ウクライナ侵攻がもたらした腐敗防止に関する3つの教訓
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腐敗防止は、世界の安全保障および民主主義の繁栄と密接に関わっています。 Image: Unsplash/Paul Fiedler
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ウクライナ
- ウクライナ侵攻は、金融市場と腐敗防止が世界の安全保障および民主主義の繁栄といかに深く関わっているかを示しています。
- 欧米諸国はロシアに制裁を課して対処しましたが、欧米市場はその制裁対象の資産を流通するための中心的役割を担っているのです。
- 腐敗防止に向けて、国内および国外、そして官民の垣根を越えた世界的な取り組みをいっそう強化する必要があります。
ウクライナ侵攻は、金融市場と腐敗防止が世界の安全保障および民主主義の繁栄と密接に関連していることを明らかにしました。
腐敗防止の専門家の間では、地域の長年に及ぶ腐敗が現在の紛争を激化させ、長期化させるさまざまな要因について、数週間にわたり議論が続けられています。一方、欧米の民主主義諸国はロシア経済と政治エリートに対する制裁を一段と強化し、ウクライナ戦争に対処しています。
ところが、過去に「パナマ文書」や「パンドラ文書」で露呈したように、腐敗はある地域だけの問題ではありません。むしろ国際金融システム、特に欧米市場こそ、制裁対象としているまさに同じ資産を移動、隠蔽、投資する上で重要な役割を果たしているのです。
調査レポートによると、制裁対象であるロシアのオリガルヒの多くは、家族のネットワーク、ペーパーカンパニー、オフショア金融、ブラインドトラスト、または世界で最も高額な市場における高級品や不動産などを利用して、巨額の資金を投資、隠蔽しています。
また、こうしたオフショア金融や不透明な金融商品は、特定の資産を追跡不能にし、ルーブル下落の影響を受けないようにすることで、欧米の制裁の効果を薄めている可能性もあります。
こうした状況の中で、ウクライナ戦争開始後の数カ月の間に、腐敗防止と不正資金に関する3つの重要な教訓が得られています。
1.腐敗防止は、世界の安全保障とすべての人のための民主主義繁栄の要
ウクライナ侵攻によって、腐敗や不正資金に注目が集まっています。しかし、腐敗の蔓延は今回の紛争に限ったことではありません。腐敗、紛争、政情不安定は、過去長年にわたって密接に関わりあってきました。そしてこの関係は、今後も続く可能性が高いでしょう。
カーネギー基金(Carnegie Endowment)の2014年のレポートは、腐敗を追跡する有名な指標と暴力や不安定を追跡する指標の比較を行い、その結果、「深刻な腐敗を特徴とする国は、紛争や国家の破綻を経験する傾向があり、両者には明らかな相関性がある」と指摘しています。
腐敗は公共サービスを悪化させ、政治の優先課題を歪め、不平等を加速させ、政治リーダーたちを国民の意思から離れた方へと導きます。また、権威主義的な暴力や市民の不安を増加させるおそれもあります。
国連持続可能な開発目標(SDGs)の目標16「平和で公正、強力な機関」は、腐敗と紛争の密接な関係を認識した上で、腐敗防止の原則に基づき、不正資金、腐敗、贈賄の減少や、あらゆるレベルにおいて有効で説明責任のある透明性の高い機関を発展させることなどをターゲットに盛り込んでいます。最近の経済協力開発機構(OECD)のレポートから、残念ながらこのSDG達成に向けた進捗が遅く、データと評価の欠如がその妨げになっていることが明らかになっています。
腐敗防止と世界安全保障の関係は、最近まで全般に過小評価されていました。2021年6月、米国政府は腐敗との闘いを米国の国家安全保障上の利益の中核に据えるとする覚書を公表しました。続いて2021年12月には初の腐敗への対抗のための米国家戦略(US Strategy on Countering Corruption)を発表、第一回民主主義サミット(Summit for Democracy)を開催し、腐敗防止を民主主義繁栄の柱の一つと位置づけました。ウクライナ戦争は、国家レベル、国際レベルの両方でこうしたイニシアチブがさらに必要であることを顕著に示しています。
