• ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授であるマリアナ・マッツカート氏は、政策立案者がビジネスリーダーたちと協力して地域社会に意味のある変化をもたらす方法の再考を促すことに、そのキャリアをかけて取り組んでいます。
  • マッツカート氏は以下のインタビューで、現在の社会的な動きと企業や各国政府の姿勢は、世界が直面している重要な課題を解決するための道筋を作ることができると前向きな考えを語っています。
  • このインタビューは、クラウス・シュワブとティエリ・マルレ氏による新著「The Great Narrative(グレート・ナラティブ)」の一部です。

公的機関が企業とより良い関係を築くにはどうすれば良いのでしょうか。これは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授であるマリアナ・マッツカート氏が、その研究で重要視してきたことです。

社会が直面している多くの課題に対処するためには、パブリックセクターが企業と協力して果たすべき役割はより大きいと、マッツカート氏は主張しています。

マッツカート氏のインタビューは、クラウス・シュワブとティエリ・マルレ氏の新著「グレート・ナラティブ」に、世界のオピニオンリーダーから寄せられた50のインプットのうちの一つとして掲載されています。本書は、よりレジリエントでインクルーシブ、そして持続可能なポストコロナの未来をどのように創造できるかを伝えるものです。

ご自身について、グーグルやリンクトインには載っていない情報を伝えたいことはありませんか。

新著「ミッション・エコノミー:国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた(Mission Economy)」を始め、私はこれまで、グローバルに、そして非常にローカルなレベルで活動してきました。その中でも、心が弾み、より幸せな気持ちにさせてくれるのが、私の住むロンドンのカムデン地区で実施している取り組みです。カムデンは世界の縮図ともいえる場所です。世界最高のものを手に入れることができる一方で、極度の窮乏、刃物による犯罪、そして貧困もあります。

私はこれまでグローバルに取り組んできた課題を、公営住宅などの特定の場所で展開するため、カムデン再生委員会(Camden Renewal Commission)を立ち上げました。この取り組みでは、大規模なレベルではできないこと、つまり、市民や人、そして様々な意見を集めるることができるのです。そのため、このClean Growth Mission(クリーンな成長のミッション)は拠点を公営住宅に置き、発足当初から自治団体を議論の場に迎え、より持続可能な方法で共同生活をするとはどういうことかを議論しています。

このような市民参加型の活動は非常に興味深いものです。最近、私の研究所と国連人間居住計画(国連ハビタット)が共同で、市長たちを集めた協議会を立ち上げました。この協議会では、官民を団結させるための新しい枠組みが必要なのはなぜなのか、また市長たちが直面する様々な問題に対して都市レベルでどのような意味を持つのか、といった問題にまさに取り組んでいます。そのため、持続可能な開発目標(SDGs)は単なる飾りではなく、投資戦略の一部となっているのです。

国家の再考

この1015年の間、あなたは非常に広範な活動を行い、政策立案者に対しても大きな影響力を持っています。これまでの成果を集約すると、核となる考えはどのようなものになるのでしょうか。

国家の再考(Rethinking the state)、この3ワードに尽きるでしょう。もう少し追加するならば、国家がより優れている、あるいはより重要であるからという理由ではなく、ビジネスとのコラボレーションにおいて国家が果たすことのできる役割に関して、理論化も仮定も不十分だったからです。最終的に最も重要になるのは、何よりもパートナーシップだと信じています。しかし私たちは、ビジネススクールや素晴らしいセミナー、戦略的経営や意思決定の科学などにおいて、企業については多くのことを考えているのに、国家のこととなるとせいぜい市場を固定化することしか考えていません。そのような状態のため、考えが足りない、または遅すぎるため、常に修正モードで息切れしてしまうのです。

官民連携については、超金融化したビジネスセクターと、理論化不足で常に修正モードのパブリックセクターによって、パートナーシップが弱体化しています。

—マリアナ・マッツカート氏、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授

では、共通の利益のために、デジタルプラットフォームをどのように管理すれば良いのでしょうか。需要と供給の両サイド、そして調達や国家による真の枠組みと方向性を含む適切なグリーンディールはどのように行えばよいのでしょう。現在のところ、こういったことを実施する公的な組織はありません。さらに、官民連携については、超金融化したビジネスセクターと、理論化不足で常に修正モードのパブリックセクターによって、パートナーシップが弱体化しています。私が実際に貢献してきたのは国家側ですが、公的機関、パブリックセクター、公的価値、公共の目的、起業家としての国家の概念を再考することで、より多くの指針を得ると同時に、企業とのより良いパートナーシップを築くことができるようになりました。

The Great Narrative by Klaus Schwab and Thierry Malleret
クラウス・シュワブとティエリ・マルレ氏による「グレート・ナラティブ」
イメージ: Forum Publishing

国家の再考という核心の考えは、現時点で支持されていると思いますか。ここ23年で多くの人の賛同を得られていますが、人々はその意味を意識して、あなたが推奨するいくつかの政策を積極的に実行しているのでしょうか。

