新興テクノロジー

インド農業に変革を - AIがソリューションに

Using AI for agriculture has transformed the chili farming for many in India.

AIを農業に活用することで、インドの唐辛子農業が一変しました。 Image: Jonathan Niederhoffer/Stocksnap

Jeremy Jurgens
Managing Director, World Economic Forum
Purushottam Kaushik
Head, Centre for the Fourth Industrial Revolution, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム年次総会2024
  • インドの自給自足農家は、家族を支えるために異常気象や経済的困窮と闘っています。
  • 「農業イノベーションのためのAI(AI for Agriculture Innovation)」イニシアチブは、インドの農業生産者とワークショップを開催し、彼らがより効率的に農業を行い、より多くの収入を得るために必要なAIツールへのアクセスを支援する方法を探りました。
  • このイニシアチブでは、チャットボットによるアドバイザリーサービス、AIベースの品質検査、買い手と売り手をつなぐデジタル・プラットフォームにより、インドのカンマム地区の唐辛子農業を変革しました。参加した農業生産者は、収入が倍増したと報告しています。

小規模農家のクリシュナは、インドのテランガナ州にある半ヘクタールの畑を毎日懸命に耕作しています。収入は月120ドル。家族の基本的な生活をかろうじて満たせる額です。

しかし、予測不可能なモンスーン、頻繁な干ばつ、害虫被害などに見舞われ、収穫量が減少することもあり、気候変動による気候パターンや土壌の健康状態の変化による影響とも闘わなければなりません。銀行を利用できないため、地域の高利貸しに頼らざるを得ず、それでも、そのお金で購入しようとする種子、肥料、農薬といった不可欠な資源は常に手に入るとは限りません。

収穫後に彼が直面するもうひとつのハードルは、サプライチェーンの他の部分で40%もの廃棄が出ることです。物流、倉庫保管、農産物を販売する市場へのアクセスも、彼のような多くの農業生産者にとって大きな課題です。

買い取り先や加工業者が設定する厳しい品質要件を満たすことも非常に困難です。このような農業生産者は、収入が少ないために次の作物サイクルに投資できる額が下がり、自給自足の農業サイクルに陥ってしまいます。精密農業、デジタル市場へのアクセス、ドローンなど、農作業を容易にする新たなテクノロジーは、彼のような小規模農家の多くにはまだ手が届きません。彼らは、機器を購入する余裕がなく、テクノロジーへのアクセスも限られている上、新たなテクノロジーを適切に導入するためのプロセスを調整する時間的余裕さえもないことが多いのです。

小規模農家は、価格の下落や需要の低下によって損失を被ることが多いため、市場供給と価格変動のダイナミクスが課題に拍車をかけます。

Loading...

インドの他の約1億2,500万戸の小規模農家と同様に、クリシュナもこうした厳しい課題に直面しながら自身と家族を支えています。このような農業生産者にとって、農業は大きなリスクとわずかなリターンしかないギャンブルなのです。インドでは、何千人もの農業生産者が自殺しており、経済的な絶望や気象がもたらす課題が人々に影響を与えています。

これは、インドに限ったことではありません。開発途上国では、推定5億の小規模農家が約20億の人々を支え、アジアとサハラ以南のアフリカで消費される食料の約80%を生産しています。クリシュナや世界中の小規模農家の苦境に対処し、よりサステナブルで公平な未来を創造するためには、金融におけるインクルージョンと気候変動へのレジリエンス(強靭性)を考慮したホリスティック(全体論的)でスケーラブルなアプローチが必要です。

農業イノベーションにAIを活用

世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンターが、インド連邦農業省およびテランガナ州と共同で「AI4AI(農業イノベーションのためのAI)」イニシアチブを立ち上げたのはこのためです。課題の複雑さを反映し、産業界(農業資材、消費者、食品加工、金融、保険、テクノロジー企業)、スタートアップ・エコシステム、農業生産者組合などの組織が参加しています。

