国際貿易の進化は今後、労働者に利益をもたらすのか
カナダ、米国との新貿易協定を支える労働改革に応じた新しい組合の選出投票を終え、ゼネラルモーターズのピックアップトラック工場の外に集まるメキシコ人労働者たち。 Image: Reuters/Sergio Maldonado
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社会と公平性
- 公正なグローバリゼーションを実現するには、貿易と労働者の相互利益的な関係が必要です。
- マルチステークホルダーの協力は、貿易政策における労働条項の実施支援につながります。
- 気候危機に対応し労働者の権利を守ることこそが、公正なエネルギー転換を実現することにもつながります。
世界中の労働者は、新型コロナウイルスによる前例のない国際貿易の混乱、気候変動、地政学的紛争、急速なデジタルテクノロジー転換がもたらした結果に苦しんでいます。不平等と貧困が進み、ディーセントワークのない状態がさらに拡大しています。
今後10年間は、貿易戦争と地政学的対立の激化、環境・社会・経済におけるグローバルリスクの収束により、「ポリクライシス」に陥る可能性があるため、公正なグローバリゼーションを促進し、貿易と労働者の相互利益的な関係を確立することがこれまで以上に重要となります。
貿易と労働の相乗効果が重要な理由
貿易は世界経済において大きな役割を果たしており、世界のGDP全体の60%近くを占めています。これは包括的な成長、開発機会の拡大、労働基準の引き上げをもたらす強力な手段となる可能性があり、先進国と開発途上国の両方で様々なスキルレベルの特定の労働者たちに利益をもたらしてきました。
持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030 Agenda for Sustainable Development)でも強調されているように、貿易は正規雇用へ移行する機会を増やし、女性、移民労働者、若者、その他の脆弱なグループを含む何百万人という人々を貧困から救い出すことに貢献しています。
残念ながら、すべての労働者や企業が貿易から等しく恩恵を受けているわけではありません。雇用の二極化、搾取労働、所得格差は、貿易自由化、特に貿易協定に対する社会の監視を強めることにつながっています。この観点から考えると、「より大きな社会的正義を培い」、貿易による利益がすべての労働者に対し、そして、国家間や国内でも公平に配分されるようにする取り組みが欠かせません。各国政府、ソーシャルパートナー、市民社会のすべてが重要な役割を担っているのです。
協力がもたらすパワー
多国間レベルの貿易政策と労働政策の結合は、惰性で行われてきましたが、国際的なマルチステークホルダーたちが連携する意欲と機会が新しい段階に入ったことを示す、明るい話題もあります。2011年から2020年にかけて締結された貿易協定の約半数に労働条項が盛り込まれましたが、これは、それ以前の10年間では22%に過ぎませんでした。労働基準に言及されているだけにとどまらず、実施、協力、マルチステークホルダーの関与強化をもたらす新しい仕組みづくりが進められているのです。
このように急速に変化している政策を実行に移すことには困難が伴いますが、現場の事例では、協力とマルチステークホルダーの関与がいかに強力であるかが示されています。
1.新たな仕組みの構築
市民社会と労働組合は、開発協力や監視を含めた、労働規定を強制的かつ効果的にするための法的、政治的、経済的な新しいメカニズムを確立させる取り組みを世界的に推し進めています。
インドでは、権利団体グローバル・レイバー。ジャスティスが推進する地元政府、衣料品労働者およびサプライヤー、国際企業(H&M、GAP、PVH等)間の助言や対話により、2022年に画期的かつ法的拘束力を持つティンドゥッカル協定(Dindigul Agreement)の締結が実現しました。これにより、女性労働者は職場における性別による暴力やハラスメントを監視、防止、改善する力を持ち、そのための支援を得ることができるようになりました。
メキシコでは、主に米国の労働組合や労働擁護団体が推進した結果、米国・メキシコ・カナダ協定により工場別迅速対応労働メカニズム(Facility-Specific Rapid Response Labor Mechanism)が導入されました。このメカニズムは特定の工場を対象に定め、米国とカナダに輸入阻止権を与えることによって、労働者の結束の自由と団体交渉権行使に重要な役割を果たしました。
2.労働基準法の推進
国境を越えた社会的対話と労働組合およびステークホルダーの協力は、欧州連合と韓国間の協定のように、労働基準の実施に対する政府の強い関与を促すことが実証されています。
ウズベキスタンでは、強制労働と児童労働の廃止を実現させるために、貿易制裁と市民社会活動が重要な役割を果たしました。ジョージアでは、EUとの連合協定の一環として導入された労働組合と市民社会の協議メカニズムが、2019年および2020年の労働改革の導入に大きく貢献し、ジョージアの労働基準を国際労働機関(ILO)の基本基準に近づけることに貢献しました。
3.サプライチェーンの実践強化
サプライチェーンおよびグローバル枠組み協定(global framework agreements)(GFA)におけるデューデリジェンス実施の取り組みはいずれも、労働基準を推進する手段となります。例えば、フランスの多国籍公益企業のエンジー、グローバルな組合連合のインダストリオール、BWI、PSI、フランスの労働組合が締結しているGFAは、70カ国以上労働者17万人以上が対話と協力を通じて集団的に力をつけ、持続可能な雇用、同一賃金、社会保護に対する権利を推進することを可能にしています。
さらに、オランダのチョコレートブランドのトニーズチョコロンリーと、カカオチェーンにおける不平等をなくしリビングインカムモデルを推進する取り組みに代表されるように、生活賃金や生活所得価格を支払いより良い購買慣行につなげていくことは、労働者の権利を根本から変える可能性があります。トニー社のヘッド・オブ・インパクトを務めるポール・シェーンメイカー氏は、次のように述べています。「企業は、自社サプライチェーンを通じて国際貿易を労働者のために機能させる重要な役割を担っています。そのために必要なことの一つは、企業が必要なリソースに不当な低賃金を支払わないことです」。ドイツとオランダの政府は、サプライチェーンにおける生活賃金と生活所得基準の枠組みを支持しています。
全般的に見て、これまでに明らかになっているのは、強力かつ制度化されたマルチステークホルダー間の協力があれば、労働基準の長期的な改善、労働条件に対する国民意識の向上、労働課題を政治課題とすること、厳格なコンプライアンス監視の促進を受け入れやすい環境づくりにつながるということです。
公正な移行
貿易が進化するにつれ、複雑なサプライチェーン全体で労働者に利益と機会をもたらす新たな協力体制が必要になっています。例えば、ギグ・エコノミーと関わるデジタルサービス貿易は増加するにつれ、気候やサーキュラー・エコノミーの目標を推進する上で重要性を増しています。環境移行は主として労働課題であり、貿易政策だけでは、「公正な移行」を確実に進めつつ気候変動の深刻な破壊的影響へ適応することはできません。貿易および労働市場政策を統合することで経済成長と発展を促し労働者のウェルビーイング(幸福)を改善する、これがより広範な社会的正義の目的を達成するために不可欠なのです。
労働者団体や国際的企業はすでに、本格的な取り組みを始めています。貿易協定における労働条項が保護主義を装っただけのものでないことを確認するためには、各国政府との協力が不可欠なのです。米国の労働者中心の貿易政策や、EU等におけるサプライチェーンのデューデリジェンスに関する規制動向は、貿易と労働規範の関係を深める機会となるかもしれません。労働条項が貿易協定に不可欠な要素として組み込まれる機会が増えている今、貿易と労働の結びつきに対して首尾一貫した協調的かつ連携的なアプローチを取るべき時期がきているのです。
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