私はそう思います。問題は、TED Talksを聞けば済む話ではない、ということです。そのためユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに、この分野を網羅する研究機関であるInstitute for Innovation and Public Purpose(イノベーションと公共目的のための研究所)を設立しました。私の提案を実行するためのトレーニングや新しいカリキュラムはまだ生み出されてはおらず、まさに考案中です。我々は、価値や目的、創造的な官僚組織を再考し、デザイン思考を用いて、内側の一部を修正するのではなく全体を変革することを学ぶことができる、素晴らしい行政学修士プログラムを設置しています。

私のメッセージが伝わり、それにより言葉には変化が現れてきてはいますが、従来通りのビジネスを継続するという静的な方法でこれを実施していくのは不可能です。調達、助成金、融資、適切な共生の社会契約を結ぶための条件付けなど、国家が持つ様々な手段を再設計することは、口で言うよりもずっと難しい。現場で必要なトレーニングやワークショップが非常に重要なのです。

また、国の予算面が解決したところで、それだけでは不十分です。問題にお金をつぎ込むだけでは足りません。問題は、公的資金を文字通り「お金配りの機械」ではなく、保証や補助金でもなく、より良い再建への思考を促すように再設計することにあります。そのためには、これまでとはまったく異なるタイプの官民連携が必要であり、企業の協力が不可欠です。大手の製薬会社やハイテク企業が、ひどく逆心的なロビー活動を未だに行い、イノベーションや成長に関するナラティブが一部の価値創造者に支配され続けていることで、結局国家は譲歩してしまうのです。

ここが一番難しいところだと考えます。つまり、より自信を持って仕事をする公務員を生み出す必要があるということです。「執務室」の中のエネルギーは、残念ながら引き続き内向きの傾向が強いため、グリーンディールのような「ディール」という言葉がとても重要になってきます。「グリーン」の部分については、私たちは何をすればよいかわかっているため、率直に言って、まったく難しいことではありません。しかし、「ディール」の部分は極めて難しい。これは新しいソーシャル・コントラクト(社会契約)を意味しています。これを全うするためには、今あるレントや公職者の在任期間など、既存の超過利潤の多くを削減する必要があり、そのためにより多くのことを受け入れていく必要があるのです。

そのため、世界経済フォーラムの年次総会に出席し、ステークホルダーの価値や目的を語る企業でさえも、人々の健康を左右するパンデミック(世界的大流行)時に知的財産権を共有するとなると、それを受け入れられないのです。これに対しては、ステークホルダーの価値観を一致させ、新たな形態の官民連携を活用することが重要になります。

ご自身の考えに最も共感を示している国や地域と、最も消極的な国や地域についての考えをお聞かせください。

正直なところ、私の経験上、国はあまり関係ありません。ある国では、私が「サンドボックス」と呼んでいる実験や組織が立ちがっており、アイディアを実行することに積極的であり、可能性を感じています。近年のイギリスは、国レベルでは起業家精神に富んだ国家とは言えませんが、実際には信じられないくらいエキサイティングなことが行われています。政府デジタルサービス(GDS)は全く新しいウェブプラットフォームを構築し、市民が顧客やクライアントではなく、人権を持ったユーザーであると再認識しました。また、市民に焦点を当てたウェブサイトでは、運転免許証やパスポートの取得という点で、人と福祉国家の関係を変革しようとしています。

こうした例では、他の部門では起きていない再考が必要でした。また、BBC iPlayerを設立したグループの監督下で人材を集めなけらばならなかったものの、これは従来の民間企業への委託という流れに逆らったものであり、とても感慨深いことでした。BBCは公共の価値と公共の目的という課題について考えてきた非常に興味深い組織です。

世界的に注目しているのは、新しい開発銀行が設立されていることです。アジア開発銀行は興味深い存在であり、彼らとの会話の中で、同銀行はインフラだけでは不十分だと認識していることを知りました。それに対応するためには、銀行自身がより課題志向、ミッション志向の枠組みを持つ必要があります。中小企業などのセクターや企業タイプの固定的なリストのように勝者を選ぶのではなく、問題を選び、忍耐強く長期的な資金を使って意欲のある人々を奮い立たせ、小規模な場合には追加の資金を提供しすることが必要です(ただし、小規模だからこそ資金を得られるというわけではありません)。

同様に、過去に遡ると、良い例としてイスラエルのヨズマのような官民ファンドも存在します。カリフォルニア州などの都市や州では、莫大な社会的投資の結果生まれた利益の多くが民営化されてしまっていることから、私はこれらの州や都市と協力して、新しい公共財ファンドを設立しています。州や都市レベルで、このようなファンドを設計するにはどうすれば良いでしょうか。例えばシンガポールは、公務員をステータスとすることに成功しているとても興味深い国です。これは、公務員は薄給だから他のところに行く方が魅力的だという一般的な考えに反した給与体系と、私も関与したのですが、起業家精神あふれる国家という明確な考えを持っているということの両方が関係しています。こうした背景から、これまでとは違うタイプの人材を集めることができたのだと考えています。