同イニシアチブは、2020年6月から8ヶ月間にわたり45以上のワークショップを開催し、小規模農家が直面する課題に対して第四次産業革命がどのように支援できるかについて議論しました。こうした議論は、AI、ドローン、ブロックチェーンなど新たなテクノロジーの力を活用して小規模農家を支える「AI4AI計画」につながりました。

Infographic showing the AI4AI frameworks for using AI for agriculture to help smallholder farmers access new technology.
AIを農業に活用することで、作物の栽培計画から販売まですべてをサポートすることができます。 Image: AI4AI Community Paper, March 2021

フレームワークからインパクトへ

私たちは、インドのテランガナ州カンマム地区で、7,000人の農業生産者を対象にAI4AIのフレームワークをテストしました。産業界やスタートアップのパートナーを巻き込み、州政府と共に開発したデータ管理ツール(農業データ交換システム農業データ管理フレームワーク)を使用し、この大規模な農業生産者グループでの取り組みを拡大したのです。

現地で「Saagu Baagu」と名付けられたこのイニシアチブは、チャットボットによるアドバイザリーサービス、土壌検査技術、AIベースの品質検査、買い手と売り手をつなぐデジタル・プラットフォームを使い、カンマム地区の唐辛子農業を変革しています。

パイロット試験の完了には18カ月、3回の収穫サイクルを要しました。この間、参加した農業生産者は、1作期(6カ月)で1エーカー当たり800ドル(平均収入の実質2倍)と、純収入の著しい急増を報告しました。デジタルアドバイザリーサービスにより、1エーカー当たりの唐辛子収量は21%増加し、農薬の使用量は9%、肥料は5%減少。また、品質が向上したことで、単価が8%上昇しました。

同イニチアチブは、農業生産者の大きな前進に寄与しただけでなく、AI4AIが設定した持続可能性と効率性の目標も達成しました。その結果、2023年10月、州政府はSaagu Baaguの活動の対象を、10地区にわたる5つの作物を生産する50万人の農業生産者へと拡大しました。

デジタル農業の可能性を引き出す

グローバルサウスの国々の多くが、食料安全保障の確保、気候変動の影響の緩和、人々の生活向上といった課題に取り組む中、このインドのアグテック(農業技術)イニシアチブは、AIを農業に活用することで有望な結果を示しています。各国政府、産業界、慈善活動家、イノベーター、農業生産者が連携することで、食料安全保障、持続可能性、持続可能な開発目標(SDGs)との整合性が確保されたデジタル農業プログラムを実施するための国家的枠組みを構築することができます。

農業生産者は、このようなデジタル・プラットフォームを通じて教訓や成功事例を共有することで、AIを農業に活用するための貴重な知見やエビデンスに基づく戦略を得ることができます。こうしたイニシアチブを通じてイノベーションが加速され、デジタル農業における世界的な取り組みが導かれれば、世界中で、持続可能性、インクルージョン、効率性、栄養改善が促進されるでしょう。

このトピックに関する最新情報をお見逃しなく

無料アカウントを作成し、パーソナライズされたコンテンツコレクション(最新の出版物や分析が掲載)にアクセスしてください。

会員登録(無料)

ライセンスと転載

世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。

この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

最新の情報をお届けします:

AIとロボティクス

関連トピック:
新興テクノロジー世界経済フォーラムの取り組み産業の深層
シェアする:
大きな絵
調さしモニターする AIとロボティクス は、経済、産業、グローバルな問題に影響を与えています。
World Economic Forum logo

アジェンダ ウィークリー

グローバル・アジェンダとなる、重要な課題のウィークリー・アップデート

今すぐ登録する

日本が、宇宙産業の主要なプレーヤーであり続ける方法

Hazuki Mori and Soichi Noguchi

2024年12月20日

ビジネスリーダーが、デジタルを超えた変革のマインドセットを採用する方法

世界経済フォーラムについて

エンゲージメント

  • サインイン
  • パートナー(組織)について
  • 参加する(個人、組織)
  • プレスリリース登録
  • ニュースレター購読
  • 連絡先 (英語のみ)

リンク

言語

プライバシーポリシーと利用規約

サイトマップ

© 2024 世界経済フォーラム