの価値を獲得する方法。 Image: McKinsey & Company

現在、素材・部品メーカーは、アップグレード業者および改修業者に素材を販売することで収益をあげており、その商品原価はバージン原料のコストと多大なエネルギー消費に左右されています。循環型エコシステムへの移行に伴い、素材・部品メーカーが成長するエネルギー効率改善市場の価値の一部を獲得するには、初期に次の4つのアクションを取ることが有効です。

1. 製品の透明性の向上

これには、「環境製品宣言(EDP)」およびマテリアル・パスポートといったライフサイクル情報の提供が含まれます。また、メーカーはリサイクル材を多量に使用した「グリーン部品」の開発、「リユース」専用の部品ラインを設けて収益を増やすこともできます。

材料によっては、少し価格が高くても、エンドツーエンドのトレーサビリティを可能にする完全なライフサイクル情報を備えたグリーン素材および部品の購買意欲が高まる可能性もあります。最近のマッキンゼーの調査(非公表)によると、意思決定者の80%近くが、グリーンガラスなどに対してプレミアム価格を支払うことに前向きです。

2. 既存顧客向けの付加価値型後付け改修サービスの創出

既存メーカーは、すでに使われている素材を補修・改良して耐用年数を延ばすなど、改修ファーストのサービスを提供することができます。例えば、被覆材メーカーは、新基準に適合していない製品および補修が必要な製品を、再循環材料を使用した代替品に置き換えることができるでしょう。

3. 改修バリューチェーンの水平統合

水平統合により、企業の市場シェアが拡大する可能性があります。これには、技術者のための循環型材料の仕様や調達といった川上のサービスと、専門家による設置サービスなど川下のサービスの両方を提供することが含まれます。マッキンゼーの分析*によると、循環型ビジネスモデルおよび修理、補修、改修サービスを含む循環型サービスを取り入れた結果、収益が10%から20%増加した企業もあります。

また、専門的な改修サービスを提供することにより、不動産向けの断熱施工を専門とする労働者の不足など、市場のペインポイントに対処することもできます。

4. 引き取りメカニズムの構築

他の改修資材メーカーおよび部品メーカーと協力することにより、バージン原料のコストを削減し、循環型の原料を確保することができます。このような取り決めには、都市鉱山やリバース・ロジスティクスが関与していることが多く、例えば、アルミニウムやガラスの専門企業が提携して、建物のファサードから貴重な材料を解体・抽出することが挙げられます。

これにより、クローズドな材料ループが形成され、コスト、環境への影響、バージン素材への依存が削減されます。

エネルギー効率改善におけるサーキュラリティは、金銭的な価値に留まりません。アクションの実施により、バージン素材への依存度とエネルギーコストを削減し、環境価値も生み出すことができます。また、新たな雇用を創出し、重工業が地域社会に与える影響を軽減するという形を通じて、社会的価値も生み出します。

これらすべての鍵を握るのは、規制と安定性です。エネルギー効率改善におけるサーキュラリティは、建造環境にとって大きなチャンスです。しかし、このチャンスをつかむためには、業界のプレーヤーが今すぐ行動を起こさなければなりません。

*本記事で取り上げた図表とマッキンゼーの分析は、国連、欧州委員会、国際エネルギー機関など、さまざまな情報源からのデータを使用しています。世界経済フォーラムは、分析の基礎となるモデルのレビューを行っていません。

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拡大するエネルギー効率改善市場で求められる素材とはエネルギー効率改善産業が循環型バリューチェーンを構築する仕組み1. 製品の透明性の向上3. 改修バリューチェーンの水平統合4. 引き取りメカニズムの構築

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