エネルギー転換

急増するデータに対処するサステナブルな方法

データ量は増加の一途をたどっています。

データ量は増加の一途をたどっています。 Image: Unsplash/Campaign Creators

Bart Valkhof
Head, Information and Communication Technology Industry, World Economic Forum
Eleni Kemene
Lead, Industry Decarbonization, Chemicals Sectors, World Economic Forum
Justin Stark
Manager, NA Sustainability: Net Zero Transitions, Accenture
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本稿は、以下センター(部門)の一部です。 エネルギーとマテリアル
  • デジタルトランスフォーメーションの進行、AIの成長、モバイル・データ・ネットワークに対する需要の増加、仮想通貨マイニングなどにより、データ量が急増しています。
  • 必要な計算能力の急激な高まりにより、電力価格は高騰し、エネルギー供給網に負担がかかり、排出量は削減するどころか増加する恐れがあります。
  • こうした課題が、世界経済フォーラムのエネルギーとマテリアル部門、および「クリーン電力、グリッド、電化」イニシアチブの中心テーマです。この課題に持続的に対応するためのエネルギー・イノベーションとセクターを超えたコラボレーションについて、3人の専門家の意見をまとめました。

181ゼタバイト。これは、2025年に世界中で作成、取得、コピー、消費されると予想されるデータ量で、2020年の約3倍に相当します。

データ量は、経済のデジタルトランスフォーメーションの進行、AI(人工知能)の急成長、モバイル・データ・ネットワークに対する需要の増加、仮想通貨マイニングによって大幅に増加しています。

データ量の増大は、これまで以上に高い計算能力を必要とし、その結果、データセンターでも、通信やデータネットワークなどの通信インフラ全体でも、電力需要が増大します。電力システムには、この拡大に対応するための支援が必要です。温室効果ガス排出量(GHG)にも影響を与えるでしょう。情報通信技術(ICT)産業のグローバル拠点は、サステナブルな電力を十分に確保する上で、特に大きな課題に直面することになります。

これらの連動した懸念に対処するため、電力セクターとICT業界は、増大する需要と電力システムの供給能力のバランスを取りつつ協調する必要があります。

デジタルトランスフォーメーションが進むにつれ、データ量は急激に増加しています。
デジタルトランスフォーメーションが進むにつれ、データ量は急激に増加しています。 Image: Statista/IDC/Seagate

ICTエネルギー使用量急増の理由

データセンター(DC)などで処理能力を拡大するには、より多くの電力が必要です。特に懸念されるのは、AIモデルとそのアプリケーションの急速な成長に伴う必要計算能力の増加によって、電力需要が急増することです。

国際エネルギー機関(IEA)によると、サーバーのような追加機器だけでなく、データ処理による膨大な熱の蓄積に対処するために不可欠な冷却システムなどその他のシステムにも、さらなる電力が必要です。

データセンター(DC)、仮想通貨、AIによる電力需要は、現在の460 TWh(テラワット時)に対し、2026年には1,000 TWhに達する可能性があるとIEAは予測しています。

データをその生成地点から処理地点へ転送するための通信ネットワークも、DCのエネルギー負荷の一因です。

IEAの最新の統計によると、DCと通信ネットワークはグローバルな電力消費の2~3%、GHG排出量の1%を占めています。しかしこの値は、拡大のペースが最低の見積もりにとどまったとしても、著しく上昇することが予想されています。

DC、AI、仮想通貨は、データ量増加の主な要因の一部です。
DC、AI、仮想通貨は、データ量増加の主な要因の一部です。 Image: IEA et al

過去数年間で、各社独自に設けられることの多い小規模DCからよりエネルギー効率の高いハイパースケールのクラウド型DCへの移行がますます進んでいます。

ただし、モノのインターネット(IoT)テクノロジーの拡大成長は、他の高速データ・アプリケーションとともに、5Gモバイルネットワークに依存しています。5Gのハードウェアは本質的にエネルギー効率が高いとはいえ、5Gネットワークの拡大は、現在の4Gネットワークと比較してエネルギー消費を140%も増加させる可能性があります。フィナンシャル・タイムズ紙によると、これは主に、より多くの基地局が必要になるためです。

もうひとつの要因は、エッジ型データセンター(EDC)の増加です。IoTや、高速かつローカルなデータ処理を必要とするテクノロジーは、ネットワークのエッジ部分や接続されたデバイスにより近いところでデータを処理するエッジコンピューティングを利用します。小規模でオンサイトのEDCでデータを分析すればターンアラウンドタイムを大幅に短縮できますが、地域の電力網をさらに圧迫することになります。

フィナンシャル・タイムズ紙は、クリーン発電がこのような多面的な成長への対応に苦慮し、その結果GHG排出量が増加することになると業界関係者が懸念を表明していると報じています。アクセンチュアの調査によると、これにより2016年以降増加傾向にある同セクターの排出量増加に拍車がかかるとのことです。

ICTセクターは排出量の増加と戦っています。
ICTセクターは排出量の増加と戦っています。 Image: Accenture

特定の地域が他の地域よりも影響を受ける理由

世界の主要なDCハブでは、十分な電力を供給しつつ、GHG排出量を管理することが特に困難になります。これには、世界の「DCの首都」であるバージニア州北部や多くの北欧諸国が含まれます。また、世界最速のインターネット・スピードと低コストの電力に恵まれたシンガポールや、冷涼な気候、良好なグローバル接続、受け入れに適した経済・税制がDCの成長に拍車をかけているアイルランドなど、小規模な地域にも重要なハブがあります。

