プラットフォーム競争問題への取り組みには、デジタルリテラシーの向上が不可欠
デジタルリテラシーの向上は競争に関連した規則や規制を整理する鍵となる Image: Pexels.
Pinar Akman
Professor of Law, Director at Jean Monnet Centre of Excellence on Digital Governance, University of Leeds最新の情報をお届けします:
デジタルエコノミー
- デジタルプラットフォームに対する競争当局や規制当局の監視の目が、ますます厳しくなっています。
- 同時に、多くの消費者はこれらのプラットフォームがどのように資金を調達し、データを利用しているのかについてよく理解していません。
- オンライン・プラットフォーム市場を効果的に機能させるためには、ユーザーのデジタルリテラシーを向上させる必要があります。
私が実施した最新の調査によると、インターネットユーザーの10人中8人は、1カ月間検索エンジンを利用する代金として、マクドナルドの食事代1回分に相当する5ドルも払う気がないことが分かりました。しかし、そのようなユーザーの多くが利する検索エンジンを運営する企業は、昨年1,800億ドル以上の収益を上げており、そのほとんどをユーザーへの広告表示によって得ています。競争当局や政治家の厳しい視線がデジタルプラットフォームに注がれる中、どのような政策を優先させるべきでしょうか。
ユーザーは、検索エンジンやSNSなど無料のオンライン・プラットフォームが提供するサービスの実質的な価値を認めていながらも、プラットフォームの選択にあたっては、受けられるサービスの価値よりも、無料であることを優先している可能性があります。私の調査では、デジタルリテラシーの低さについても明らかになりました。例えば、大多数のインターネットユーザーは、検索エンジンやSNSを無料で利用できるのは、広告主が広告を表示するためにプラットフォームに代金を支払っているためであることを知らないのです。
一部のプラットフォームがパーソナライズされたターゲット広告を促進する目的で、ユーザーとその活動に関するデータを収集しているということを知ると、それを好まないと答える回答が最も多いことが分かりました。
最も人気のあるインターネットサービスの一部について、消費者サイドにこのような特徴があるということは、数千億ドル規模の市場が機能しているということ自体に問題があると考えられます。
「レモン市場」における競争とは
競争力があり機能している市場であれば、消費者が既存のものとは異なる製品やサービスを求めた場合に、新規事業者が市場に参入したり、既存の事業者がその需要を満たすように製品を調整したりします。競争力のある市場によって、より高い品質の製品、より多くの選択肢、そして、より低価格が実現するということになっています。一般的に、プラットフォームのユーザーは、自分が利用しているプラットフォームサービスの大半について、提供されている品質、選択肢、価格の組み合わせに満足しています。しかし、製品の品質が不確かな上、買い手と売り手との間で情報の非対称性が存在する市場では、市場に残っているのは安くて品質の悪い商品(レモン)のみとなる可能性があります。
ノーベル賞受賞者のジョージ・アカロフ氏は、中古車市場を使ってこの点について説明しました。中古車市場では、中古車の良し悪し(レモン)に関して買い手が持っている情報は売り手よりも少ないため、中古車全体の価格が下がります。そのような場合、高品質の中古車の販売価値が下がり、品質の悪い車が高品質の車を市場から追い出してしまうのです。このように、オンライン・プラットフォーム市場の競争力は、ユーザーの選択がデジタルリテラシーの欠如によって大きく阻害されているかどうかによって決まります。十分な情報を得ずに意思決定を行うユーザーの数がどこまで増えると、一部のオンラインサービスにおいてレモン市場が形成されるのでしょうか。オンライン・プラットフォームがどのように運営され、収益を上げているのかを理解していれば、多くのユーザーが、今とは異なる選択をするのではないでしょうか。こうした疑問に答えることは、オンライン・プラットフォーム市場の競争力を高めるための政策や規制上の解決策を策定する上で不可欠です。
デジタルリテラシーの重要性
現在は、膨大な知的エネルギーと社会的資源がデジタルエコノミーの課題解決に注がれています。競争政策、競争促進のための規制、データ保護は、政府の重要課題となっています。政府の選択肢は多額の罰金を科すものから、インターネットを水道や電気と同等にみなして一定の行為を禁止する公益事業型の規制まで多岐にわたります。デジタルリテラシーは、消費者がプラットフォームサービスを利用する際に、オンラインで何を「消費」しているのかを知り、理解し、十分な情報を得た上で意思決定を行うことを保証するための鍵となりますが、デジタル市場の競争力を強化するための議論にこの点はほとんど考慮されていません。
政策立案者はほとんどの場合、消費者ではなく、既存企業と競合する他の企業に競争上の恩恵をもたらすことで市場を再編成するという手法をとっており、プラットフォーム市場が、製品やサービスが最終的に「消費」されるためにエンドユーザーに提供される市場であるという見方をしていません。このような手法は失敗するリスクがあります。自分が何を買っているのかを市場の買い手がいつになっても気づかないようであれば、売り手が2人でも20人でも関係ありません。そのような市場における売り手の数、つまり競争相手の数は、その市場で競争がどれだけ効果的であるかを知る目安にはほぼならないのです。
ここではっきりさせたいのは、デジタルリテラシーの向上とは、人々がウェブサイトにアクセスするたびに、より多くのボックスにチェックを入れるよう求めることではありません。それは傷口に塩をすり込むようなものです。デジタルリテラシーとは、インターネット上で十分な情報に基づいた選択をするためのスキルを若いうちから身に付けることです。例えば、検索エンジンが表示する結果はどのようにランク付けされているのか、ソーシャルメディアのプラットフォームに出てくるニュースがなぜ表示されているのか、オンライン上の多くのサービスの利用が無料なのはなぜか、自分のデータはどのように利用されているかなど、日常生活の一部となっているサービスについて、当たり前の事実を理解するための基本的なデジタルスキルを誰もが身につけられるようにすることなのです。デジタルリテラシーを向上させる一つの方法は、学校でのデジタルスキル教育を義務化することです。また、コミュニティセンターや社会人向け教育プログラムに資金を提供する、テレビで啓蒙的な広告キャペーンを行う、特定のウェブサイトに分かりやすい言葉で目に留まる情報表示を義務付けるなど、さまざまな対策が考えられます。
人々のデジタルリテラシーを向上させることは、確かに「大手テクノロジー企業の解体」といった選挙公約ほど訴求力があるものではありません。しかし、人々がより多くの情報に基づいてオンラインで選択できるようになれば、社会に大きな投資効果をもたらすことができます。政策立案者、規制当局、各国政府は、デジタルリテラシーの欠如を体系的に解決しないことには、競争政策、データ保護、消費者保護の分野でその場しのぎの対策をとっても長期的には何の解決にもならないことを認識すべきでしょう。
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