貿易と投資

気候変動との闘いにおける貿易のあり方とは

グリーンテクノロジーソリューションや環境配慮型製品の恩恵を開発途上国にも広げていく上で、重要な役割を期待されるのが世界的な貿易ネットワークです。

グリーンテクノロジーソリューションや環境配慮型製品の恩恵を開発途上国にも広げていく上で、重要な役割を期待されるのが世界的な貿易ネットワークです。 Image: Renee Kennedy

Mari Elka Pangestu
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  • 国境を越えた貿易と、さらなる経済連携が、世界的な気候変動との闘いにおいて重要な役割を果たすでしょう。
  • 開発途上国は、グリーンテクノロジーソリューションの供給ネットワークや、環境配慮型製品の貿易へのアクセスを必要としています。
  • 世界全体を低炭素の未来へと移行させていくには、開発途上国による貿易規制交渉への参加が不可欠です。

陸、海、空を経由して炭素排出量を増やすというイメージにより、非難の対象となることもある貿易。しかし、貿易と気候変動の関係に関する新たなエビデンスから分かるのは、より包摂的でレジリエント(強靭)かつサステナブルな経済を構築する上で、貿易は重要な役割を担っているということです。

遠隔地のグリーンソリューションへのアクセスを可能にする貿易

ケニアで農業を営むアン氏は、これまで畑の灌漑に苦労してきました。数年前に彼女が導入したのは、Futurepump(フューチャーポンプ)社が設計した太陽光発電式の灌漑用水ポンプ。フューチャーポンプ社は、環境にやさしいポンプをインドで製造し、ネパールやケニアで実地試験を行い、アフリカやアジアで彼女のような小規模農家に製品を販売しているイギリスの小さな会社です。これにより、彼女は月々のコストをこれまでの半分程度に抑えられるようになった上、環境を汚染するディーゼルポンプの使用も停止することができたのです。

これは、貿易が環境に配慮した商品やサービスの普及を促進し、排出量削減や環境マネジメントの向上に貢献した一例です。このような気候に配慮した製品の貿易は、いまや1兆ドルを超える規模にまで成長しています。また、アン氏のような人たちに環境に配慮した方法でビジネスを行うために必要なスキルを提供する、さまざまな環境サービス事業者の需要も高まっています。

気候変動との闘いに様々なレベルで影響を与える貿易 Image: World Bank

開発途上国の気候変動適応計画における貿易の重要性

気候変動は、各国の生産および輸出に悪影響を及ぼしています。気象パターンに対して非常に脆弱な農業依存国が気候変動に適応するには、グリーンテクノロジーソリューションが不可欠なのです。

赤道に近い地域では農作物の収穫量が減少し、アフリカ、アジア、南米の乾燥地では食料不安が拡大。例えばマダガスカルでは、不作と新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした不況のダブルショックにより、南部が飢饉に見舞われています。

このような国では、気候変動の脅威への適応が急務です。グローバルな貿易システムにより新技術へアクセスできるようになれば、これらの国の経済的なレジリエンス(強靭性)を高めることも可能です。

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環境貿易に関する交渉への参加

危機的状況において特に重要なのは、貿易に影響を与える政策の透明性および予測可能性です。食料や医薬品などの必需品の不足にすぐに対応するためには、輸入品はなくてはならないもの。そのため貿易施策は、危機対応を支えるものでありこそすれ、それを妨げるものであってはならないのです。

サプライチェーン全体でのサステナビリティへの関心は各国や企業の間で高まりつつあるものの、多くの国では、炭素集約度の高い商品の関税が、より「クリーン」な商品よりも低く設定されていることが多いのが現状です。

よりクリーンなサプライチェーンを構築し、炭素排出量を削減するためには、このような炭素消費量の多い商品の輸入を優遇する現在の制度を改めることです。適切な環境政策が施行されれば、カーボンフットプリントの少ない地域への生産拠点の移転を、貿易が後押しするでしょう。それは各地域の競争力向上につながり、サプライチェーン全体でより環境に優しいソリューションの導入も進むと考えられます。

世界が低炭素成長へと移行すれば、開発途上国には新たな経済的チャンスがもたらされます。なぜなら、開発途上国で作られる製品は基本的によりクリーンであり、Environmentally Preferable Products(環境配慮型製品、EPP)を生産する上で有利な立場にあるためです。依然関税の高いEPP、特に農産物の貿易の自由化は、開発途上国や後発開発途上国にとって計り知れないチャンスとなります。

成長のチャンスのもう一つの鍵は、カーボントレースのための適切なインフラ構築です。関連データが乏しく、デジタル化が進んでいない開発途上国にとって、現状のままではカーボンフットプリントの計算には複雑な作業が必要となるためです。

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開発途上国がこのようなチャンスを活かすには、自ら多国間貿易交渉のテーブルにつき、そこでEPPの関税についてだけでなく、ソーラーパネルのような特定の環境目的を持つ環境商品についても交渉を行うことが不可欠です。また、これらの商品に影響を与える関税以外の障壁や、環境サービスやその他の気候変動対応型商品の貿易規制に関する議論にも参加しなければなりません。環境貿易のルール作りに貢献することで、自らの利益を確保することができるのです。

さらに環境に優しく、より包摂的なグローバル経済構築のチャンス

パンデミック(世界的大流行)も3年目を迎える私たちにとって今重要なのは、次世代に残したい世界とはどのようなものかを考えることです。気候変動による異常気象が輸送、物流、デジタル・インフラに与える影響は年々大きくなり、資本ストックや輸出能力が損なわれ、農地は荒廃し、食料安全保障が脅かされています。

気候変動による影響は人類の長期的な開発目標に重大な影響を及ぼしており、過去20年間の開発の進展もすでに大きく損なわれています。その中で最も大きな打撃を受けているのは、最貧困層の人々。格差がさらに広がっているのです。

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貿易には、このような多くの課題との闘いにおいて重要な役割を果たすことが期待されていますが、従来通りのアプローチだけでは不十分です。この難しいミッションを成功へ導くには、グローバルな協力がかつてないほど重要となっているのです。

貿易の在り方を「リセット」し、環境に優しく、強靭性の高い、包摂的な開発メカニズムとして生まれ変わらせることができれば、脆弱な経済圏に気候変動に対応したソリューションを積極的に普及させることができます。開発途上国が未来の低炭素社会に適応し、繁栄するためには、全方面にメリットをもたらす貿易を実現することが必要です。

貿易の気候変動対策に対する貢献についての詳細は、世界銀行の「Trade and Climate Change research section(「貿易と気候変動」リサーチセクション)」をご覧ください。

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Spencer Feingold and Charlotte Edmond

2024年8月26日

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