大規模なDCハブがある多くの国では、電力網と国の気候目標への圧力を管理するため、DCの新設と関連インフラに対する規制をすでに導入しています。

シンガポールは、DC新設に対する4年間の一時的な停止措置を取っていました。この措置は2023年に終了しましたが、エネルギーやスペースの制約を考慮して、新しいライセンスの発行には引き続き慎重な姿勢を崩していません。同国の規制当局は、シンガポールのネットゼロ目標に沿ったグリーンDCのロードマップにも取り組んでいます。

アイルランドのエネルギー供給網においても、国の送電網の容量が懸念され、計画停電の恐れがあることから、2022年から2028年まで、ダブリンでの新規DCの接続を一時停止しています。しかし、IEAの最新データによると、ダブリン島のDC向けエネルギー消費量は依然として2倍以上にまで増加している上、他の地域でも劇的な増加が見込まれています。

米国、欧州、アジアにある世界最大のDCハブでは、電力需要が大幅に増加する見込みです。
米国、欧州、アジアにある世界最大のDCハブでは、電力需要が大幅に増加する見込みです。 Image: IEA et al

ICTセクターが電力消費を削減するための方法

DC事業者は特に、コスト削減のためだけでなく、環境コンプライアンスの観点からも、電力使用の効率化を推進してきました。格段の性能向上により、DCのエネルギー需要の増加はグローバルに抑制されてはいますが、DCの広がる規模とスピードを考えると、将来のデータ増加に対応し、排出量目標を達成するためには、さらに多くの対策を取ることが必要です。

中でも、新たな高効率冷却技術とAIを活用したDC運用の最適化は大きな可能性を秘めています。例えばグーグルは、ディープマインドAIの助けを借りて冷却電力の40%削減を達成しました。

銅線から光ファイバーへの置き換えが進めば、通信ネットワークのエネルギー効率が向上します。一方、計算処理を行う場所をグリーン電力が豊富な地域にシフトすれば、排出量削減に役立つ可能性があります。

その他の有望なアプローチとしては、必要な処理量を可能な限り少なくすることを目指すグリーンコーディングや、マサチューセッツ工科大学(MIT)リンカーン研究所スーパーコンピューティングセンターによる、処理能力の上限を設定し、AIモデルのトレーニングでの使用量を最適化する取り組みなどがあります。

一方、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)に代わるものとして、小規模言語モデル(SLM)が台頭しています。SLMが使用するパラメーターは、LLMに比べてごくわずかです。複雑なデータパターンを認識し、そこから推定する広範なLLMの能力は持たないものの、特定の目的に合わせて非常に効率的かつ効果的に機能するよう設計されているSLMは、高品質な出力を保ちながらも処理が軽く、リソースの消費がはるかに少ないのです。

MITはまた、データ処理向けに家庭用検針票に相当するものを作成することで、エネルギー意識の向上に取り組んでいます。その目的は、ユーザーが自分の処理タスクがどれだけのエネルギーを消費しているのか、二酸化炭素排出量は他と比べてどうなのか、どうすれば改善できるのかを理解することです。MITの研究者によれば、同大学のアプローチは、特に包括的な業界データがまだ不足しているICT業界にとって、より広範なモデルになる可能性があるとのことです。

また、デマンド・フレキシビリティ・ソリューションも、エネルギー需要の増加が送電網に与える影響の管理に役立ちます。例えば、デマンドレスポンス(需要調整)とピークシフトを取り入れることで、DCや通信インフラがピーク時の電力使用を減らし、需要(および価格)が低い時間帯に切り替えられるようにするなどです。

米国は世界で最もDCの数が多い国です。
米国は世界で最もDCの数が多い国です。 Image: Statista

データ使用量の増加と送電網の容量を管理する上でコラボレーションが鍵となる理由

ICT企業が行動することはエネルギー消費量の増加を管理する上で極めて重要ですが、それだけでは将来のエネルギー需要に対処するには不十分であり、他にも多くの取り組みが必要です。化石燃料から電化への移行に伴い、輸送、重工業、消費者行動などの分野でも電力需要が増加しています。

このようなモメンタムがあり、それに伴ってクリーンな電力への需要が高まる今、新たなインフラの建設がボトルネックになる可能性があります。許認可プロセスに阻まれ、長期化することも多々あるためです。

拡大する需給ギャップを埋めるには、より広範な関与が必要です。企業、送電網事業者、計画立案者、規制当局のすべてが協力して、ホリスティック(全体論的)な解決策を見出す必要があるのです。そのためにICTセクターは、クリーンな電力需要を牽引している他の産業セクターから学び、協力を得る必要があります。このような協力的なアプローチを可能にするためには、事業に関わる機密情報の開示を避けながら、データとDCの成長予測を業界間、そして規制当局と共有する安全な方法を見つける必要があります。

そしてそれは、地域や国内、国際レベルで行われる必要があるのです。特に、地域間で一貫性のある規制環境を構築する上で国際レベルでの協力が極めて重要です。統合的なアプローチは、ICTのバリューチェーン全体におけるエネルギー排出量の算出と報告の改善から、新たなエネルギー効率化の取り組み、代替エネルギーソリューションの開発まで、あらゆる面で役立つでしょう。

そして最後に、私たち全員が果たすべき役割があります。ICTは電力を必要としますが、それは私たちの社会がデータを必要とするからです。個人として、組織として、私たちは保持または消費するデータを抑制し、二酸化炭素排出量の削減を検討する必要があるのです。

エネルギー需給を形成する変化しやすいダイナミクスの管理に関する詳細は、世界経済フォーラムの「 Secure, Sustainable and Equitable Energy Systems – Centre for Energy and Materials(安全で持続可能かつ公平なエネルギーシステム - エネルギーとマテリアル)」および「クリーン電力、グリッド、電化」イニシアチブをご覧ください。

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Hidemitsu Kibe

2024年5月16日

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