WTOの新協定が、貿易の障壁を取り除く5つの方法
規制上の障壁を取り除くことで、中小企業や女性起業家にメリットをもたらします。 Image: Freepik.com
Jaime Coghi
Deputy Permanent Representative, Mission of Costa Rica to the WTO, and Chair, WTO Joint Initiative on Services Domestic Regulation最新の情報をお届けします:
Trade
- サービス業は世界のGDPの3分の2を占めていますが、それに伴う貿易コストはモノに比べて高くなっています。
- WTO加盟国66カ国は、サービス貿易を阻む煩雑な手続きを減らすことに合意しました。
- この新協定が、サービス貿易の不必要な障壁を取り除く5つの方法をご紹介します。
サービス業は世界のGDPの3分の2を占め、10人に6人以上の雇用を支えています。近年、サービス輸出は、伸び悩むモノの貿易を上回る成長を見せ、現在では付加価値ベースで貿易全体のほぼ半分を占めるまでになっています。
一方で、サービスにはモノの2倍の貿易コストがかかります。そしてこれらのコストの40%は、不透明な規制や煩雑な手続きに由来するものです。
世界のサービス貿易の90%以上を担う世界貿易機関(WTO)加盟国66カ国は、他の市場への輸出を望むサービスプロバイダーが抱える実務的な課題に対処するための合意に達しました。
WTOの代表的なReference Paper on Services Domestic Regulation(サービスの国内規制に関する付属書)の中に明文化されたこの協定は、サービスプロバイダーの業務を妨げる煩雑な手続きを削減することで、サービス貿易を促進します。また、この協定は、認可および資格取得の要件や手続き、技術基準がサービス貿易の不必要な障壁とならないようにすることを目的としています。
目的達成を目指し、この協定は以下の3つの主要分野でサービス貿易を促進します。
透明性の向上
この協定では、認可料、問い合わせ先、認可基準、技術基準など、事業者が認可のための要件と手続きを遵守する上で必要なすべての情報を関連当局が公開することとしています。また、加盟国は、サービスプロバイダーからの問い合わせに対しても適切な方法で対応することが求められています。
重要なのは、この規律によって、規制の意思決定プロセスにサービスプロバイダーが関わる機会が増えること。法律や規制の草案が採択される前に公表され、関心のあるサービスプロバイダーが意見を述べる機会が設けられることになります。
認可要件および手続きの法的確実性と予測可能性
この協定には、ライセンスおよび認可プロセスにおいて、関連当局が遵守すべき最低限の保証事項が盛り込まれています。これには、申請を処理するための目安となる期間、申請の状況や決定に関する情報の提供、申請が却下された場合の再提出の可能性など複数の要素が含まれます。さらに、サービスプロバイダーのコンプライアンスを促進するため、この協定では、新しい法律や規制の公表から施行までの合理的な期間を定めています。
規制の質と促進
この協定は、認可申請を扱う際の規制当局の独立性と公平性を求めることで、規制当局による意思決定の改善を目指しています。また、電子申請や認証された文書の複写の受け入れも奨励し、認可料の透明性および合理性を保つこと、サービス提供の可能性を不当に制限しないことも求めています。
今回の協定により実現が見込まれる5つのことを、以下に紹介します。
1.貿易コストの低減
最近の経済協力開発機構(OECD)の調査結果では、付属書の実施による利益は、特に重要な基幹サービス分野において貿易コストの大幅な削減につながることが示されています。もしこれをG20諸国が実施すれば、3年から5年の間に最大6%の貿易コストを削減できることが期待されているのです。その効果は、認可プロセスや資格取得がより重要となる、規制の厳しい分野でより大きくなると考えられており、例えば、商業銀行(21%減)、通信(10%減)、保険(9%減)などが含まれます。また、コンピューターサービスの貿易も促進され(6%減)、専門的なサービスでは、エンジニアリング(6%減)と建築サービス(6%減)で同じように大きな効果が得られると考えられます。この節約効果は、中期的には1,400億ドル以上にも昇る可能性が見込まれています。
2.サービス部門の成長促進およびサービス貿易のさらなる活性化
最近のWTOの分析によると、この協定に定められた優れた規制を採用している国では、農業や製造業とは対照的に、サービス業のGDPへの貢献度が高まっています。サービス業の成長は、雇用の創出、競争力および生産性の向上、生産活動の多様化につながります。サービスの効率を高めれば、間接的に製造業における企業の競争力を高めることにもなります。
さらに重要なのは、この協定に従っている国は、サービス分野の規制が不十分な国に比べて、実質的に多くのサービスを貿易しているということです。経済の成長と発展には、サービス貿易が不可欠です。途上国にとって、サービス貿易はノウハウや技術力を高め、グローバルな競争力を獲得する機会にもなります。
3.グローバル・バリューチェーン(GVC)への参加率向上
最近のWTOの分析は、この協定のより多くの側面を適用している国ほど、バリューチェーンに積極的に関与している傾向があることを示しています。GVCへ参加することで、生産性の向上や輸出の多様化などの経済的利益が期待できます。さらに、GVCは雇用を促進し、知識や技術の進歩、スキルの向上、労働条件の改善など、さらなる波及効果ももたらします。GVCはサービスに大きく依存しているため、サービスの提供を規制する認可要件や手続きにおける障壁が、特に重要な要素となるのです。
4.中小企業や女性起業家へのメリット
非効率的で不透明な規制のコストは、不透明な手続きを進める上で限られたリソースしか持たない中小企業にはより重くのしかかります。それにより、多くの場合、中小企業や女性起業家の市場参入を困難にし、せっかくの有益なビジネスチャンスを逃してしまうことになるのです。世界中の企業が規制環境の透明性と予測可能性の向上を求める中、それが実現されることでいち早く利益を得るのは企業自身なのです。
5.WTOにおける貿易協力のためのより柔軟なアプローチの開拓
これは、共通の関心事を持つWTO加盟国のグループが、他の分野での見返りを承認の条件としようとする他の加盟国に阻まれることなく、問題に対処できることを示すきっかけとなるでしょう。もちろん、最恵国待遇の原則を遵守するためには、このような成果をすべてのWTO加盟国へと拡大しなければならず、また、既存のWTO協定の範囲内の課題もカバーするものでなくてはなりません。しかし、サービス市場へのアクセスのように、加盟国の数が多ければ、多くの国が取り組むことで前進させられる課題もたくさんあります。
多国間の自由化のレベルが1995年時点から進化していない中、過去25年間の自律的および地域的に実施されたサービスの自由化に法的安定性を付与するためのアップデートが、喫緊の課題となっています。
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