また現在続いている紛争は、欧米の有力国による腐敗防止の取り組みが発展途上国や紛争に苦しむ国だけに焦点を当てるべきではないことをはっきりと示しています。むしろ、欧米市場、租税回避地、国際金融ネットワークが不正資金を助長しているという事実を、欧米主要国が改めて認識し、規制改革を行うことが必要であることを裏づけています。またこの事実を契機として、官民それぞれ、および官民を跨いだ腐敗防止の国際的イニシアチブの必要性を喫緊の課題として議論する必要があります。
2.腐敗との闘いでかつてないほど重要な企業のゲートキーパーとしての役割
グローバル化した市場では、会計士、銀行員、金融サービス業者、弁護士、不動産業者、高級品販売業者や、その他の企業の仲介者、つまり「ゲートキーパー」が、国際的な資金フローに関わっています。これらのゲートキーパーは、不正資金を対象とした法と規制の施行、実現に欠くことのできない役割を担っています。
ウクライナ侵攻により、企業に対し、不正な資金フローを阻止する闘いに参加を求める声が高まりました。企業を仲介して、ロシアのオリガルヒが欧米の主要市場や租税回避地を経由して何十億ドルもの資産を動かしている ことは現在、文書で十分に証明されています。
ゲートキーパーは、資産の制御、分配、管理を通じ、世界の権力、実質的には世界の安全保障を制御し、分配し、管理しているということに、今や多くの人が気づいています。
EU、英国、米国ではこのほど、一部のゲートキーパーに対し規制と報告義務を強化する法案が提出されました。ただ、立法プロセスの進行が比較的遅いことを考えると、差し迫った危機に対応する責任の大半は、ゲートキーパー自身にあります。
幸い、不正資金との闘いにおいてゲートキーパーを導くリソースが豊富にあります。どの業界も完璧ではありませんが、金融機関のように規制の厳しい業界では顧客のデューデリジェンスやレッドフラッグに関わるベストプラクティスが構築されており、これをゲートキーパー役となるほかの業界にも適応できる可能性があります。
昨年開催された世界経済フォーラムのGlobal Future Council on Transparency and Anti-Corruption(透明性と腐敗防止に関するグローバル未来会議)では、不正な資金フローとの闘いでゲートキーパーが果たす役割と責任に関し、価値ベースのUnifying Framework(統一枠組み)が策定されました。ゲートキーパーは、腐敗防止のパズルのわずか1ピースではありますが、民主主義と法の支配を守るために自らの役割を果たす必要があります。
3.制裁重視の環境では、腐敗や不正資金のリスクが増加
制裁に重点が置かれている環境では、強固な腐敗防止策の必要性が高まります。1990年代後半から2000年代初頭にかけイラクで起きた石油・食糧交換スキャンダルは、このリスクを明確に示しています。今年2月末の侵攻以来、ロシア経済と政治エリートは、さまざまな国から相次いで制裁を受けています。制裁は、行動を変え、暴力を抑止する強力な手段ともなり得ますが、米国と国連の制裁に関する研究が示唆しているとおり、対象地域の腐敗と不正資金を著しく増加させる可能性もあります。
制裁の影響を受けた企業や有力者は、これを回避する方法を模索するでしょう。資金洗浄や脱税が行われる経路の中には、制裁回避に使われるのと同じものもあります。密輸、ペーパーカンパニー設立、資金洗浄、自己取引も含めたこうした対抗手段は、いずれも腐敗を悪化させ、制裁対象のエリートが経済への支配力を強める手だてになる可能性があります。
制裁がもたらすこのような負の効果や副次的効果は、歴史的にあまり注目されてきませんでした。それでもパブリックセクターと企業は、制裁の悪影響を注視することで、この制裁重視の環境下で適切な役割を果たすことができます。
ウクライナ侵攻とそれに伴う経済的な悪影響を受け、世界的な腐敗防止の取り組みをさらに重視し、喫緊の課題として進める必要があります。効果的な制裁を導入し、継続する暴力行為に終止符を打ち、将来同様の侵攻行為が起こるのを防ぐために、私たちは国内外の両方で、官民の垣根を越えて、腐敗防止の取り組みをさらに強化しなければならないのです。
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