日本の早期警報システムに見る、効果的な気候変動適応策
国連事務総長は、2027年までに全世界を包括的な早期警報システムでカバーすることを目指すイニシアチブ「すべての人に早期警報システムを(EWS4All: Early Warnings for Al)を立ち上げました。 Image: Daniel Dennison (State of Hawaii).
- 気候変動の影響により、山火事や洪水などの自然災害が増加しています。
- 早期警報システムは、世界中の気候変動適応策を加速させるでしょう。
- その可能性を浮き彫りにしているのが、早期警報システムへの日本の革新的なアプローチです。
原因の特定には、おそらくまだ1、2ヵ月要すると思われますが、このような自然災害が気候変動による影響であることは明らかです。
過去50年間で自然災害は5倍に増加し、この傾向は悪化の一途を辿っています。昨年だけで、自然災害による被害額は約2,700億ドルに上り、災害リスクの増大は気候変動がもたらしている最も大きな影響のひとつです。
気候変動は、インフラを破壊し、サプライチェーンを崩壊させ、財政的・社会的負担を増大させる災害の頻度を高めています。
過去20年間で発生した大規模災害は3,000件以上。42億人が被害を受け、2兆9,700億ドルの経済的損失をもたらしました。1980年以降、米国では少なくとも360件の気候関連災害が発生し、その被害総額は約2兆5,000億ドルにもなります。
早期警報システムとは
災害とその影響はそれぞれ異なりますが、早期警報システムは、世界のどこにでも導入することできる画期的なソリューションです。
早期警報システムは、重要な情報を当局やコミュニティにタイムリーに提供するもので、何年も前から存在しています。しかし、各国が気候変動への適応に向けて真剣に投資をする必要がある今、その重要性はますます高まっています。
迫り来る危険事象をわずか24時間前に通知するだけで、それがもたらす被害を30%軽減することができる早期警報システム。国連をはじめとする世界的なイニシアチブは、強力な早期警報システムについて、気候変動への対応策の中では比較的容易に実現できるものであり、実用的な適応策や必要な資金の正確な見積もりに役立つと認識しています。
しかし、残念ながら現実は異なります。現状は、3人に1人がいかなる早期警報システムにもカバーされていません。
この状況を改善するため、国連事務総長により、イニシアチブ「すべての人に早期警報システムを(EWS4All: Early Warnings for Al)」が立ち上げられ、2027年までに全世界を包括的にカバーする早期警報システムを構築することを目指す取り組みが進められています。
しかし、こうした野心的な取り組みには、大幅な技術的進展、情報の普及・伝達の強力な調整メカニズム、人を中心に据えた災害リスク管理、強固な対応と準備体制が必要となります。
早期警報システムを活用する日本
日本は、早期警報システムの潜在能力を最大限に引き出し、効果的な革新、開発、実施することにおいて、世界をリードしてきました。
日本は、優れた早期警報システムの活用において、先進的な技術の導入や制度の整備、異なる規模・レベルでのコミュニティエンゲージメントという重要な3つの要素を発展させてきました。
スーパーコンピューター、気象衛星、レーダー、そして、1,300の観測所からの水文気象データを気象庁に自動的に送信することで革命を起こした気象予報システム「アメダス(地域気象観測システム)」などを活用して、タイムリーな検知と災害予測のための技術革新が進められてきました。また、スマートフォン用アプリも開発され、市民の情報判断に役立っています。
2015年には、日本は世界で初めて、台風の発生を2週間前に予測できることを実証しました。最近では、3次元予測モデルを備えた2番目に高速なスーパーコンピューター「富嶽」を使って、ゲリラ豪雨の発生を正確に予測しています。
IoT(独自に開発された高品質のセンサーを使用したもの)とAI(人工知能)の利用が増加し、水文気象サービス、地震・津波事象における地域の正確な予測に革命的な変化が起きており、日本の国立研究機関、大学、民間企業は、技術研究開発を積極的に進めています。
気象庁、地方機関、地域機関との強力な連携メカニズムが、タイムリーで明確かつ信頼性ある警報を地域規模で提供することを実現しています。この緊急警報システムは、迅速な避難と関連部門への情報伝達のためのリソースを迅速に動員することにより、当局とコミュニティーの円滑な連携を強化しています。
その顕著な例が、衛星を利用した日本の全国瞬時警報システム「Jアラート」です。同システムにより、当局は速やかに地元メディアやコミュニティセンターに警報を流すことができるようになりました。
人を中心に据えた早期警報システムを開発する日本のアプローチは、コミュニティを巻きこんで地域と国レベルで防災プログラムを実施することで、災害に強いコミュニティを育てています。日本の災害リスク軽減を支援するための官民学パートナーシップを活用した産業横断的なプラットフォームである日本防災プラットフォームには、多様な産業から100を超えるメンバーが参加しています。
早期警報システムの導入が具体的な適応策であるということは、2018年に制定された気候変動適応法においても認識されており、地域における気候変動の影響および適応に関する情報の収集、整理、分析、技術的助言を行う拠点として、日本全国に54の地域気候変動適応センター(LCCAC)が設立されました。同センターは、企業を巻き込み取り組みを進めています。
このようなアプローチにより、日本では、2020年に発生した自然災害による死者が、1950年代から60年代と比較して97%、経済被害総額(GDPに占める割合)が21%減少しました。こうした実績をもとに、日本は開発途上国の支援にも力を入れています。
しかし、それぞれの地域により、場所、社会経済的状況、制度的能力などの条件が異なるため、これらの技術や実践の普遍的な適用可能性は不確かです。それでも、日本の経験から得た重要な原則に従えば、他国でも同様の成果を上げることができるでしょう。
日本の成功を支えた6つの主要原則
早期警報システムを、具体的な適応策として政治的に認知する。
- 早期警報システムを、具体的な適応策として政治的に認知する。
- 企業、研究センター、大学とのパートナーシップを通じて、高度な技術開発を促進する。
- タイムリーで明確かつ権威ある警報システムの確立。
- 早期のステークホルダーのエンゲージメントと、強力な調整メカニズムの確立。
- 地域の能力開発と、定期的な地域訓練プログラムを実施するための支援を提供する。
- 早期警報システムの有効性を体系的かつ適時に評価するための戦略の重要性を認識する。
早期警報システムへの日本の包括的なアプローチは、EWS4Allイニシアチブのベストプラクティスの輝かしい例であり、命を救うだけでなく、レジリエント(強靭)な未来への希望と言えるでしょう。
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