アジア太平洋地域の生物多様性の危機に対処し、ネイチャー・ポジティブな成長を促すには
インドネシアのマングローブは危機に瀕しています。
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COP26への道
地球温暖化に関する最新の気候変動に関する政府間パネル(IPPC)の報告書は、気候の非常事態への対応を加速することが不可欠であると改めて訴えています。私たちはこのモメンタムを利用して、気候変動、生物多様性の喪失、土壌劣化という複数の危機が絡み合った現在の状況に対処しなければなりません。この脅威は、世界の生物多様性の危機の中核となっており、世界人口の3分の2が住むアジア太平洋地域では特に深刻です。
アジア太平洋地域では、地球上で他に類を見ないほど生物多様性に富んでいます。しかし、最近の予測では、今世紀末までに東南アジアの全生物種の42%が失われ、そのうち少なくとも半分は地球規模での絶滅につながると言われています。このまま自然喪失のペースが加速すれば、想像を絶するインパクトをもたらすでしょう。アジア太平洋地域の自然の喪失は、自然資本に依存する経済活動に深刻なダメージを与え、この地域のGDPの63%(19兆米ドル)をリスクにさらすことになります。これは世界平均を上回るパーセンテージです。
自然の衰退に歯止めをかけるには、全てのステークホルダーが共通の意思を持つことに加え、巨額の資本とイノベーションが不可欠です。自然や生物多様性への投資は、経済的にも生態学的にも、移行に伴う短期的なコストを大きく上回る効果をもたらす可能性があります。
テマセク社が世界経済フォーラムとアルファベータ社と共同で発表した新しいレポート「ニュー・ネイチャー・エコノミー:アジアの次の波(New Nature Economy: Asia's Next Wave)」では、この地域のわずか59のネイチャー・ポジティブな(自然を優先する)事業に投資することで、2030年までに年間4.3兆米ドルの収益と2億3,200万人の雇用を創出することがきるとしています。これは、2019年のアジア太平洋地域のGDPの14%に相当します。
都市化の進展による影響
都市化の進行に伴い、アジア太平洋地域の主要な社会経済システムのうち3つのシステムが、絶滅危惧種および準絶滅危惧種の85%を危険にさらすことになる予測されています。
3つのシステムとは、食料、土地、海洋利用のことで、地域のGDPの40%、雇用の60%をこれらのシステムが占めています。これは世界平均を大きく上回る数字です。特段の対策をとることなく増大する世界的な需要に対応しようとすれば、自然が大きな犠牲を強いられることになるでしょう。例えば、この地域では、土壌劣化や不適切な農法によって農業の収穫量が低下しており、東南アジアの野生の魚介類は乱獲の危険にさらされています。
また、インフラや建物環境の整備が急速に、時に無計画に行われてきました。環境リスクの高い上位100都市のうち99都市がアジア太平洋地域に存在し、今後10年間で5億5,000万人以上の人口増加が見込まれていることから、この状況を野放しにすれば、建物環境の拡大による生物多様性と自然の喪失は悪化の一途をたどることになるでしょう。
さらに、急速な都市化と人口の増加に対応するため、エネルギー需要と物質消費量が急増し続けています。再生可能エネルギーのようなクリーンな選択肢を採用しても、かなりの面積の土地を使用するため、十分に計画を練った上で実行することが重要です。森林や農地への影響を最小限に抑えるためには、影響の少ないエネルギーの導入を促進するための補助金やインセンティブプログラムと、土壌へのインパクトが大きいプロジェクトに対して影響の軽減義務を課すことが必要でしょう。
自然への投資の促進
国や企業は、野心的な炭素排出量ネット・ゼロ目標を宣言していますが、同様に、自然や生物多様性への投資にも意欲的でなくてはなりません。今こそ、生物多様性の喪失のネット・ゼロを目指すべき時です。アジア太平洋地域でネイチャー・ポジティブな経済を実現するには、年間1兆1,000億米ドルの資本投資が必要で、そのうち45%は再生可能電力の拡大、建物のエネルギー効率や持続可能な交通インフラの改善に必要です。
このような投資を阻む主な要因は、規制の問題、市場の障壁、情報格差、投資を支援し可能にする環境の欠如などです。
幸いなことに、企業やコミュニティのリーダーたちがすでに協力し合い、科学的研究に裏打ちされた自然に基づくソリューションや生物多様性ビジネスへの投資をアジア太平洋地域で活発化させようとしています。こうした取り組みには、新たな外部性価格付けモデル、生物多様性報告基準の改善、新しい金融商品やメカニズム、国境を越えた炭素交換、自然エコシステムに関する地域社会との連携などが含まれます。
例えば、DBS銀行、シンガポール証券取引所(SGX)、スタンダードチャータード社、テマセク社の4社は、自然を活用した気候変動対策プロジェクトに基づく高品質な炭素クレジットを提供するために、新たな国際カーボン取引所「クライメート・インパクトX(CIX))」を設立。同時に、1,000社以上の企業がビジネス・フォー・ネイチャーの呼びかけに賛同・署名し、国連生物多様性条約(CBD)の「ポスト2020年グローバル生物多様性枠組」の一環として、自然に関連した世界的な持続可能性の道筋に沿った取り組みを行っています。
日本は、アジアで初めて炭素税を導入した国として、こうした取り組みをリードする機会を得ています。特に、今後日本がリードできる課題としては、消費者の食品廃棄物の削減、自動車分野での循環型モデルの適用、ネイチャー・ポジティブな再生可能エネルギーの促進、家電製品や電子機器での循環型モデルの追求があると考えられています。
この数十年の間に、アジア太平洋地域では10億人以上の人々が極度の貧困から脱却しましたが、その開発は自然資本を犠牲にして行われてきました。私たちは繁栄を共有し続けていく必要がありますが、過密化した地球上では、次の成長の波は根本的にネイチャー・ポジティブであることが絶対に欠かせません。
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