さらに、都市レベルでの取り組みは、非常に興味深いものがあります。シエラレオネ共和国・フリータウン市の素晴らしい市長であるイヴォンヌ・アキ・ソーヤー氏は、アフリカの都市にとって非常に重要な戦略を実施しています。不平等や気候変動などの大きな問題に焦点を当て、市長が持つ全ての手段を使い、多様な官民連携を促進し、政策決定プロセスに対する市民の信頼を高めることを目的としたものです。今日、人々が政治家とビジネスリーダーの両者に希望を持てなくなるにつれ、信頼が課題となっています。その中で、コミュニティレベルでの取り組みが非常に重要なのです。ちなみに、ルワンダがプラスチックを使わないというミッションを掲げていることも非常に興味深く、私たちもラテンアメリカの様々な都市で活動を行っています。コロンビア・メデジン市は、「Medellín la más educada(最も教育水準の高いメデジン)」という非常に大胆な目標を掲げていますが、そのためには様々な関係者を集めて、生涯教育を都市戦略の中心に据える必要がありました。

将来のビジョン

今後のビジョンについて、一言で言うとどのようなものでしょうか。この先、世界はどのように進化していくと思われますか。

最も重要な課題は協定です。それは環境に配慮したものだけでなく、健康に配慮したものや、デジタルプラットフォームを管理するための新しい方法など、目標達成に向けた新しい協定です。現実には、非常に問題のあるパートナーシップや、寄生性のあるビジネスエコシステムが存在しています。新型コロナワクチンで何が起こっているかを、考えてみてください。パブリックセクターと企業双方から何十億ドルもの資金が投入され、六つのワクチン全てについて、最もリスクの高いワクチン開発の初期段階で多くの民間資金が投入されていますが、莫大な公的資金を背景に、我々はエコシステムがいつものように寄生することをそのままにしています。そして、こうした知的財産権と非常に高い価格を認めることにより、国家は様々な手段で何度も補助金を出さなければならないのです。これは、イノベーション・エコシステムにおける官民連携を推進する上で、非常に非効率的な方法です。

私は、より共生的な取引、より相互的な取引、機能不全ではなく機能的な官民連携を得ること、そして企業内の環境、社会、ガバナンスに評価基準があるように、パートナーシップにも評価基準を設けることが、極めて重要だと考えています。また、世界の所得に占める労働分配率は過去最低で、利潤分配率は過去最高の水準にあり、こうした利益の多くはレントであるという背景もあります。

また、ウェルビーイング(幸福)の指標やGDPを増やすだけでは十分ではありません。私たちは実際に、全ての利潤追求の伸びの指標と、様々な種類の独占力によって発生するレントを取り除く必要があります。そうすることは非常に重要なことですし、取引の一部でもありますが、そのためにはデジタルプラットフォーム、ヘルスイノベーション、持続可能エネルギー革命の分野で何が起きているかを、慎重かつ詳細に理解し、細部にまで手を入れていく必要があるのです。

私たちは、このような(私の子どもたちが言うのですが)ふわふわした、非常に漠然としたレベルの話をやめて、具体的に考えなければなりません。そのためには、これまでとは違う関係性を試すことができるパートナーシップが必要です。アストラゼネカとファイザーを比較すると、アストラゼネカの方が、パブリックセクターから資金を得ていたオックスフォード大学の研究者と協力するという点で、パートナーシップに対しより積極的でした。そのため、ワクチンの温度、原価および価格、知識の共有について、非常に厳しい条件を付けたのです。

一つのプロジェクトを他のプロジェクトと差別化し、より機能的で共生的に実施する方法を学ぶには、通常のサイロ化された官民の考え方を超えた精密さが必要となります。この場合もやはり、官民連携について語るのはとても簡単なことですが、良好なパートナーシップになるよう設計するのはとても難しいことなのです。

将来に向けて楽観的に考えていることは何ですか。

SDGsが誕生してからまだ6年しか経っていないので、それ自体が楽観的な設定だといえます(2015年以来17の共通目標を掲げている)。また、少なくともビジネスセクターでは、目的やステークホルダーの価値について話し合っています。そして私の仕事は、公共的使命を中心に据えるよう各国政府を説得することです。ですので、私が楽観的なのは、SDGsに関して公共的使命と私的目的が結びつく可能性があることと、現在求められている緊急性です。

若者たちは、これをダボス・アジェンダのような場で終わらせるのではなく、例えば「フライデー・フォー・フューチャー」や「ブラック・ライブス・マター」と同じく目を光らせ、全ての人のために機能させることを求めています。これを、私は前向きに捉えています。変化の背後にある社会的な動き、目的を中心に据えようとする企業の明確な意思、そしてミッションを中心に据えることへの各国政府の意欲という三つの組み合わせの中で、未来は明るいと感じるのです。

このインタビューは、クラウス・シュワブとティエリ・マルレ氏による新著「グレート・ナラティブ」に取り上げられています。本書はダボス・ビジョンを要約したもので、私たちが未来に向けて建設的で共通のナラティブをどのように形成することができるかを探求しています。

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